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Bloody Sunday

娘は喋り始めた頃からしょっちゅう
まーだー?」
と言います。
まだ?」
ではなく、
まーだー?」
です。
“ウルセエ、まだなもんはまだなんだよ”
と汚い言葉が前歯の裏まで来たと同時に脳裏をぎる英単語。


murder

murder】〈名〉
1.謀殺、故意の[意図的な・計画的な]殺人
2.殺人事件
3.〈俗〉〔殺人的な〕ひどいこと、大変難しいこと、
   耐え難いこと
4.〔カラスなどの〕群れ

英辞郎

これ以来もう、娘の
まーだー?」
はもちろんのこと、
他のお子さまがたの
まーだー?」
も、何なら大人が言う
まだ?」
も、果ては自分で
まだ?」
と言っておいて、その全てが
murder”に変換されてしまうようになりました。


日曜日、私は某店でいつも通りクソデカアイスコーヒーLサイズのアイスコーヒーを口に運ぶ。
昼前でだんだんと混雑のボルテージが高まってきた頃、は現れた。
季節外れのダークブラウンのダウンジャケット、使い込まれたキャメル色の財布、年季の入ったワインレッドの杖。
震える声でホットドッグとココアを注文する。
だが、この店にココアは置いていない。
推定、滅多にここを利用しないのだろう。
諦めたそいつは不満げにコーンスープに注文を変えた。

番号札を受け取ると、私の近くに置かれた椅子によろよろと座り込んだ。
飾られた花越しにも奴の片足が♩=168じだんだを刻んでいることがわかる。
まだ1分と経っていない。
がワインレッドの杖に手をかける。
私は身構えた。


ホットドッグまーだーホットドッグ殺人事件?」

しわがれているが、力強い声だ。
怖気付いた若い男性店員に奴は銃口杖先ゴムをつきつける。
そしてもう一度叫ぶ。

ホットドッグまーだーホットドッグ殺人事件?」


「悪く思わんでくれ、俺は耳が遠いんだ…!」

男性店員ははっとした顔をして、
大きく息を吸い込んだ。
ホットドッグまーだーホットドッグ殺人事件でーす!“まーだー殺人事件”!」
自身に向けられた銃口杖先ゴムをものともせず、先程までの怯えた瞳は、殺意を帯びた色に変化していた。
彼はこう続けた。
「順番にィ!作っておりますので!」
だが奴も負けてはいない。
「何ィ?!俺のホットドッグまーだーホットドッグ殺人事件?」

【ホットドッグ殺人事件】


ではなくて。
あわよくば小説にしたがる私の悪い癖。

娘が習い事に行っている間、私はいつもの店で終了時間まで過ごすんですね。

↑この記事に出てくるお店です。

これは一昨日の出来事で、
ホットドッグ待ちきれないおきな
合計10回も
ホットドッグまーだーホットドッグ殺人事件?」
と叫んでいたわけです。
そして入れ替わり立ち替わりお店の方が
まーだーでーすmurder death!」
と返すので、店内がひたすらに物騒でした。
私の後方では4歳くらいの子どもが
パパまーだーパパ殺人事件チーズバーガーまーだーチーズバーガー殺人事件?」
と2件立て続けに事件を起こし
ウーバーイーツの配達員の方は
「あ、まだ殺人事件できてないんですね!大丈夫ですよ〜」
と何がどう大丈夫なのかわからないけれど大丈夫だと言っている。
私の脳が“まだ”や“まーだー”をmurderと勝手に変換するせいで
穏やかなはずの日曜日のお昼時が途端に
Bloody Sunday〜murderer's lunch time〜
になってしまいました。
私の脳内で。

私の将来の夢は“杉下右京になること”なので
「(昼時の飲食店のパニック度に関して)想像が及ばないのであれば…黙っていろ!」
もしくは
「おやめなさい!」
と言ってやりたかったのですが、
自重しました。

言わないくせに翁の前を行ったり来たりしていたのは、
トイレが埋まっていて入れなかったためです。
私は思いました。

トイレまーだートイレ殺人事件?」

無駄に想像力に長けているので
トイレの中にいる方からの

まーだ殺人事件だよー

というエア返事が聞こえてしまいました。

あまりにも現実のトイレが空かないので
危うくイマジナリートイレを出現させてしまうところでした。

そんなこんなで
murderの生みの親を迎えに行きましたが
全然出てこない。

まーだー殺人事件?」

心の中でではありますが、例の翁並みに申し上げておりました。
私が唱えたのと同じ回数分流れてくるトレパック。

そして帰宅後、娘から
昼ごはんまーだー昼ごはん殺人事件?」
とトドメを刺された私でした。


待ちきれないなら自分でつくればいいじゃない?

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