WSJ Take on the Week 解説:企業決算はバブルか──23%成長の謎・AI減価償却・銀行決算とK字経済
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2026年7月12日
概要
決算は年に4回、時計仕掛けのように訪れるルーティンですが、今四半期は特別な注目に値します。S&P500のEPS(Earnings Per Share=1株当たり利益)成長率のコンセンサス予想は前年同期比23.3%と極めて高く、これは2四半期連続の20%超、7四半期連続の2桁成長になる見込みです。通常、これほどの高成長はリーマンショックやCOVIDのような危機からの回復局面でしか見られませんが、今回は直前に大きな危機があったわけではありません。企業は本当に目の前で劇的に利益を伸ばしているのか、それとも「アーニングス・バブル(利益のバブル)」に入っているのか──これが本エピソードの核心です。
ゲストは以前も出演したWall Street Horizon(TMX傘下)のリサーチ責任者Christine Short氏。Talis Demos氏とMiriam Gottfried氏が、この高成長を支えているものの正体を掘り下げます。半導体を巡る「世代間キャッシュフロー移転」、AIによる効率化と会計マジック、AIチップの減価償却期間の曖昧さ、そしてK字型に分岐する消費者経済──さまざまな論点が交錯します。
決算で市場が特に注目するのは、TSMC($TSM)などの半導体、ヘルスケア、そして銀行です。銀行は景気の先行指標とされますが、今回はむしろウォール街のトレーディング・IPO業務が主役になりそうだ、という見立てが示されます。
最後に「アーニングス・バブル」という新しい言葉を巡って議論が交わされます。利益はいずれハードデータで答えが出るものですが、会計調整や減価償却の扱い次第で数字が人為的に膨らんでいる可能性がある──だからこそ今四半期は「テスト」になる、という結論です。
半導体を巡る「世代間キャッシュフロー移転」
市場は今、半導体に取り憑かれています。TSMC($TSM)をはじめとする半導体メーカーは、AI革命に不可欠なチップの供給不足を背景に強い価格決定力を持ち、収益性が急激に改善しています。
Bank of America($BAC)が示した印象的なチャートがあります。彼らはこれを「世代間の富の移転(generational transfer)」と呼びました。通常「世代間の富の移転」といえばベビーブーマー世代からミレニアル世代への資産移転を指しますが、ここで言うのはハイパースケーラー企業、つまりMeta($META)やAlphabet($GOOGL)、Amazon($AMZN)から半導体企業へのキャッシュフロー移転です。ハイパースケーラーが持っているカネを、そっくりチップ購入に注ぎ込んでいる構図です。フリーキャッシュフローの線が、一方は真上を、もう一方は真下を指すようなチャートになっています。かつては逆で、ハイパースケーラーがキャッシュを生み出し、半導体メーカーは彼らの意向に振り回される不安定な立場でした。
ただし市場は先を読む仕組みです。この現象は誰もが知っているため、問題はここから先どうなるかです。半導体の値動きは最近やや荒っぽくなっています。Samsung($005930)が予備的な決算(韓国企業が本決算前に出す速報値)で記録的な営業利益を示し、利益は約1800%増でしたが、株価は7〜8%下落しました。韓国のKOSPI指数は先週、一時的にテクニカルには弱気相場入りするほど下げました。利益が過去最高なのに、なぜこうなるのか。
Gottfried氏は「上がったものは下がる」という見方を示します。利益がこれほど急上昇すると、永遠には続かないという感覚が生まれます。しかも、この利益を支払っているのはハイパースケーラーであり、彼らのキャッシュフローから出ている以上、価格には上限があります。Amazonが先週起債した社債の市場の反応も「まずまず」に留まったのは、この持続性への疑問の表れです。
さらに市場の頭にあるのが中国のメモリ参入です。DRAMなどを作るメーカーは世界に数社しかなく、中国は輸出規制などの理由で歴史的に大きな参加者ではありませんでした。しかし中国企業がより低コストで自前のチップを市場に投入し始めるのではないか、という見方が強まっています。需給の法則からすれば、これだけ需要があれば誰かが供給に乗り出すのは当然で、いずれ何かが動く、というわけです。今市場で起きているのは、こうした懸念が断続的に価格に織り込まれていく過程なのかもしれません。
ヘルスケアだけが減益予想──その正体
今週から決算を発表するグループのなかで、11セクター中10セクターが増益を見込むなか、唯一減益が予想されているのがヘルスケアです。Johnson & Johnson($JNJ)、United Health Group($UNH)、Abbott($ABT)などが報告予定で、FactSetによればヘルスケアは第2四半期に最大の減益が見込まれています。
GLP-1(肥満症治療薬)などで堅調なイメージのあるヘルスケアがなぜ減益なのか。The Wall Street Journalのヘルスケア担当記者David Wehner氏の説明によれば、その一因は技術的なものです。大手バイオ製薬企業のGilead($GILD)が過去のM&Aに関連する会計調整、つまり一時的な費用計上を行っており、これが本業の需要ドライバーとは無関係にバイオテク、ひいてはヘルスケア全体の四半期の軌道を変えている可能性があります。
23.3%成長を支えるものと会計の疑問
Christine Short氏によれば、FactSetのS&P500のEPS成長率コンセンサスは23.3%。売上高も12.2%成長と悪くなく、11セクターすべてがプラス成長を見込みます。特徴的なのはアナリストが予想を3.4%引き上げている点で、これは2021年第1四半期以来、5年ぶりの上方修正幅です。通常、企業は保守的なガイダンスでハードルを下げ、アナリストは予想を引き下げるのが常なので、これは異例です。
その背景には企業側の強気ガイダンスがあります。ガイダンスを出した111社のうち63社がポジティブ、48社がネガティブで、ポジティブは5年ぶりの多さ、ネガティブは5年ぶりの少なさです。企業がこれほど前向きな理由の多くはAIによる効率化にあります。売上成長も12%と力強い一方、サプライチェーンや在庫の最適化、COVID期の過剰採用の解消といった「贅肉を削ぎ落とす」オペレーション上の耐久力が効いています。
ただしDemos氏は、贅肉を削り終えたら次はどこを削るのか、これが持続的な利益成長の手法として市場は期待しすぎではないか、と疑問を呈します。
Short氏はもう一つの論点として会計を挙げます。The Wall Street JournalのコラムニストSpencer Jakob氏が書いた論点で、企業が調整後利益を出す際に使う「一時的費用」が、実は毎四半期のように現れて利益を水増ししている可能性があります。合法で基準に沿ってはいるものの、本当に一度きりなのか、という問題です。
具体的な論点は二つあります。一つは、OpenAIやAnthropicといった未上場のAIユニコーンに大きな出資をしている巨大テック企業が、これらの企業がより高い評価額で資金調達するたびに営業利益を計上している点です。Jakob氏の記事でフロリダ大学のWang教授が「循環的評価ループ」と呼んだもので、好決算が未上場企業への期待を高め、それがまた好循環を生み、自らを養い続ける構図です。これを正しく計上しているのか、減価償却を付すべきなのかは分かっていません。
AIチップの減価償却という時限爆弾
もう一つの論点は固定資産の減価償却です。The Wall Street JournalのJohn Weil氏が書き、Michael Burry氏も数ヶ月前に声高に指摘していたのが、AIチップをどう減価償却しているのかという問題です。新しい固定資産の耐用年数が経営陣の裁量に委ねられ、実態がよく分かっていません。
Meta($META)は一部のサーバーなどの固定資産の耐用年数を約5年としていましたが、これを5.5年に引き上げ、その結果23億ドルの減価償却費を圧縮しました。これは利益を押し上げます。
この減価償却現象の重要性は次の点にあります。企業がチップを買うと、Nvidia($NVDA)側にはそれが即座に収益として計上され、利益になります。一方、購入した企業側では、それが資本資産として扱われるため、純利益上の費用としてすぐには現れません。コーヒーを買って飲んで終わり、ではなく、資産を手に入れたのです。しかしその資産は時間をかけて減価償却され、不明瞭な期間にわたって利益からじわじわと流出します。耐用年数を5年と定めたのに実際はそうでなかった場合、後になってツケが回ってくる可能性があるわけです。
ただしWeil氏も指摘するように、こうした支出はフリーキャッシュフローには現れます。市場が注目するPER(Price Earnings Ratio=株価収益率)やEPSには見えなくても、キャッシュフローには見えるのです。
割安に見える市場と「成果を見せろ」段階
現在の市場のバリュエーションを見ると、Yardeni Researchの最新の数字ではMAG7の予想PERは約24倍。過去には30倍で取引されていたことを考えると、割安にも見えます。これはディスカウントなのか、それとも市場がこの現象を懸念しているのか。
Short氏は、市場が一息ついている状態だと見ます。昨年ハイパースケーラーが示した設備投資額に誰もが衝撃を受けましたが、投資家は今「成果を見せろ(show me the money)」の段階にいます。AIの誇大宣伝の時期は過ぎ、投資のリターンを、クラウド収益やソフトウェアのサブスクリプションといった形で証明することを求めています。2024年にはAI投資に言及すれば株価が跳ね上がりましたが、2025年後半には反省の局面が訪れ、投資家は企業をより厳しく評価するようになりました。AIサイクルはまだ2〜3イニング目とはいえ、投資家は投資に見合う何か具体的なものを探しています。
将来予想を信じるなら、2026年の24%成長がピークで、2027年は12〜16%、2028年は10〜12%へと徐々に落ち着き、2029年以降2030年代に入ると高い一桁台に収斂していく見込みです。ブラックスワン的な事象がなければ、そこがAIサイクルが実現しきった着地点になります。数字自体は依然として良好ですが、利益成長という点では今年が最もピークに近い、というのがShort氏の見立てです。
過去との比較では、2001〜2002年のドットコム崩壊後、2002年末から利益が急伸し、その後18四半期連続の2桁成長が続き、2006年第4四半期に落ち着きました。今回の特徴は、危機後の回復局面ではないこと、つまり前年同期が悪かったおかげの見かけ上の高成長ではない点にあります。連続記録としては史上最長ではありませんが、危機によるカサ上げなしにこれだけ2桁成長が続くのは初めてです。
K字型に分岐する消費者経済
米国のGDP(Gross Domestic Product=国内総生産)の70%を占める消費者が、今なお完全には元気ではないのに、なぜ企業は好調なのか。Short氏はこれを頻繁に考えるといいます。答えは、高所得層が残りの消費者を引きずるように支えているK字型の分岐にあります。
象徴的な事例が最近ありました。低〜中所得層を主な顧客とするWalmart($WMT)が数千の商品で値下げに踏み切り、高所得層が「トレードダウン(格下げ購入)」してくるようになりました。一方、ジェット燃料費は4月以降40%下落したのに、航空会社は運賃を下げていません。旅行需要が高いためで、飛んでいるのは中〜高所得層だからです。K字経済の上半分がそれだけ強いことを示す好対照な例です。
問題はこれがいつまで続くかです。カギは雇用です。失業率は歴史的に見て依然低く、人々が消費を控え始めるのは職を失う不安を感じたときです。まだそこまでは感じていないものの、AIが仕事を奪うという話は人々の意識の中にあります。
さらに一時的要因も効いています。関税払い戻し(昨年支払った関税コストの還付)や減税措置は、消費者や企業を後押ししています。税還付は臨時収入として使われがちで貯蓄されにくいため、小売業者を潤してきました。ただ、これは7月時点でそろそろ終わりに近づいています(中間選挙前にもう一度あるかもしれませんが)。消費者のクレジットカード債務は過去最高水準に近く、90日延滞率も記録的な高さにあります。
関税還付の使い道も注目です。BJ's Wholesale($BJ)は食料品コストを下げて顧客に還元し、FedEx($FDX)も荷主に還元していますが、Nike($NKE)は約10億ドルという最大級の還付を受ける見込みながら、消費者には還元せず経費の穴埋めに回すとしています。McCormick($MKC)も同様です。多くの企業は消費者に還元しないと見られ、決算説明会での注目点になります。
銀行決算──景気の先行指標を超えて
今週はJPMorgan Chase($JPM)、Bank of America($BAC)、Citigroup($C)などの銀行が決算をリードします。金融セクター全体ではEPS成長率約5%、売上高8%が見込まれ、珍しく売上のほうが利益より高い予想です。
その理由は貸倒引当金にあります。銀行はデフォルト増加を見込んで資金を積み立てており、これが利益を圧迫します。消費者のクレジットカード債務と延滞率の上昇を踏まえたリスク対応です。逆風としては、純金利マージンも長らく悩みの種です。Fed(Federal Reserve=連邦準備制度)が政策金利を3.5〜3.75%に据え置くなか、顧客はより高利回りの商品、高金利貯蓄口座やMMFに流れます。X Money($XYZ関連)が6%の年利率で口座を投入するなど、銀行は競争を強いられます。借入コストも高く、中小企業向け融資や住宅ローンも振るいません。
一方で追い風は、ディールメイキングです。数年間低迷したあと、SpaceX、Cerebrasといった大型IPO(Initial Public Offering=新規株式公開)が動き出し、OpenAIやAnthropicも控えています。投資銀行部門、ウェルスマネジメント手数料、そして特に債券のトレーディングは明るい材料になりそうです。
ただしDemos氏が指摘するように、銀行の好決算がそのまま好景気を意味するわけではありません。トレーディングデスクは好調でも、貸倒引当金は増えているといった具合に、決算の中身を読み解く必要があります。Jamie Dimon氏のコメントは保守的で、Demos氏いわく「現代のAlan Greenspan氏」のように、発言の裏を読む必要があるといいます。Jane Fraser氏を含め、経営陣の見解は決算シーズン全体のトーンを決めるため重要です。
CEOの自信を測る「LEERI」指標
Short氏が追う独自指標が、LEERI(Late Earnings Report Index=遅延決算報告指数)です。企業が例年より早く、あるいは遅く決算を発表するかを測るもので、MITの学術研究によれば、決算報告を遅らせる企業は、その場で悪材料が明かされることと強く相関しています。良い知らせなら世界に飛び出して伝えたくなる、というわけです。特に巨大企業が決算日を1〜2日でも遅らせると要注意です。
今シーズンのLEERIは依然として低く、CEOに一定の見通しの明るさがあることを示しています。100を下回れば良好で、2025年は5年間で最低の50台という記録的な低さでした。前四半期は73とやや上昇しました。これは、Conference BoardのカンファレンスボードによるCEO信頼感調査とも整合します。141人のCEOのうち40%が短期の経済見通しに確信を持てず、より悲観的になっていました(前四半期は13%)。悪いとまでは言えませんが、ここ数四半期ほどの楽観はありません。
CEOたちは、市場がAI投資による生産性向上を見せてほしがっていることを感じ取り、そこに神経を尖らせているのかもしれません。Nvidia($NVDA)の好決算が何度あっても、市場はもはや驚かなくなっており、1セント上回る程度では許されない時代なのです。
「アーニングス・バブル」という新語をどう見るか
金融コメンタリーで最近よく見かけるようになった言葉が「アーニングス・バブル(earnings bubble)」です。バブルといえば通常、投資家が法外な倍率で株を買う投資家側の現象を指しますが、市場のPERは歴史的には高くても数年前ほど狂ってはいません。だとすると、問題はPERの「E(利益)」の側が、実は見かけ倒しなのではないか、という問いです。
長年決算トレンドを見てきたShort氏は、この言葉を今まで考えたことがなかったといいます。利益はいずれハードデータで答えが出るものだからです。ただし、これまで論じてきた会計上の要因で数字が人為的に膨らんでいる可能性はあります。もっとも、調整後利益自体は目新しいものではなく、過去との比較をリンゴ同士で行うために必要でもあります。
だからこそ今四半期がテストになる、というのが結論です。数字を読み解き、それが本当に一時的費用なのか、減価償却をどう考えるか、を見極める必要があります。数字はあまりに高く、あまりに長く高止まりしてきましたが、過去の例のような景気後退や危機による押し上げという触媒がありません。ただ数字が素晴らしく、一方でいくつかの他のデータは芳しくない。第2四半期の読みが、下半期に何を期待すべきかのヒントを与えてくれる、決定的な決算シーズンになります。
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