【掌編小説】感謝強迫
家のインターホンが鳴った。動画を見ながら笑っていた顔を真顔に戻し、玄関に向かう。ドアを開けると、すぐに明るい声が聞こえてきた。
「やっほー! 誕生日おめでとう! プレゼント先に渡しにきた!」
「ありがとう! 嬉しい!」
僕はプレゼントを受け取り、彼女に笑顔を向けた。彼女も同じように笑顔を返してくれた。
「喜ぶと思った! こういうの好きそうだもんね!」
「まだ中身見てないけどね!」
「あ、そっか!」
玄関からマンションの廊下に、僕たちの笑い声が響いているのがわかる。何度か笑い声が反響し、おさまった。家の中から、動画の中で誰かが笑っている声が微かに聞こえてくる。
「じゃあ、また夜ね!」
「うん、プレゼントありがと!」
「まだ序の口! 夜はもっとすごいから、楽しみにしてて!」
「楽しみにしてる! じゃあね!」
「うん!」
僕は彼女に手を振り、彼女が背を向けて歩き出したのを確認してから扉を閉めた。
家の中に戻り、プレゼントの中身を確認する。豪華な包装紙とリボン。見ただけでも、結構高いことがわかる。箱を開け、中身を取り出す。僕は中身をしばらく眺めた。
スマホを手に持ち、商品のブランドを検索し、彼女からのプレゼントを探した。
「あった」
書かれている値段を見つめていると、僕は自然と笑顔になれる。今さっき、僕はこの値段に見合った笑顔を彼女に見せられていただろうか。たとえ、演技だとしても。
僕はプレゼントを机に広げたまま、洗面所に向かった。今、鏡に映っている僕の顔は笑っている。でも、笑っている気がしない。さっき彼女に向けた笑顔は、もう少し口角が上がっていた気がする。歯に空気が触れ、唇とくっつく感じも、もう少しした気がする。
僕は彼女に、十分に感謝できただろうか。口角が段々下がってくる。
彼女から愛を受けるたびに、僕は上手く笑えなくなっていく。
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