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♪【エッセイ・パッパとわたし】得体のしれない店

仕事:ジャズ喫茶のマスター
副業:オーディオ・音楽関係の物書き
趣味:自作アンプ制作。ポエマー。
性格:俺様、わがまま、ひとたらし
住処:ジャズ喫茶
(遺言:俺の棺桶は店だ)
だから遺骨は店にある。休業中
ノンフィクション

【パッパの属性】

パッパが亡くなって数年経つ。
強烈な人だった。
エッセイなんて書いたことはないけど、
これを機会に綴ってみようと思う。

パッパは気の向くままに音楽を鳴らすための、
真空管アンプを制作するのが趣味だった。
それを商業のオーディオ月刊専門誌に、数カ月に一度、回路図とともに制作記事として載せていた。

不思議なカリスマ性があり、店には偏った人種ばかりが集まった。

ジャズ好き。
クラッシック好き。
アンプ作りが趣味。
ミュージシャン。
読者。
近くの海に遊びにきたサーファー。
おたく

でも、地元の人は、
よほどのツワモノでなければ
この得体のしれない店の扉を
あけようとはしなかった

迷い人が、入ってきた時などは、ひげ面のパッパの顔を見て
「あ、ヤバい店はいちゃった」
と顔をこわばらせ、そっと扉を閉じる人も多い。

そんな店ある?

まあ、パッパの地元だから、
その縁で来る市内の人も、いないわけではなかったけれど。

しかしきっとその一見さんは、
「あ、違った」と思いながらも
パッパと目が合ってしまったようだ。
蛇に睨まれた蛙のように、逃げるのをあきらめて
ふらふらとカウンターについた。

目が完全に泳いでる。

昼時だった。
一見さんは「ハンバーグ」を注文した。

「おい、今メシ炊いてっからよ、少し待てや」

こんな、レストランの親父が存在してもいいのだろうか。

開店は十一時。
パッパは少し寝坊したに違いない。
一見さんは「全然問題ないです」って作り笑顔を浮かべ
震える手でタバコを取り出した。

パッパの目が光る。
いつもパッパのタバコを管理しているマッマの姿は店にない。

「兄ちゃんさ、たばこ一本くれよ」

馴染みでもない、初めて来た客に
タバコをたかる店主など、どこにいるのだろうか。

マッマに内緒で、朝の一本をゲットしたパッパは上機嫌になった。
「好きな曲かけてやっからよ」
店主が客にリクエストをねだる。
客の肩がびくりとはねた。
「僕、ジャズとかあんまり詳しくなくって……すみません」
客の語尾は震えて消えそうだった。
こ・ろ・さ・れ・る)
そんな言葉が、もしかしたら脳裏をよぎっていたのかもしれない。

「おう、じゃあこれなら知ってんだろう」
パッパは勝手に曲を選び、ご自慢の自作アンプに灯りをともす。
その日の最初の一曲は

『ひとり咲き』(CHAGE and ASKA)

真空管アンプの音色と、耳なじみのある歌詞に、客はほっとしていた。
ジャズ喫茶だけど、ここはパッパの城だ。
ジャズでもクラシックでも、ロックでも演歌でも歌謡曲でも、気の向くまま。

気に入った曲は、二十回くらい平気でリピートする。
客は、そこに居合わせてしまえば、食事のあいだ中、パッパの気分に付き合わされる。

わたしも、いっそセレナーデ(井上陽水)を十三回目で音を上げた。

いい曲やけど、パッパ。
さすがに十四回目は勘弁してくれ。

だから、店にはこの強烈なマスターの気まぐれに
付き合える客しか最終的には残らない。

だって俺の城だもん

パッパはポエマーだった。
オーディオ専門誌の回路図の記事にポエムを混ぜるなんて、前代未聞。
「けしからん!」と糾弾する読者や制作者も多かったと聞く。
でも、パッパはそれを貫いた。

専門誌のレギュラーは四十年以上続いた。
途中、ほかの制作者が「自分もポエム載せていい?」と出版社に手を挙げたらしい。
でも「もうパッパがその手を使っちゃってるから二番煎じになる」と却下された、なんて話も耳にした。

パッパは思いのままに生きて、幸せだったのだろうか。

書き続けること。
自分の望む音を追求すること。

それは、わたしが思う以上に過酷な人生だったのかもしれない。

でも、ジャズ喫茶なんて消えつつある今、
日本のnoteの片隅で、パッパとの思い出を語るのも悪くない。

じゃあ、最後にパッパの詩をひとつ

『夜』
暗い夜の後で
時は息をひそめてしまう
闇の中におかれた孤独
昨日と今日の均衡の狭間で燃える
風の音に吐息がざわめき
亡びようとする夜の中に
身を横たえて眠る

パッパの詩


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