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固定観念をずらす「水平思考×PR」で経営課題を突破する|PR型水平思考のすすめ #1

その会議で足りないのは、アイデアではありません。足りないのは、「前提を疑う技術」です。

多くの会議では、「どう売るか」「どう広めるか」「どう改善するか」といった打ち手が議論されます。もちろん、それらは大切です。しかし、その前に問うべきことが置き去りにされていることがあります。

そもそも、何を問題と見ているのか。
誰のどんな不自由を、解こうとしているのか。
どの関係が固定され、どの声が見えなくなっているのか。

こうした前提が問われないまま、打ち手だけを増やしても、議論は既存の枠組みの中での最適化にとどまりやすくなります。

今回ご紹介する「水平思考」とは、その前提をずらすための思考技術です。

課題の前提、つまり固定観念をずらす。
問いを更新する。
見えている関係の輪郭そのものを変える。

それによって、これまで見えなかった突破口を見つけていく方法です。


本シリーズ「PR型水平思考のすすめ」は、「文脈の補助線」シリーズの実践編です。

前シリーズでは、経営課題を「問い」と「関係」の設計不全として再定義してきました。今回からはその実践編として、発想をずらし、課題を突破する思考技術である「水平思考」を、経営課題やPR、関係設計の現場に引き寄せて、実践的な型として提案していきます。

私はこれを、「PR型水平思考」と呼んでいます。

第1回となる今回は、まず「水平思考」とは何か。そして、それをPRや経営課題の実務に応用すると何が見えてくるのかについて、考えていきます。

水平思考とは何か

「水平思考」と聞くと、特別に頭の柔らかい人だけが使える発想法のように見えるかもしれません。けれど、実際はそうではありません。

むしろ水平思考は、私たちが無意識に置いてしまっている前提に気づくための「手がかり」です。

水平思考を説明するときに、よく使われる有名なエピソードがあります。

■バナナの配分
バナナが4本ある。これを3人で平等に分けたい。
現物のまま分けようとすると、どうしても端数が出ます。けれど、「形を維持する」という前提を外せば、「ジュースにして均等に注ぎ分ける」という答えが出てきます。

■逆走するドライバー
あるタクシードライバーが、一方通行を逆向きに進んでいたのに、誰からも注意されなかった。なぜか。
答えは、ドライバーが車を運転していたのではなく「歩いていた」からです。ここでは、「ドライバーなのだから運転しているはずだ」という前提が外れています。

■エレベーターの不満
ある高層ビルで「エレベーターが遅い」という不満が相次いだ。
設備更新ではなく、待ち時間のあいだ退屈しないよう「鏡」を設置したところ、不満が激減しました。問題は「速度」そのものではなく、「待たされていると感じるストレス」だったわけです。

これらの例で変わったのは、答えではありません。
問題の置き方です。そして、この置き方の変更こそが、水平思考の核心です。

この考え方を思考法として提示し、広く普及させた人物として知られているのが、マルタ出身の医師・著述家であるエドワード・デ・ボノです。
デ・ボノは、水平思考(lateral thinking)を、既存の見方から離れて別の考え方をするための方法として提示しました。

水平思考とは、単に変わったアイデアを出すことではありません。
既存の前提からいったん離れ、問題の置き方そのものを変える思考法なのです。


会議は進むのに、なぜ景色は変わらないのか

この水平思考が、経営やPRの現場でなぜ重要なのでしょうか。
多くの会議では、最初に課題に対する打ち手が議論されます。
「価格を見直す」「訴求を変える」「認知を上げる」「採用を強化する」など、どれも間違ってはいません。むしろ、実務では必要な問いです。

けれど、その前に本来あるはずの問いに焦点が当たることは、あまり多くありません。
「そもそも、何を問題と見ているのか」
「誰のどんな不自由を、解こうとしているのか」
「何を競争と呼んでいるのか」

こうした問いが置かれないまま進む議論は、どうしても既存市場の中での最適化に閉じやすくなります。

会議の景色が変わらない理由は、発想力が足りないからではありません。多くの場合、「問いが前提の外に向いていないから」です。そして、ここで効いてくるのが水平思考なのです。


水平思考は「別の問い」を立てる思考技術です

水平思考は、今ある枠組みをいったん外し、既存のパターンや前提から離れて考えるための思考法です。
言い換えれば、水平思考とは、別の答えを出すことより先に、別の問いを立てることに関わる思考だといえるでしょう。

「どう売るか」ではなく、「そもそも何を価値として売っているのか」
「どう勝つか」ではなく、「何を競争と見なしているのか」
「どう広めるか」ではなく、「どの文脈に置けば意味が変わるのか」

こうして問いの位置をずらすことで、初めて見えてくる景色が変わります。


垂直思考は深く掘る。水平思考は掘る場所を変える

ここで、「垂直思考」と「水平思考」を対比すると分かりやすくなります。

垂直思考(ロジカルシンキング)とは、与えられた前提の中で、論理的に最適解へ近づいていく「深掘り型」の思考法です。これは実務において極めて重要であり、同時にAIが最も得意とする領域でもあります。

ただし、この思考には「今の問いが妥当である」という大前提があります。

一方、水平思考は、その前提自体を疑います。
「いま自分たちが掘っている場所は、本当に掘るべき場所なのか」
「そもそも、この問題設定そのものが古くなっていないか」

垂直思考が「深く掘る力」だとすれば、
水平思考は「掘る場所を変える力」です。

この二つは対立するものではありません。
水平思考で問いをずらし、垂直思考で形にする。
その往復運動こそが、現代のビジネスにおいて不可欠な思考なのです

では、この水平思考をPRや経営課題の現場に引き寄せると、何が見えてくるのでしょうか。

それが、私の提唱する「PR型水平思考」であり、既存の経営課題に対して、正面突破ではなく、新しい解決の文脈を考えるメソッドなのです。


「PR型水平思考」の3つの特徴

PR型水平思考には、大きく3つの特徴があります。

1. 課題を「関係性」で再定義する

さまざまな経営課題を、単なる施策不足や努力不足としてではなく、ステークホルダーとの「関係性の歪み」として捉え直します。

2. 「文脈」を再設計する

情報の伝え方を変える前に、情報が置かれた「文脈」を変換し、社会的な意味づけを変えていきます。

3. 経営課題の「突破口」を整える

正攻法の説得ではなく、共感、信頼、巻き込みといったPRの力学を通じて、課題が自然と動き出す条件を整えます。


このように、「PR型水平思考」とは、水平思考をPRの本質である「関係づくり」や「文脈設計」に応用したものです。

情報を足す前に、意味の置き場所を変える。 施策を増やす前に、関係の見方を変える。 答えを急ぐ前に、問いの位置をずらす。 それが、PR型水平思考の基本姿勢です。


なぜ今、企業経営にPR型水平思考が必要なのか

理由は、大きく3つあります。


1. 成熟した市場では、正解が均質化してくるから

背景には、AIをはじめとする情報処理技術の進化があります。
AIの進化により、既存情報の整理や分析から導かれる答えは、どこも似通ったもの(均質化)になりやすくなっています。成熟市場においては、なおさらです。

だからこそ、「与えられた問いに効率よく答える力」以上に、「何を問いとして立てるべきか」という構想力が差別化の源泉になります。


2. 問題設定こそが、複雑な経営課題やイノベーションの出発点になるから

現代の経営環境では、課題が複雑に絡み合い、何が本当の問題なのかが見えにくくなっています。そのため、解決策を急ぐ前に、まず問題そのものをどう捉えるかが重要になります。

この点は、組織論やイノベーション・マネジメントの研究でも繰り返し論じられています。

たとえば、英バース大学のPoornika Ananth氏らによる2025年の論文 “Developing Problem Representations in Organizations” では、組織が複雑な問題に向き合う際、すぐに解決策を探すのではなく、以下の3つのプロセスを踏むことが、より良い成果につながると示されています。

  • problem finding【発見】:本当の問題を見つけ出す

  • problem framing【捉え方】:その問題をどう解釈するかを考える

  • problem formulating【整理】:議論や検討ができる形に言語化する

こうした問題設定の営みは、既存の前提を疑い、問いそのものを捉え直すという意味で、水平思考とも深く通じています。

AIは「問いに対する処理」には無類の強みを発揮しますが、「何を問いとして立てるべきか」を見極める営みには、今なお人間の構想力が不可欠なのです。


3. 企業が取引しているものは、モノや情報だけではなく、意味や関係そのものだから

商品をどう売るか。
ブランドをどう語るか。
採用で何を魅力として伝えるか。

これらはすべて、単なる情報設計ではありません。誰とどのような関係を築き、どのような意味を立ち上げるかという問いに関わっています。

つまり企業活動の多くは、正しい答えを選ぶこと以上に、どのような問いを置くかによって方向づけられます。問いの置き方は、そのまま経営やPRの輪郭を決めるのです。


PR型水平思考とは、「前提の更新」です

ここまで見てきたように、水平思考は単なる「アイデア出し」の技術ではありません。 その本質は、「前提を可視化し、その前提を一度外してみる」ことにあります。たとえば、次のような問いです。

「どう売るか」の前に、「なぜそれを売るのか」を問う。
「どう勝つか」の前に、「何を競争と定義しているのか」を問う。
「どう広めるか」の前に、「どの文脈に置けば意味が変わるのか」を問う。

ここで、ビジネスに引き寄せた有名な例をひとつ挙げてみましょう。

あなたの家業は「ろうそく店」だとします。電気が普及し、家庭の明かりとしての需要がなくなったとき、あなたならどう価値を再定義しますか?

「もっと明るいろうそくを作る」という垂直思考だけでは、電球には勝てず、発想は行き詰まります。

しかし、「ろうそくは『明るさ』を売るものか?」と前提を疑った瞬間、景色が変わります。
そこで売っているのは、明るさではなく、「心地よい暗さ」や「静寂な時間の質」かもしれません。

ここで起きているのは、機能改善ではありません。
価値の定義更新です。

経営に引き寄せれば、それは戦略の土俵を変えることです。
PR的に言えば、情報を足すことより先に、意味の置き場所を変えること。
編集視点に立てば、素材を増やすことより先に、切り口を変えることです。

つまり水平思考とは、発想のテクニックというより、前提を更新する思考技術なのです。


問いをずらす=景色の見え方を変える

市場は、最初から固定されたものとしてそこにあるわけではありません。

顧客も、競争も、価値も、すべては「問いの置き方」によって見え方が変わります。そして、その問いをどう置くかによって、企業の打ち手も、ブランドの意味も、PRの文脈も劇的に変化していきます。

水平思考とは、今ある問いにうまく答える力ではありません。
問いの置き方そのものを変え、景色の見え方を動かす力です。

そして今、経営にもPRにも必要なのは、正しい答えを急ぐことではなく、その前にある問いを動かすことではないでしょうか。

本シリーズでは、この考え方を「PR型水平思考」として、実務で使える形に整理していきます。

次回は、日常の会議や企画づくりで使える「水平思考の鍛え方」を、具体的なトレーニングとして紹介していきます。ぜひご覧ください。

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松風 | PR ストラテジスト 最後までお読みいただき、ありがとうございました。今後も丁寧な発信を続けてまいります。応援よろしくお願いいたします。

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