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ケーブルメーカーのHVDC海底線製造能力を推定してみる

前回の記事では、HVDC海底ケーブルの需要が今後どの程度発生するのかを、プロジェクト単位で積み上げて概算した。

今回は逆に、

「その需要を、ケーブルメーカーはどの程度供給できるのか?」

という供給側の能力を考えてみたい。

ただし、ここには一つ大きな問題がある。

ケーブルメーカーの「年間製造能力○○km」という数字は、必ずしも公表されているわけではない。

そこで今回は、代表例としてPrysmianを取り上げ、公開情報から製造工程を分解し、525 kV・2,500 mm²級のHVDC海底ケーブルを年間どの程度製造できるのかを試算してみる。

なお、ここで求めるのは「年間出荷可能長」ではない。

ケーブルは製造したからといって、そのまま船に積んで出荷できるわけではない。布設船のスケジュールや完成品の保管能力など、製造後の制約も存在する。

今回はあくまで、

絶縁工程を中心とした、純粋な製造能力の概算

を試みる。


1.PrysmianのHVDC海底ケーブル製造拠点

Prysmianは世界有数の海底ケーブルメーカーであり、公式情報によれば、イタリアのArco Felice、フィンランドのPikkalaなどを海底電力ケーブルの製造拠点としている。

Arco Feliceは紙絶縁、XLPEなどに対応し、HVDCは600 kVまで対応する。PikkalaはXLPEに対応し、HVDCは525 kVまで対応している。設備としては、Arco Feliceに2つのCCVと2つのラッピングライン、Pikkalaに1つのCCVと2つのVCVがあるとされている。

ここでは代表的な仕様として、

525 kV、2,500 mm²、単心HVDC海底ケーブル

を仮想的な標準製品として考える。

525 kV級は、現在のHVDC市場で重要性が高まっている電圧クラスである。Prysmianも525 kV HVDC押出海底ケーブルシステムを開発・試験しており、2 GW超の双極システムへの適用を想定している。

2.まず「年間製造能力」をどう考えるか

ケーブルの製造工程を単純化すると、

導体 → 絶縁 → 遮蔽・シース → 防食 → 鎧装 → 試験 → 出荷

という流れになる。

このとき、年間製造能力を単純に「最も速い工程」で考えてはいけない。

例えば導体を高速で製造できても、絶縁工程が遅ければ、そこがボトルネックになる。

さらに実際の工場では、

  • 工程間の待ち

  • 段取り替え

  • 設備メンテナンス

  • 試験待ち

  • ドラム・ターンテーブル待ち

  • 完成品の保管

  • 布設船の到着待ち

などが発生する。

CCIがThe Crown Estate向けに実施したケーブル製造能力調査[1]でも、工場ごとにボトルネックが異なり、押出設備、lay-up machine、loadout berthなどが能力を制約する例が示されている。また、工場計画では工程間の待ち時間を最小化する必要があるとされている。

したがって、理想的な製造能力と実際の製造能力は分けて考える必要がある。

3.XLPEケーブルの線速推定

まず、比較的計算しやすいXLPEから考えてみる。

XLPEでは、絶縁体を押出機から連続的に押し出し、その後VCVなどで架橋する。

ここでは、

絶縁体の押出量が一定なら、絶縁断面積が大きくなるほど線速は低下する

と仮定する。

参考として、150 mm²級ケーブルについて、

  • 絶縁内径:14.1 mm

  • 絶縁外径:27.2 mm

  • 線速:9.5 m/min

というデータがある[2]。

一方、今回想定する525 kV・2,500 mm²級ケーブルでは、

  • 絶縁内径:64 mm

  • 絶縁外径:124 mm

と仮定する。

絶縁断面積は、

$$
A=\frac{\pi}{4}(D_o^2-D_i^2)
$$

なので、

$$
\frac{A_{525kV}}{A_{150mm²}}
$$

$$
\frac{124^2-64^2}{27.2^2-14.1^2}
\approx20.85
$$

となる。

したがって、押出機の材料供給能力が同じだと仮定すれば、

$$
9.5/20.85
\approx0.46\ {\rm m/min}
$$

となる。

つまり、今回の想定ケーブルの絶縁工程の線速を約0.46 m/minと置く。

4.XLPEケーブルの理論製造能力

Pikkalaには2つのVCVがある。

そこで、2ラインが今回の525 kV級製品に専用で使えると仮定する。

年間の理論製造長は、

$$
0.46
\times60 
\times24
\times365
\times2
$$

で、

約484 km/年

となる。

もちろんこれは「24時間365日、停止なし」で動かした場合の数字である。

5.XLPE絶縁工程の稼働率推定

実際の工場では停止が発生する。

ここでは仮に、

  • 操業停止:14日/年

  • 定期メンテナンス:4日/年

  • 異常対応:14日/年

とする。

さらに、XLPEでは材料の押出量に応じた清掃・材料切り替えが必要になると仮定する。

今回のケーブルでは絶縁体の断面積から、絶縁体重量は約8.1 t/kmとなる。

したがって100 tを押し出すごとに清掃するとすれば、

$$
100/8.1\approx12.4km
$$

ごとに清掃が発生する。

年間約484 kmを製造する場合、清掃は年間約39回。

1回6時間とすると、

約4.8日/年

となる。

したがって稼働率を、

$$
\frac{365-14-4-14-4.8}{365}
$$

とすれば、

約0.90となる。

結果として、

$$
484\times0.90
\approx435km/年
$$

程度となる。

したがって今回の単純モデルでは、

525 kV・2,500 mm²級XLPEケーブルについて、Pikkalaの2 VCVを専用的に使えた場合、年間400~500 km程度

というオーダーが得られる。

ただし、これはあくまで「絶縁工程をボトルネックとした理論モデル」であり、実際には他製品とのライン共用や試験・保管能力などによって低下する可能性がある。

6.MIケーブルは案件事例から製造能力を推定

一方、MI(Mass Impregnated)ケーブルについては、XLPEと同じ方法で製造能力を推定することが難しい。

MIケーブルでは、紙テープを導体の周囲に何層も巻き付けて絶縁体を形成する。500 kV級では数百層の紙を使用する例もある。

当初は、設備メーカーBartellの資料に記載された8 m/minという線速をMIケーブルの絶縁工程に適用し、

8×60×24×365×2

として年間約8,400 km、稼働率を考慮して約7,700 km/年という能力を試算していた。

しかし、これは採用できない。

Bartellの8 m/minという数値はMIケーブルの紙絶縁ラッピング工程ではなく、tensile armouring machineなど別の設備に関する仕様であり、この数値をMIケーブルの絶縁線速として使用する根拠はない。

さらに、MIケーブルのラッピング工程は「300層だから300倍遅い」というほど単純でもない。ラッピングラインは複数のラッピングヘッドから構成され、複数本の紙テープを並列して巻き付ける構造になっている。つまり、紙テープの層数だけからケーブルの前進速度を決めることはできない。

そこで今回は、MIについては設備の最大線速から理論能力を算出する方法を取りやめ、実際の製造期間から能力のオーダーを把握することにした。

Cable Consulting International(CCI)がThe Crown Estate向けに実施したケーブル製造能力調査には、320 kV MIケーブルについて、600 kmの製造に24か月という事例が掲載されている。これは単純計算で年間約300 kmに相当する。

もちろん、この数字をそのままPrysmianの525 kV・2,500 mm²級MIケーブルの能力とみなすことはできない。2012年の事例であり、電圧・設備・製造条件も異なるためである。

しかし少なくとも、

「MIケーブル2ラインで年間7,000 km以上」という当初の試算は、明らかに過大である

と判断できる。

Prysmianの実案件を見ても、Arco FeliceではNorth Sea Link向け約950 kmのMIケーブルや、Viking Link向け約1,250 kmのケーブルを複数年にわたって製造している。Viking Linkでは、3年間にわたる製造に加え、完成品を保管するための追加スペースまで必要となった。

したがって、今回の分析ではMIケーブルについて、特定の線速を仮定して年間製造能力を一点推定することはせず、公開事例から「年間数百km程度」というオーダーを把握するにとどめる。

7.今回の試算から分かったこと

ここまでの検討を整理すると、次のようになる。

ここで重要なのは、「じゃあMIは年間何kmなのか」という問いに対して、無理に数字を置かないことである。

公開情報から確認できるのは、

MIケーブルの製造能力は、少なくとも「8 m/min」という線速をそのまま年間換算した数千km/年という規模では説明できない

ということ。

一方で、CCIの過去の業界調査では、320 kV MIケーブル600 kmの製造に24か月を要した例があり、年間300 km程度というオーダーが示されている。

525 kV級ではさらに条件が厳しくなる可能性がある一方、製造設備や工程管理も2012年から進歩している。

したがって現時点では、

「MIは年間数百km/年程度というオーダーで考えるのが妥当そうだが、Prysmianの525 kV級について公開情報だけから具体的な年間能力を確定することはできない」

というところまでを結論とするのが妥当だろう。

8.「年間○○km」という数字より重要なこと

今回の検討で、むしろ重要だと思ったことがある。

それは、

ケーブル工場の能力を単純に「線速×24時間×365日」で計算することには限界がある

ということだ。

実際のケーブル工場では、

絶縁工程

だけでなく、

乾燥・含浸、シース、防食、鎧装、試験、保管、船積み

などが連鎖している。

さらにPrysmian自身も、Arco Feliceについて、ケーブルは案件ごとにカスタマイズされ、工場ではプロジェクトに応じて生産ラインや人員を調整していると説明している。

つまり、

$$
\text{年間製造能力}
\neq
\text{単一工程の理論線速}
$$

なのである。

むしろ、

$$
\text{年間能力}=
\min(
\text{絶縁能力},
\text{含浸能力},
\text{試験能力},
\text{保管能力},
\text{その他工程能力}
)
$$

という考え方の方が実態に近い。

おわりに

前回の記事では、2026年以降のHVDC海底ケーブル需要を積み上げ、少なくとも向こう数年間は年間2,000~3,000 km規模の需要が発生する可能性を示した。

では、この需要をケーブルメーカーは実際に供給できるのか。

今回、代表例としてPrysmianの製造拠点を取り上げ、公開情報から製造能力を試算した。

その結果、PrysmianのXLPEラインについては、525 kV・2,500 mm²級を前提とした場合、絶縁工程を基準に年間約430 kmの製造能力があると試算された。

一方、MIケーブルについては、公開されている設備の線速をそのまま適用することはできなかったが、実際の製造事例などから、年間数百km程度の製造能力はあるのではないかと推定した。

つまり、今回取り上げたPrysmianの2拠点だけでも、

XLPE:約430 km/年
MI:年間数百km程度

という規模のHVDC海底ケーブル製造能力が存在する可能性がある。

もちろん、この数字はあくまで概算である。実際の工場ではHVDC海底ケーブル以外の製品も製造しており、ラインの稼働率や工程間の待ち、試験・保管などによって実際の出荷能力は変わる。

また、今回の試算はPrysmianの一部拠点を対象としたものであり、NKT、Nexans、LS Cableなど他の主要メーカーの能力を含んでいない。

それでも、前回試算した年間2,000~3,000 km規模の需要と今回の製造能力を並べてみると、ひとつの構図が見えてくる。

HVDC海底ケーブル市場では、需要そのものが巨大である一方、その需要を支えられるメーカーは限られている。

仮にPrysmian単体で年間数百~1,000 km弱の製造能力があるとすれば、年間2,000~3,000 kmという需要は、1社だけで到底まかなえる規模ではない。一方で、主要メーカー各社がそれぞれ数百km規模の能力を持つのであれば、複数社の製造能力を組み合わせることで成立する規模でもある。

つまり、HVDC海底ケーブルの需給逼迫を考えるうえでは、

「世界全体で何km作れるのか」だけでなく、「限られたメーカーが、どの案件に、どの程度の製造能力を割り当てられるのか」

が重要になってくる。

前回の記事で見たように、TenneTは複数案件を束ね、Prysmian、NKT、Nexansなどと長期的なフレームワーク契約を結んでいる。

今回の製造能力の試算と合わせて考えると、こうした調達方式は単なる価格交渉の手段ではなく、限られた製造能力を将来の大型需要にあらかじめ割り当てるための仕組みとも捉えられる。

需要側から見れば「年間2,000~3,000 km」。

供給側から見れば、それを複数の限られたメーカーで分担する。

この需要と供給能力の規模感を具体的な数字で並べてみることが、HVDC海底ケーブル市場の需給を考える第一歩になる。

参考資料

[1] Cable manufacturing capability study (Cable Consulting International Ltd, 2012)
[2] Modeling of the power cable production line(Kosar et al., 2007)



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