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旦那には、3年目の桃を食わせろ

『新撰組異聞PEACE MAKER』の沖田総司に憧れ過ぎて一週間に三回結核になっていた友人からおよそ十年ぶりに連絡が来た。

「おディーン様が熱い!」

“久しぶり”、とか“元気?”というテンプレで始まらないあたりで新興宗教とかマルチ商法の勧誘ではないことに察しはつく。

悲しいかなアラウンドサーティともなると、
久々に連絡してきたと思ったらたいていわけのわからないものにどハマりして金を巻き上げようとしてくる輩ばかりだからな。
知り合いも友人もほぼゼロに等しい私でさえこうなのだから、いわゆる“正しい学生生活”を謳歌してきた方や、しゃあなし“正しい学生生活”を自分を押し殺してがんばってこられた方はさぞかし(長すぎるので省略)……

その点、おディーン様は脚の長さなどの並外れたスタイル以外わけのわからないもの点は見当たら……
ん?
まあ、おディーン様も十分わけわからないがまあそれはいいとして。

どうやら彼女は現在ディーン・フジオカ氏に熱を上げているらしい。
一方の私は自分の体温を三十八度まで上げてセルフ殺菌中である。
どうせなら私もおディーン様に熱を上げたかったがそれどころではない。

彼女のおディーン熱は太陽よりもマグマよりも熱い。
おそらく、
大型ハドロン衝突型加速器で鉛イオンを爆速でぶつけまくったくらい熱い。
約五兆度。
太陽はせいぜい一五〇〇万度程度。
マグマはもっと下がって高くても一三〇〇度。

大型ハドロン衝突型加速器Large Hadron Collider(略称LHC)
高エネルギー物理実験を目的としてCERNが建設した、世界最大の衝突型円形加速器である。

設置場所:
スイス・ジュネーブ郊外
(フランスとの国境をまたいで設置)
形状:全周17マイル27kmのリング状(地下にある)
稼働開始日:2008年9月10日
成果:2012年にヒッグス粒子を発見

Wikipedia

つまり彼女のおディーン熱は太陽の三十万倍かつマグマの……
もう数字見たくない。
つまり、私の現在の体温三十八度なんてもはや熱ですらないわけだよ。

などと訳の分からない例えをした挙句、勝手に数字アレルギーを発症し、失礼つかまつった!
これ以上計算するとアナフィラキシーショック不可避なのでもう数字に触れることは禁忌である。

何かって、
今季のドラマ「ちょっとだけエスパー」を観て、ディーン・フジオカ氏にほだされちまったってことらしい。

「傘を持っていたから借金返済できた」
とか
「五分早く起きたから昇進できた」
とか
「十四時までにスマホの充電がゼロになったから結婚できた」
とかそういうドラマだ。
もちろんそれだけではない。

宮崎あおいさんが漬物石を両手で持ち上げたりする。

「あおいちゃん!!殴って!!それで俺を殴って!!」
ってなるドラマだ。

それもそれでなんか違うけど、私は宮崎あおい様に殴られたい。
漬物石でバコオオオオオンってされたいし、その後頭から血を流しながら
一緒に梅を干したい。
で、尋常じゃないほど酸っぱい梅を五個くらい口に突っ込まれたい。

「酸っぱい……?」
と顔を覗き込んでからの、
「でしょー!!」
と背中バシバシされるのが理想。

第一話、観てたんだぜ、俺も。
ビションフリーゼ風の俳優さん目当てで観てたんだぜ。
あおい様が漬物石振り上げたり柴犬が出てきたりした。

なんて言葉も五兆度の熱の前に溶けて消えた。

地の文みたいにしましたけど、これ、ビデオ通話における私の答弁ですからね!

十年ぶりに友人に見せる姿が
ヨレヨレのパジャマ(デブりのおかげで少しシワはましになっている)を着て
冷えピタがないからってデコに湿布貼った姿ってどうなんだよ。

そもそも、唐突にビデオ通話ってのもアレだし
そんな姿を見てもそこに一切触れずに
「おディーン様が熱い!!」という話を続けるあたり、やはり怪しい勧誘ではないと確信が持てる。

「おディーン様がさ、この間の多部ちゃん多部未華子さんのドラマの時はインテリパパだったのに今回は髭生やしたワイルド系でェ!髭萌え!!」

いやあんた十年前、彼氏が髭生やしたことに対して
「水戸黄門以外の髭は認めん!!」
などとブチギレて別れたとか言ってたじゃん……
確かそれが最後のやりとりだった思うの。

「おディーン様が行手を阻んでくるのがたまらんのよ!阻まれてェ!!私もおディーン様に阻まれたい!!」

いやあんた中学時代、行手を阻んでくるペヤングの入れ物みたいな女バス女子バスケ部の幽霊部員なぎ倒してケガさせてトラブってたじゃねえか……
阻まれたらなぎ倒すじゃん、倍倍返しくらいで!

「おディーン様が手をかざすと花が咲くのね!」

うん、それは観たよ。
デパートとか、サービスエリアのトイレにおディーン様が入ったら便器の後ろとかトイレットペーパーの上あたりがお花見スポットになりそうだよね。


私「要するに“花咲かおディーン”ですね。」
友人「そう!!花咲かおディーン!!」

おディーン様に脳撫でられたんですかと聞きたくなるくらい、彼女の頭の中は花が咲きまくっている。

友人「ああ〜旦那におディーン様風髭生えないかな?」
私「?!」
友人「旦那!髭ないしアイツ絶対浮気してんの!」
私「?!」

ちょっと待て。
いつの間に結婚したの、しかもいつの間に旦那浮気(疑惑)したの?
情報過多にもほどがある!

私「たぶんそれ、おぬしがおディーン沼に沈んでいるから旦那が浮かんで見えているだけであって旦那は浮いてはいないという可能性がある。」
友人「ほお……」
私「だが、おぬしがおディーン様熱に浮かされているにも関わらず旦那が浮かんでいるのならばそれはまあ……っていうかいつの間に婚姻関係結んだんだよ!」

どうやら、おディーン様に全く興味がなかった三年前に結婚して二年前に子どもが産まれたらしい。

結婚と出産の話よりも「おディーン様が熱い!!」が先行するあたり、やはり怪しい勧……(しつこいので以下略)

友人「で、おぬし。先程から少女の声がしているが一体なんなんだい?」
私「え?娘が暴れているだけだが!」
友人「え?」

どうやら、互いに人生のわりと重要なターニングポイントの話をすっ飛ばしていたらしい。

だが、私は安心した!
彼女の“旦那の浮気、マジ許すまじ打消の助動詞”の熱がどうやらおディーン熱より高そうであることに。

興奮冷めやらぬ彼女に私はこうアドバイスをした。

私「桃の木を育てて、幹にヒ素注射して、実った桃を旦那に食わせてみては?」
友人「つまりそれは三年間待てってこと?“三年目の浮気くらい大目に見ろよ”って調子乗ったこと言い出したらどうすんの?」

桃の木の幹にヒ素注射
夏目漱石『三四郎』に出てくる台詞を使ったダークネスポイズンジョーク。

「じっさいあぶない。レオナルド・ダ・ヴィンチという人は桃の幹に砒石ひせきを注射してね、その実へも毒が回るものだろうか、どうだろうかという試験をしたことがある。ところがその桃を食って死んだ人がある。あぶない。気をつけないとあぶない」
砒石ひせき=ヒ素

やっちまった。
ちょうど結婚三年目じゃないかこの人たち。
……桃栗三年柿八年に準えた渾身のブラックジョークが通じたが故に変な空気になったぞ!

私「ひらきなおるその態度が気に入らないのよって桃を食わせればいい。」
友人「さすがに昭和歌謡過ぎる!」
私「これ昭和の歌なの?平成中期にテレビから流れまくってた気がするよ。」

とかなんとか言っている間に、桃を育てるのが面倒とか、ヒ素の入手ルートの話がヒートアップし過ぎて五兆度くらいになった。

結果、回りくどすぎて浮気とかどうでも良くなってきた彼女である。

話に花が咲きまくり、
「これ、回線をおディーン様が撫で回した可能性すらある。」
という妄想に発展。

友人が
「今の会話、全部おディーン様に聴かれちゃったかな?恥ずかしい……」
と突然ウブな乙女みたいになっていてこちらが恥ずかしかった。
顔面の表面温度が五兆度超えるくらい恥ずかしかったぞ!

今度会うことになったので、
おディーン&デルーカの何かをプレゼントしたい。

なお、一週間に三回だった結核は一ヶ月に一回に、
おディーン熱は毎日だそうだ。

私の熱とも言えぬ熱はあと二、三日で冷めそうだ。
それまではしばらく、このふわふわと浮かんだような感覚を楽しみたいと思う。


彼女と出会った中学時代のいじめ乗り切るスクールライフハックはこちらです。



【参考資料】
◽︎テレビ朝日
「ちょっとだけエスパー」

◽︎logmi Buisiness
摂氏5.5兆度! 宇宙史上もっとも「熱かった」出来事を解説

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