【掌編小説】代償を
「コンペ勝ったって!」
「おお、そうですか」
上司が私のデスクにノートパソコンを置いて、画面を指でなぞりながらメールの内容を読み上げた。所々、声を弾ませながら。
「お前のおかげだよ。このプロジェクト頑張ろうな」
「はい。頑張ります」
上司が私に笑顔を向ける。私は笑って返した。
上司がノートパソコンを持って、自分のデスクに帰っていく。私はその背中を見つめた。
上司が他の社員にも報告をしている。私に一番最初に報告した意味は何なのだろうか。
オフィスが段々うるさくなってきた。歓喜の声を聞いていると、数か月後に聞こえてくるであろう誰かの愚痴が脳内に響き出す。
私は目を瞑った。音はうるさい。でも、身体の力は抜けている。なのに、脳みその中を電気信号が走り続け、色々なホルモンが流れている感覚がする。いつも、身体だけがついてこない。
「休憩してきます」
「あ、うん。ごゆっくり」
私は隣の席の同僚に声をかけ、席を立った。
オフィスの自販機コーナーに向かい、並んでいる飲み物を眺めた。財布から小銭を取り出し、自販機の中に入れる。ボタンを一つ押すと、重い音を立ててペットボトルが落ちてきた。近くのベンチに腰をかけ、蓋を開けて一口だけ、喉に流し込む。
冷たいプラスチックの容器から流れ込んでくる液体は、自分が数ヶ月かけてすり潰し、商品として切り売りした脳漿を、自分の体内に戻しているような奇妙な味がした。
社用のスマホをポケットから取り出し、コンペで使用した資料を眺める。こんなものは、自販機に並んでいる飲み物みたいなものかもしれない。
自販機にはたくさん資料が並んでいた。その自販機にクライアントはお金を入れ、たまたま私が作った資料のボタンを押した。
このプロジェクトは、何と引き換えに私の前へ転がってきたのだろう。
自販機にお金を入れれば、飲み物が手に入る。本当は欲しくもないのに。
私はあとどれくらい、代償を払い続ければいいのだろう。
P.S
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