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スティーブン・ギル トークショー

10月5日(日)に東京都写真美術館で行われたスティーブン・ギルさんのトークショーに行ってきました。司会は渡部さとるさん、聞き手は菊田樹子さんという豪華なラインナップです。

ギルさんはまず、祖父がヨガのポーズをとる姿を父が撮影した写真を見せて、「大切な人を写した写真には描画力がある」と語りました。

子どものころ、父から現像やプリントを教わり、自転車に乗るように本能的に写真を扱えるようになったことが原点だと言います。12歳頃から鳥や動物への関心を持ち、授業には出ずに絵やコラージュを作っていたそうで、学校側もそれを許してくれる自由な環境だったそうです。

膨大な数の作品をスライドで見せてくださいましたが、初期作品で印象的だったのが、屋外にある大型広告看板の裏側を撮影したシリーズ。

マルボロやロレアルなど、さまざまなブランドの理想化されたキャッチコピーと、廃棄物などが雑多に置かれた裏側との対比が鮮やかでした。

写真集《Invisible》では、街で働く作業員や清掃員などを撮影。本来は目立つ蛍光オレンジの安全ベストによって、通行人たちの意識には残らない存在になることがタイトルにも表されています。

イースト・ロンドンのハックニー・ウィックで開かれるサンデーマーケットにやってくる人々を安価なプラスチックカメラで不鮮明に撮影した《Hackney Wick》については、「情報を絞り込むことで本質が見えてくる」と語っていました。

《Anonymous Origami》では折られたトイレットペーパーを撮影し、《Hackney Flowers》では花や種子などを撮影してから地面に写真を埋めて「場所性」を与えるなど、実験的な作品を次々と生み出しました。

ロンドン・オリンピック開催を前に急速に変わっていく街を撮った《Archaeology in Reverse》では、「写真は過去を捉えるものだが、まだ存在しないものを撮れるだろうか」と問いかけています。

ルクセンブルクの製鉄工場跡で制作された《Coexistence》では、冷却水を湛えた池に生息する微生物を顕微鏡で撮影したり、カメラを池に沈めた後で住民のポートレートを撮ったりと、さまざまな手法を試みています。これらは、偶然性を受け入れながら「場所の声を聞く」行為なのだと言います。

ギルさんは、「写真の強さではなく、弱さを使う」と語りました。

ロンドンからスウェーデンに拠点を移してからは、自然との関係がさらに強くなりました。

森にカメラを固定して夜行性の動物を自動撮影した《Night Procession》では、「動物たちが自分たちのすべきことをしている姿を撮りたかった」と話します。

《The Pillar》では平坦な場所に二本の柱を立て、羽根を休めに来る鳥を自動撮影。選ばれた写真には鳥の一部しか写っていない一見失敗作のようなものもあり、ギルさんは「良い写真ではなく、何かが去った後の残像がいい」と語りました。

「自分が引っ張って撮るのではなく、導かれて撮ることで、鳥の世界に立ち合わせてもらった」とも振り返ります。

たくさんの写真集を制作しているギルさんは、本への愛についても熱く語りました。

「最終的な方法は撮影後に考える。本を作るのは好きだが、撮ることと作ることは全く別の体験」と話し、「本を開くことは眠っているものを起こす行為。レコードに針を置くようなもの」との比喩も、音楽好きのギルさんらしく印象的でした。

スティーブン・ギルさんにとって、カメラは自然や土地、そして鳥や動物の声を伝えてくれる装置なのだと感じました。

撮影や現像の技術を極めつつも、自分の意図を作品から排除しようとするのは、被写体そのものが語る余地を残すためなのかもしれません。

T3 PHOTO FESTIVAL TOKYOでのスティーブン・ギルさんの展示《Hackney Flowers》は、東京建物日本橋ビルにて10月27日まで。

東京建物日本橋ビルでのスティーブン・ギルさんの展示

写真:石井陽子(©)/ 転載はご遠慮ください

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