「30行のダメ出し」は、あなたが挑んだ証だから。娘と私の、ある夜の会話。
娘が突然、半べそをかいたような表情で話しかけてきた。
「あのね、すごくショックなことがあったんだ。」
パソコンの画面を指さして見せてくれたのは、アルバイト先のメッセージのやりとり。
話を聞いてみると、自分が苦労してつくり上げたスライド資料に、かなり厳しいフィードバックが届いたらしい。
バイトを始めて日が浅く、まだ社会人経験も乏しい娘にとって、画面に並ぶ30行もの指摘は、自分自身を否定されたかのように突き刺さってしまったようだった。
「スライド作るの、得意だったよね。でもね、ここに書いてあるメッセージは、資料に対してであって、あなた自身に向けられたものじゃないよ。」
私は、彼女の隣でゆっくりと少しずつ、言葉を渡しはじめた。
努力が報われなくて悔しかったこと、手厳しい口調での指摘事項、これからのやりとりへの不安。その全部を打ち明けてくれたことに、まずは「ありがとう」と伝えた。
今、どんなに落ち込んでいたとしても、自分から進んで時間をつくって、チームのために資料を準備して、届けることができた。
チームのために率先して行動すること。それは誰にでもできることではない。何より、この資料が「たたき台」という役割を果たしたからこそ、チームの作業は前へと進み出すことができた。
資料は何度でも書き直せる。けれど、彼女が持つ「誰かのために動こうとした純粋な熱量」だけは、誰にも傷つけさせてはいけないと思った。
さらに言葉を続けた。
みんなを代表して、はじめの一歩の軌跡を残したことに自信を持っていいこと。
社会に出れば、価値観の違う人も、時には思いやりに欠ける言葉を投げてくる人もいるかもしれない。でもそれは、決してあなた自身を否定している訳ではないということ。
「うん、わかった。聞いてくれてありがとう。」
少しだけ表情が和らいだ娘の顔をみて、ホッとした。
いつか彼女がこの夜を振り返ったとき、画面上の厳しい言葉よりも、その奥にあった「自分は一歩踏み出したのだ」という確かな誇りを思い出してほしい。
傷つくことを恐れずに投げた一石が、いつか誰かを助ける力に変わる。
その過程に痛みを伴うかもしれないけれど、乗り越えることで自分の内側に小さな自信が積み重なり、彩り豊かな花を咲かせていく。
彼女が自分らしい色で新しいページを開けますように。私はいつだって、一番の味方として、その「次の一歩」を静かに待っていたい。
