La Story(Les Echos)解説:フランス製カノン砲César──ウクライナ戦争での大活躍とKNDS上場延期、そして生まれ損ねた発明の物語
▶ 元エピソード: https://shows.acast.com/la-story/episodes/canon-caesar-pourquoi-cette-arme-francaise-tres-utilisee-en
2026年7月15日
概要
本稿はフランス経済紙Les Echosの日次ポッドキャスト番組「La Story」の2026年7月15日配信回を解説するものです。取り上げるのは、ウクライナ戦争で「戦場のスター」となったフランス製155mm自走砲César(セザール)と、その製造元であるKNDSの動向です。番組ではLes Echos記者のAnne Vidalie氏が、著書の調査取材をもとにCésarの誕生秘話と成功の理由を語っています。
Césarはウクライナ軍に120門が供与され、同国の戦場砲兵の中核を担っています。トラックに155mm砲を載せたこの自走砲は、安価で頑丈、機動性が高く、破壊されにくいという特性から高い評価を受け、フランスの兵器輸出における最大のベストセラーの一つとなりました。皮肉なことに、ウクライナ戦争そのものがKNDSにとって「最良のセールスマン」として機能しているのです。
しかし番組の核心は、この成功した兵器が「生まれる前に死にかけた」という点にあります。1990年代の冷戦終結後、軍縮の逆風のなかで一人の技術者が思いついたアイデアは、社内で何度も否定され、実射事故で一度は葬られました。それでも地方選出の政治家と国防大臣を巻き込んで復活し、やがて世界14カ国の陸軍に採用される製品へと成長していく経緯が語られます。
Césarとは何か──「雑食の砲」と呼ばれる理由
CésarはフランスのKNDSが製造する155mm自走砲で、ウクライナ軍からは「Omnivorous Gun(雑食の砲)」という愛称で呼ばれています。この砲には155mm口径のあらゆる砲弾を装填でき、ボタンを押すだけで最大40キロメートル先まで撃ち込むことができます。しかもその精度は、サッカー場半面程度、誘導弾であればセンターサークル程度という驚くべき水準だとVidalie氏は説明します。
Vidalie氏自身も自らを軍事の専門家ではないと断りつつ、この砲の歴史に魅了されたと語ります。多くのフランス人と同様、ウクライナ戦争が始まるまでCésarの名を聞いたこともなかったといいますが、その発明と実用化の物語は「見事なもの」だと評しています。
戦場で評価される理由──安価・頑丈・軽量
Césarの強みは複数あります。まず、電子機器を詰め込んでいない「やや素朴な」設計のため、戦場での修理が容易です。また搭載する砲弾と燃料が少なくて済むため車体が軽く、燃料消費も少なく、頻繁に給油する必要がありません。砲弾は事前に配置された弾薬(prépositionnées)から容易に再装填できます。
戦車や自走砲は本来、砲弾と燃料を積んだ「歩く爆弾」であり、被弾すれば大爆発を起こして甚大な被害を出します。この点でCésarは露出が少なく、ウクライナでの破壊率が格段に低いとされます。最新の数字では、キャタピラ式の装備が50%近い破壊率であるのに対し、Césarは15%にとどまっています。時速80キロメートルで走行できる高い機動性も、ウクライナの砲兵に愛される理由です。
価格は1門あたり500万ユーロで、決して安くはありませんが、ドイツの競合であるRCH 155と比べれば2倍半安いとVidalie氏は指摘します。
ウクライナ戦争という「広告」とKNDSの実力
Césarの成功はウクライナ戦争によって加速しました。フランスは同国に120門を供与しており、これは戦場砲兵の大部分を占めます。ウクライナ側はCésarのコピー版である「Bohdana(ボフダナ)」まで製造しており、これは「神の贈り物」を意味する名です。コピーを作るほど愛されているというわけです。
もっともCésarは戦争前から成功していました。2008年にフランス軍で運用が始まって以来、すでに800門が発注され、世界で最も輸出された砲兵システムとなっています。製造元のKNDSは、ドイツの防衛産業Krauss-MaffeiとフランスのNexterの合併から生まれた企業で、2025年には330億ユーロの受注を記録し、売上高は前年比約16%増の44億ユーロと推定されています。KNDSは戦車Leclerc(ルクレール)や各種装甲車両、弾薬も製造しています。
KNDSの上場延期
好調な受注を背景に、KNDSは株式上場(IPO)を計画していました。しかし2026年7月初め、KNDSは上場を延期する決定を下しました。理由として挙げられたのは、株式市場における防衛セクターの不振です。ドイツのRheinmetall(ラインメタル)は年初来でフランクフルト市場での価値を3分の1以上失っており、こうした環境が想定される評価額を押し下げたとされます。
KNDSの資本の半分を保有するBode-Wegmann一族は、125億ユーロを超える評価額を期待していましたが、より好ましい時期を待つ方を選んだとLes EchosのCorentin Chaperon氏は伝えています。
生まれ損ねた発明──技術者Philippe Girard氏の着想
番組の中心となるのは、Césarが「生まれる前に死にかけた」という物語です。この砲は、当時Giat Industriesと呼ばれていた企業の技術者Philippe Girard氏の頭の中で生まれました。
Girard氏は1990年にGiat Industriesに入社した若きエコール・ポリテクニック出身の兵器技術者でした。当時は東側諸国の自由化と鉄のカーテン崩壊で紛争が減り、兵器の需要も激減していた時代です。フランス陸上兵器の巨人であったGiatも経営難に陥っていました。砲兵部門の責任者となったGirard氏は、湾岸から戻った兵士たちと話すなかで「トラックに砲を載せられないか」というアイデアを思いつきます。
今でこそ当然に思えるこの発想も、当時は自明ではありませんでした。フランスにはトラックで牽引する砲(牽引砲)と、キャタピラ式の戦車砲はありましたが、トラック搭載型は存在しなかったのです。Girard氏がこのアイデアをGiat Industriesに提案すると、「重い砲を支えられるほど頑丈なトラックは見つからない」という理由で却下されました。
解決策をもたらしたのは、輸送システムを専門とするアルザスの企業LOHRでした。同社はMercedesのUnimogをベースに補強したプラットフォームを提案し、これが砲の重量を支えることを可能にしたのです。
Eurosatoryでの披露と実射事故による頓挫
疑念を抱えながらも、企業は1994年の防衛・安全保障見本市Eurosatoryにプロトタイプを出展します。Vidalie氏が取材で会ったGirard氏によれば、決して勝算のある賭けではなかったといいます。
そもそもCésarという名は、フランス語で「Camion Équipé d'un Système d'ARtillerie(砲兵システムを搭載したトラック)」の頭文字です。この砲はEurosatoryで驚きをもって迎えられ、サウジアラビアでの実地試験は順調でした。しかしカタールで実射事故が発生し、プロジェクト全体が棚上げされてしまいます。
もっとも専門家は今日、この事故が本当に致命的な技術的欠陥だったとは見ておらず、Giatがそもそもこのプログラムを打ち切りたがっていたのだと分析しています。20世紀末、冷戦は過去のものとなり「平和の配当」が語られる時代であり、Césarは廃棄されそうになっていました。
政治による復活──国防大臣を動かした地方議員
しかしCésarには救いの手が差し伸べられます。まず別の兵器技術者Pierre-André Moreau氏がプロジェクトを引き継ぎ、商業的発展を担って第2のプロトタイプを製作しました。
このプロトタイプが、シェール県選出の共産党議員Jean Sandrier氏を魅了します。Sandrier氏はGiatの元従業員であり、事情に通じていました。彼は2000年当時の国防大臣Alain Richard氏を説得することに成功します。Richard氏はCésarを国家予算、すなわち国防省予算に複数門計上することを決定したのです。
もっとも、陸軍参謀本部や兵器総局ではCésarは誰の心も掴んでいませんでした。「Alain Richardが不意打ちで買ったトラック」と揶揄され、「砲とトラックの不自然な交配の産物」という悪い冗談まで出回っていたといいます。
現場が下した評価と輸出の成功
風向きを変えたのは、実際にCésarを手にした現場の砲兵たちでした。Richard氏が発注した機体が初めて戦場に投入されると、砲兵たちはこの兵器が自分たちのニーズと要求に応えるものだと評価したのです。まさに「試せば採用したくなる」という広告文句どおりでした。
2009年7月14日、Césarは初めてシャンゼリゼ通りをパレードで下ります。その後まもなく海外の作戦地域へと展開し、アフガニスタン、レバノン、Serval作戦下のマリ、そしてイラクと、あらゆる戦域を経験しました。
輸出も好調です。2008年のサウジアラビアからの最初の発注以来、KNDSは800門の発注を記録し、記事執筆時点で400門が納入されています。サウジアラビアからクロアチア、デンマーク、インドネシア、モロッコまで、14カ国の陸軍に採用されました。2013年には利用国同士が戦術や整備について情報交換する「Césarクラブ」まで創設されています。
現在のところ、ウクライナのBohdanaやイスラエルのAtmosといったクローンもCésarの地位を脅かしてはいません。2026年10月には米国のペンタゴンが400門を発注する可能性も取り沙汰されており、イラクで実物を見て評価したためだとKNDS Franceの責任者は語っています。
製造拠点と生産能力の急増
Césarは完全にフランス製です。8メートルの砲身はBourges(ブールジュ)で製造され、Roanne(ロアンヌ)へ送られてシャシーに搭載されます。シャシー自体はLimoges(リモージュ)で、旧Renault Trucks DéfenseにあたるArquus社が製造しています。
Bourgesが拠点となっているのは古い歴史によるもので、KNDSの起源はフランスの陸上兵器廠にあります。最初の兵器工場は17世紀に生まれ、1971年にGIAT(陸上兵器工業集団)として統合されました。1990年に株式会社GIAT Industriesとなり、2006年にNexterと改称、2015年にドイツのKrauss-Maffei Wegmannと合併して現在のKNDSに至ります。
ウクライナ戦争は生産ペースを激変させました。2022年以前はBourgesの工場から月に2門(砲身2本)が出荷されるだけでしたが、現在は月10門に達し、受注がすべて確定すれば月15門まで引き上げる準備が整っています。さらに、ウクライナで最大射程で酷使される砲身は消耗が激しいため、砲身の交換という新たな市場も開けています。
兵器と「宣伝」の関係──Exocetの前例
番組では、兵器がこれほど注目され、称賛の対象となる現象の珍しさにも触れられています。かつてもトルコ製ドローンBayraktarには賛歌が作られ、ウクライナ紛争初期にロシア軍に恐れられました。Vidalie氏によれば、戦闘機のRafaleを別にすれば、これほど有名になった兵器は1982年のフォークランド紛争で名を馳せた対艦ミサイルExocet(エグゾセ)くらいだといいます。
Exocetは同年、アルゼンチンのシュペルエタンダール2機がこのフランス製ミサイルでイギリスの駆逐艦を撃沈したことで一躍有名になりました。Bourgesで組み立てられたこのミサイルは約20カ国に2000発以上が売られています。当時、François Mitterrand氏はMargaretThatcher氏のイギリスを支持し、アルゼンチンの軍事独裁政権によるフォークランド併合の試みに反対しました。
フランスは兵器の輸出大国であり、昨年は米国に次ぐ世界第2位の輸出国でした。かつては「醜いアヒルの子」であったCésarが、いまや兵舎のスターへと変貌を遂げたのです。
#フランス #経済 #LesEchos #KNDS #Rheinmetall #RHM #Renault #RNO #Mercedes -Benz #MBG #防衛産業 #軍事 #ウクライナ戦争 #フランス株 #兵器輸出 #IPO #自走砲 #フランス経済
