La Story(Les Echos)解説:投資家の羅針盤となるAI──資産アドバイザー業界を揺るがす「手数料の真実」
▶ 元エピソード: https://shows.acast.com/la-story/episodes/lia-boussole-des-investisseurs-ils-se-confient-a-lia-comme-i
2026年7月25日
概要
この記事は、フランス経済紙Les Echosのポッドキャスト番組「La Story」の関連番組「Les Echos de l'IA」の一エピソードを解説するものです。ジャーナリストのSamir Touzani氏が、資産管理アドバイザー(フランスで言うConseiller en Gestion de Patrimoine、以下CGP)であり自身のAIアシスタントも開発したGuillaume Fontenot氏に、個人投資家の間で急速に広がる「投資判断の前にAIに相談する」という新しい習慣について話を聞いています。
フランスの金融市場監督当局であるAMF(Autorité des Marchés Financiers=金融市場庁)の最新の調査によると、フランス人の11%がすでに投資を実行する前にAIを利用しており、35歳未満に限ればその割合は5人に1人近くにまで上昇します。Fontenot氏は、この数字はむしろ過小評価だと感じており、実際には自身の顧客の大多数がAIを使っていると証言しています。
興味深いのは、AIが単なる情報検索ツールにとどまらず、資産管理という業界そのものの構造を揺るがしかねない存在として語られている点です。Fontenot氏は、AIが「手数料の重み」や「販売トークの欺瞞」を暴くことで、従来のアドバイザー業界のビジネスモデルに致命的な打撃を与えると指摘しています。
そして最終的に、AIによって知識が「コモディティ化(一般化)」した結果、アドバイザーの仕事は技術的助言から「人生設計のコーチ」「資産の心理カウンセラー」へと変質していく、という展望が示されています。
AIに「打ち明ける」投資家たち
Fontenot氏がまず強調するのは、投資家がAIに対して見せる「打ち明けやすさ」です。彼は、自分の顧客がAIに向かって、資産アドバイザーには決して話さないようなことまで打ち明けている様子に驚いています。
その理由は、AIとの間には「壁がない」からだといいます。人々はAIに対して、子どものこと、週末の配偶者との喧嘩といった、時に極めて私的な話題まで語りかけます。Fontenot氏は、これこそがAIの持つ力だと考えています。
AIは文脈に応じて回答するため、日々の質問を通じてユーザーの人生を蓄積していくと、どんどんパーソナライズされていきます。彼はこれを「第二の脳(second cerveau)」と表現し、私たちの人生のすべてを吸収したAIは、優れた資産アドバイザーになり得るという直感を語っています。
AIが得意なこと、苦手なこと
投資家がAIに相談して真価を発揮するのは、事実に基づく質問だとFontenot氏は説明します。生命保険契約とは何か、PEA(Plan d'Épargne en Actions=株式貯蓄プラン。フランスの税制優遇口座)とは何か、株式とは何かといった、いわば教科書的な質問には、AIは非常に的確に答えます。
具体例として、2025年分の所得の確定申告が挙げられています。税務当局の実務パンフレットを読み込ませたAIの支援によって、多くの納税者が膨大な時間を節約できたといいます。
一方で、AIが苦手なのは「未来を予測すること」です。Fontenot氏によれば、AIは非常に優れた理論家ですが、将来予測は極めて不得意です。そもそも未来は誰にもわからないため、AIが人間以上に予測できるはずもないという理屈です。理論の説明は得意でも、実際にどの商品を選ぶかとなると、その能力は限定的になります。
インターネットの「バイアス」という落とし穴
もう一つの限界として、Fontenot氏はAIが抱える「バイアス」を挙げます。AIはインターネット上にある情報を糧にしていますが、ネット上の影響力の偏りは非常に強いという指摘です。
たとえばAIに「最良の生命保険契約は何か」と尋ねると、AIはネット上の生命保険ランキングを検索します。しかし、この種のランキングは、系列会社の商業的利害などによって大きく歪められていることが多いのです。Fontenot氏は、こうしたランキング、ひいてはそれを引用したAIの回答には十分注意すべきだと警告しています。
いわゆる「幻覚(ハルシネーション)」についても、まだいくつか課題が残っていると認めています。特にFontenot氏が観察したのは、所得税の税率表など、数字や基準の扱いでAIが幻覚を起こす点です。AIは2024年、2025年、2026年の税率表を区別するのが苦手だといいます。
ただし、彼はこの問題は解決可能だとも述べています。AIをパーソナライズし、実務パンフレットのような参照資料を与えて「この基準に従え」と指示すれば、幻覚は止まるというのです。そのため彼は、常に出典を尋ね、情報源に立ち返って内容を確認する「二重チェック」が不可欠だと強調します。もっとも、それはアドバイザーの助言も常に検証すべきなのと同じであり、誰も無謬ではないと付け加えています。
AIは「嘘をつかない」──業界にとっての脅威
「どの投資先を選ぶべきか」「ビットコインに投資すべきか」といった主観的な判断については、AIは金融アドバイスを行わないため、その能力を持たないとFontenot氏は語ります。合理的・事実的な意見は求められても、主観的な意見は求められないというわけです。
しかし、ここで彼が最も力を込めて語るのが、AIの「嘘をつかない」という性質です。AIは幻覚を起こすことはあっても、真実を語ります。そしてその真実は、時に業界を困らせる真実だといいます。
具体的には、AIは手数料が運用成績に与える影響を明確に示し、その結果としてETF(Exchange Traded Fund=上場投資信託)を推奨するのに優れています。Fontenot氏は、これこそがアドバイザーにとっての危険だと指摘します。AIが投資家に「ETFのおかげでパフォーマンスがより良くなる」と説明することは、暗に「資産管理アドバイスは高くつきすぎる」と伝えているに等しいからです。
Fontenot氏は「アドバイザーがAIを恐れる理由はここにある」と述べ、AIは商業的な販売トークを解体してしまうと語ります。フランス語で「empapaouter(言いくるめて丸め込む)」という表現を使い、投資家はもはや販売トークに騙されなくなる一方、業界はもはや適当なことを並べて顧客を丸め込めなくなる、それこそが「革命」だと結論づけています。
自作したAIアシスタント──「私のクローン」
Fontenot氏は、こうしたツールの利用者であるだけでなく、自らもAIベースのアシスタントを開発しています。彼は「自分が座っている枝を自分で切り落とすのが好きだ」というユニークな言い回しで、どのみち市場を変えるツールなら、自分で作って楽しんだ方がよいと語ります。
彼はChatGPTをベースに、8〜9個のテーマ別AIエージェントを構築しました。確定申告を支援するもの、不動産市場を分析するもの、不動産投資の準備を助けるものなどです。
では、その付加価値は何かというと、Fontenot氏はCGPとして蓄積してきた経験、蓄積してきた素材、自分独自の仕事の手法、そして思考様式をAIに実装したと説明します。狙いは、AIが「自分のように考える」ようにすることでした。
その結果、顧客からは「まるであなたのクローンと話しているようだ」と言われることもあるといいます。彼の口癖である「人生プロジェクト(projet de vie)」という考え方、すなわち「なぜそれをするのかを理解すること」「お金は人生に奉仕するエネルギーである」という強いこだわりまで、AIが顧客に問いかけるよう設定したのです。
アドバイザーの仕事はどう変わるか
これだけのことをAIができる以上、それは脅威なのでしょうか。Fontenot氏の分析は明快です。現在のアドバイザーは、販売した商品のコミッションやリトロセッション(バックコミッション)で報酬を得ており、助言そのもので報酬を得ているわけではありません。AIが業界に本当に挑戦しているのは、この「マーケティングの上塗り」の部分だといいます。
保険会社に資金を預けるにも、PEAを開設してETFを入れるにも、依然として金融機関は必要です。つまり、商業的な役割を担う「販売員」は不可欠なままです。一方で危機にさらされるのは、自らの専門知識によって助言の付加価値を正当化してきたアドバイザーだと彼は言います。
かつては、CGPの専門知識が希少だったからこそ高い報酬に値しました。しかしAIによって知識が「コモディティ化」し、もはや希少どころか過剰なほど豊富になった今、その専門知識で高い報酬を正当化することはできません。ここに破壊的変化があるとFontenot氏は指摘します。
彼の見立てでは、AIは投資家の質問の9割に答えてしまうため、資産管理業界は二つに分裂します。一つは契約を販売するだけの「商業化の産業」で、これが業界の大部分を占めます。もう一つは、状況があまりに複雑で、経験を持つ人間が依然として必要とされる、ごく小さな部分です。
「資産の心理カウンセラー」へ
最後に、こうした激変の中で顧客との関係がどう変わるかを問われ、Fontenot氏は、自分が次第に「人生プロジェクトのコーチ」「資産の心理カウンセラー(psychologue patrimonial)」になっていると語ります。
顧客との会話の中身は、子どものこと、家族のこと、離婚のこと、人生の野心のことになり、もはや金融商品の話はしなくなっているといいます。話題は「どのように自分のお金を使って人生を築き、プロジェクトを実現し、より幸せになるか」へと移っているのです。
もともと純粋に資産技術を武器とする「超技術者」だったFontenotFontenot氏は、経験を重ねた今、その技術力は今も持っているものの、もはや前面には出さなくなったと振り返ります。本当の付加価値は、人々を理解し、家族を理解し、プロジェクトを理解する能力にあり、技術はその背後で奉仕するものだからです。彼は「最も難しいのは技術ではなく、家族の人生なのです」という言葉で締めくくっています。
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