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火星——赤い地平の向こう:付録A 火星探査年表


黎明期(1960–1964)——失敗の時代

1960
マルスニク1号・2号/ソ連/打ち上げ失敗

1962
スプートニク22号/ソ連/軌道投入失敗

1962
マルス1号/ソ連/通信途絶

1962
スプートニク24号/ソ連/軌道投入失敗

1964
マリナー3号/NASA/フェアリング不良

1964
ゾンド2号/ソ連/通信途絶

火星探査の黎明期は、失敗の連続であった。アメリカとソ連の宇宙開発競争の中で、火星は月よりもはるかに困難な目標であることが明らかになっていった。


最初の成功(1964–1969)——点から円盤へ

1964–65
マリナー4号/NASA/史上初の火星フライバイ成功。22枚の画像を送信。クレーターに覆われた表面を初めて撮影。大気圧が極めて低いことを確認(約4–7 hPa)。運河の存在を否定。

1969
マリナー6号/NASA/フライバイ成功。75枚の画像を送信。赤道付近を観測。

1969
マリナー7号/NASA/フライバイ成功。126枚の画像を送信。南極付近を観測。極冠の組成(ドライアイス)を示唆。

1969
マルス1969A・B/ソ連/打ち上げ失敗

マリナー4号が送り返した22枚の画像は、世界に衝撃を与えた。火星はクレーターだらけの死の世界であることが明らかになり、19世紀以来の「生命の星」という夢は崩壊した。


全球マッピングの時代(1971–1972)——地形の発見

1971
マルス2号/ソ連/軌道投入成功。着陸機は着陸失敗(史上初の火星表面到達)。

1971
マルス3号/ソ連/軌道投入成功。着陸機は軟着陸成功するも20秒で通信途絶。

1971–72
マリナー9号/NASA/史上初の火星周回軌道投入成功。全球マッピング。7,329枚の画像を送信。オリンポス山、ヴァレス・マリネリス、古河道を発見。砂嵐を観測。

マリナー9号の成果は革命的であった。火星は単なるクレーターだらけの死の世界ではなく、太陽系最大の火山と巨大な峡谷を持つ、地質学的に豊かな天体であることが明らかになった。


生命探査の時代(1973–1976)——バイキング計画

1973
マルス4号/ソ連/軌道投入失敗(フライバイのみ)

1973
マルス5号/ソ連/軌道投入成功。60枚の画像を送信。9日間で通信途絶。

1973
マルス6号/ソ連/着陸機は大気圏降下中にデータ送信するも着陸直前に通信途絶。

1973
マルス7号/ソ連/着陸機は火星を通過。軌道投入失敗。

1975–76
バイキング1号/NASA/軌道投入成功。クリセ平原に軟着陸成功(1976年7月20日)。史上初の長期地表観測。パノラマ画像撮影。生命探査実験(LR、GEX、PR、GC-MS)実施。生命の決定的証拠は得られず。1982年まで稼働。

1975–76
バイキング2号/NASA/軌道投入成功。ユートピア平原に軟着陸成功(1976年9月3日)。バイキング1号と同様の実験を実施。1980年まで稼働。

バイキング計画は、火星探査史上最初の生命探査を実施した。LR実験の陽性反応は科学的論争を巻き起こし、その解釈は現在も完全には決着していない。


停滞と再開(1988–1997)——失敗と復活

1988
フォボス1号/ソ連/火星接近前に通信途絶

1988
フォボス2号/ソ連/火星軌道投入成功。フォボス接近前に通信途絶。

1992
マーズ・オブザーバー/NASA/軌道投入直前に通信途絶

1996–2006
マーズ・グローバル・サーベイヤー(MGS)/NASA/高解像度全球マッピング。磁場の局所的異常を発見。ガリーを発見。水の侵食地形を確認。南極の地下に氷の存在示唆。

1996
マーズ96/ロシア/打ち上げ失敗

1996–97
マーズ・パスファインダー/NASA/アレス・ヴァリスに着陸成功(1997年7月4日)。小型ローバー「ソジャーナー」を初展開。岩石の化学組成分析。洪水地形を確認。

1990年代前半は失敗が続いたが、1996年のMGSとパスファインダーの成功により、火星探査は再び勢いを取り戻した。特にソジャーナーは、初の火星ローバーとして歴史的意義を持つ。


ローバー時代の幕開け(1998–2007)——水の証拠

1998
のぞみ/ISAS(日本)/技術的問題により火星軌道投入失敗(2003年)

1998
マーズ・クライメート・オービター/NASA/単位換算ミスにより軌道投入失敗

1999
マーズ・ポーラー・ランダー/NASA/着陸失敗(推定)

2001–現在
マーズ・オデッセイ/NASA/軌道投入成功。水素の分布(地下水氷の指標)を検出。熱放射スペクトルにより地表鉱物を分析。現在も稼働中。

2003–06
マーズ・エクスプレス/ESA/軌道投入成功。南極の地下に液体の水の可能性を示す(後に疑問符)。メタンの検出(後に再評価)。着陸機ビーグル2号は着陸失敗。

2003–10
スピリット/NASA/グセフ・クレーターに着陸成功(2004年1月4日)。当初予定の90ソルを大幅に超え約6年稼働。硫酸塩鉱物、熱水活動の痕跡を発見。

2003–18
オポチュニティ/NASA/メリディアニ平原に着陸成功(2004年1月25日)。約15年稼働。ヘマタイト球粒(ブルーベリー)、水成堆積岩を発見。走行距離45.16km(惑星探査ローバー記録)。2018年砂嵐により通信途絶。

2005–現在
マーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)/NASA/高解像度カメラHiRISEにより前例のない解像度の画像を取得。RSL(繰り返し現れる斜面の筋)を発見。水分子の痕跡を検出。

スピリットとオポチュニティの成功は、火星探査の新時代を切り開いた。特にオポチュニティは予定寿命の60倍以上稼働し続け、火星が過去に水に富んだ環境であったことの決定的な証拠を提供した。


探査の深化(2008–2020)——居住可能性へ

2007–08
フェニックス/NASA/北極地域に着陸成功(2008年5月25日)。地下数センチの場所で水の氷を直接確認。過塩素酸塩を検出。

2011–現在
マーズ・サイエンス・ラボラトリー(キュリオシティ)/NASA/ゲール・クレーターに着陸成功(2012年8月5日)。有機分子を検出。古代湖環境の証拠を発見。「居住可能だった惑星」として再定義。現在も稼働中。

2013–現在
MAVEN/NASA/大気散逸の直接観測。太陽風による大気剥離を実測。年間約100グラム/秒の大気散逸を確認。

2016
エクソマーズ・トレース・ガス・オービター(TGO)/ESA/ロスコスモス/軌道投入成功。大気中の微量ガス分析。着陸実証機スキアパレッリは着陸失敗。

2018–22
インサイト/NASA/エリシウム平原に着陸成功(2018年11月26日)。火星震(marsquake)を観測。内部構造(コア半径約1,830km)を推定。熱流束を測定。2022年12月通信途絶。

キュリオシティによる有機分子の検出と古代湖環境の発見は、火星が「居住可能だった惑星」であるという結論を科学的に確立した。


現在進行中の探査(2020–)——サンプルリターンへ

2020–現在
パーサヴィアランス/NASA/ジェゼロ・クレーターに着陸成功(2021年2月18日)。古代デルタで岩石コアを採取・保管。MOXIE実験で酸素生成に成功。小型ヘリコプター「インジェニュイティ」を搭載。マイクロフォンで火星の音を初記録。稼働中。

2020–現在
インジェニュイティ/NASA/史上初の火星動力飛行成功(2021年4月19日)。70回以上の飛行を達成。2024年1月通信途絶。

2020–現在
天問1号/CNSA(中国)/火星軌道投入成功(2021年2月)。ローバー「祝融」がユートピア平原に着陸成功(2021年5月15日)。中国初の火星探査成功。

2020–現在
アル・アマル(希望)/UAE/火星軌道投入成功(2021年2月)。アラブ世界初の惑星探査機。大気・気候の観測を継続中。

計画中
Mars Sample Return/NASA/ESA/パーサヴィアランスが採取したサンプルを地球に持ち帰る計画。2030年代の実現を目指しているが、技術的・予算的課題により計画は見直し中。

計画中
エクソマーズ・ローバー(ロザリンド・フランクリン)/ESA/(当初ロスコスモス)/地下掘削能力を持つローバー。ロシアのウクライナ侵攻によりロシアとの協力関係が終了。代替着陸システムを開発中。

2021年は「火星の年」とも言うべき年であった。3つの探査機(パーサヴィアランス、天問1号、アル・アマル)が相次いで火星に到着し、火星探査が国際的な広がりを持つことが明確になった。

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(2026.5.15 noteにて公開)

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