【掌編小説】罪悪感の分散
オフィスの休憩室のテーブルに昼食を広げ、スマホをいじりながら食べる。目の前に座っている同僚は、スマホを真剣に見つめている。同僚がスマホを机に置いた。私はその音に反応して同僚の顔を見た。
「なあ」
「ん?」
目が合うと、同僚は私に顔を近づけて呟いた。
「今から言うこと、誰にも言わないでくれる?」
「え、あぁ。うん」
同僚はスマホを手に取り、LINEの画面を開いて私に見せた。そこには、同僚の家庭事情のことが書かれていた。
「え、どうすんの?」
「まだわからん。だから誰にも言わないでほしい」
「わかったけど。大丈夫なの?」
「まあ。仕事は仕事だし」
「そっか」
私たちは昼食を食べ終え、仕事に戻った。
デスクに向かい、パソコンの画面を見つめる。心が重い。パソコンの画面に映っている文字列が、何かの記号にしか見えない。さっき同僚から聞いた秘密も、こんな記号のように見えて、秘匿性の高い何かとして、私の中に静かに沈んでいてくれればいいのに。
脳裏にはさっき見せてもらったLINEの文字列が鮮明に映し出されている。消そうとするたび、文字列の輪郭が濃くなっていく。
「どうしたの? 手、止まってるけど」
隣の席の同僚が話しかけてきて、私は慌ててノートパソコンを閉じた。
「あぁ、いや、何も」
「え、なに? なんかあったでしょ?」
「まあ」
「自販機コーナー行こ。その間に聞く」
私は椅子から立ち上がり、隣の席の同僚と自販機コーナーに向かった。自販機の前に着くまで、私は何も話さなかった。
「実はさ」
その一言を口にした途端、続きを止める理由がなくなった。
言葉が口から一つ出るたびに、腫れ上がっていた脳みそから空気が抜け、痛みが消えていく。それでも、心は重いまま。それだけが不快だった。
私は別の同僚や上司に同じ話をした。
夕方、私が顔を上げるたび、誰かが同僚から視線を逸らしていた。私も同じように同僚の顔を見つめると、目が合ってしまった。同僚が席を立ち、私の元に向かってくる。
「なあ」
「ん?」
「誰にも言わなかったんだな」
「え?」
「さっき話したこと」
「あぁ、うん」
「ありがと。仕事に影響出てなくて助かるよ」
同僚は私に笑顔を見せた。
さっきまで抱えていたものとは違う痛みが、私の頭と心に残った。
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