ハロー!ノーブロッコリー!
20代半ば、カナダに4年ほど住んでいた。
着いたばかりの頃の話だ。
当時の私は、英語などほとんど話せなかった。
それでもお金がないので、
ダウンタウン中のレストランを回って、
仕事を探した。
ことごとく断られ続けて、唯一、
「ランチタイムなら」と雇ってくれたのが、
韓国人経営のイタリアンレストランであった。
日本語を話す人は誰もいなくて、
カプチーノの作り方さえよくわからない。
その店のランチメニューは15種類ほどあった。
メニューは番号で書かれていて、
数字だけはなんとか聞き取れた。
ところが、カナダの人たちは、
番号で注文なんてしてくれないのだ。
「ブロッコリー抜き」
「ソース多め」
「付け合わせ変更」
そんなことを次から次へと要望してくる。
もちろん聞き取れるはずもない。
おいおい、頼むから
番号でシンプルに注文してくれよ。
案の定、私は料理をしょっちゅう間違えて
運んでしまった。
そんな時は、
こっそりパンをサービスして誤魔化すという、
じつに姑息な手段でその場をしのいでいた。
しかし、毎日やっているうちに、
次第に常連客の顔を覚えるようになってくる。
「あ、ブロッコリー抜きのおっちゃんだ」
彼が来ると、わたしはすかさず駆け寄って、
『ハロー!ノーブロッコリー!』
と声をかけ確認をする。
するとおっちゃんもニヤリと笑う。
いつしかそれが、
彼と私のあいさつの合言葉になったのであった。
そんなこんなで、
なんとか1年弱働かせてもらった。
今思うと、あんなに注文を間違え、
勝手にパンを配り歩いていた私を
クビにしなかったオーナーは、かなり心が広い。
本当に、ありがたい話である。
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