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火星——赤い地平の向こう:付録C 主要な地形名称一覧

火星の地形名称は、国際天文学連合(IAU)によって管理されている。以下に、本書で言及したもの、および火星を理解する上で重要なものを整理する。



C.1 地形の種類と命名規則

火星の地形には、種類ごとに命名規則がある。

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\begin{array}{} \hline
\text{地形の種類} & \text{ラテン語表記} & \text{命名の規則} & \text{備考・代表例} \\ \hline
\text{大きな平原} & \text{Planitia} & \text{付近の古典的なアルベド地形の名前} & \text{アマゾニス平原 など} \\ \hline
\text{高地・台地} & \text{Terra / Planum} & \text{付近の古典的なアルベド地形の名前} & \text{アラビア大陸 など} \\ \hline
\text{火山} & \text{Mons / Montes} & \text{付近の古典的なアルベド地形の名前} & \text{オリンポス山 など} \\ \hline
\text{峡谷・谷(大)} & \text{Vallis / Valles} & \text{様々な言語での「火星」や「星」を意味する言葉} & \text{カセイ峡谷(日本語由来)など} \\ \hline
\text{峡谷・谷(小)} & \text{Vallis / Valles} & \text{地球上の古典的、または現代の川の名前} & \text{ナネディ峡谷(レソトの川)など} \\ \hline
\text{洪水地形など} & \text{Chaos / Chasma} & \text{付近の古典的なアルベド地形の名前} & \text{イアニ・カオス など} \\ \hline
\text{クレーター(大)} & \text{Crater} & \text{火星研究に貢献した科学者や作家の名前} & \text{直径60km以上} \\ \hline
\text{クレーター(小)} & \text{Crater} & \text{地球の人口10万人未満の町や村の名前} & \text{鳴子クレーター(日本)など} \\ \hline
\text{極の台地(極冠)} & \text{Planum} & \text{方角(北や南)を示すラテン語} & \text{プラヌム・ボレウム(北の台地)など} \\ \hline
\end{array}
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なお、スキャパレッリが19世紀に命名したアルベド地形(地表の明暗に基づく見かけ上の地形)の名称は、現代の地形名称体系とは別に使用されることがある。「東キャナル」「西キャナル」などの名称は、アルベド地形に由来する。


C.2 主要な火山

オリンポス山(Olympus Mons) 高さ:約21.9キロメートル(海抜) 基底部直径:約600キロメートル 種別:盾状火山 特記:太陽系最大の火山。ギリシャ神話の神々の山オリンポスに因む。周囲を高さ8キロメートルの断崖が囲む。最新の溶岩流は約2億年前と推定。タルシス隆起帯に位置する。

タルシス三山(Tharsis Montes) アスクレウス山(Ascraeus Mons)、パウォニス山(Pavonis Mons)、アルシア山(Arsia Mons)の三つの大型火山からなる。それぞれ高さ約18キロメートル前後。タルシス隆起帯(Tharsis Bulge)と呼ばれる、火星の地殻が大きく盛り上がった領域に位置する。

エリシウム山(Elysium Mons) 高さ:約14キロメートル タルシス隆起帯とは別の、エリシウム隆起帯に位置する。ギリシャ神話の楽園「エリュシオン」に因む。周辺には比較的新しい溶岩流が見られる。


C.3 主要な峡谷・谷

ヴァレス・マリネリス(Valles Marineris) 全長:約4,000キロメートル 最大幅:約700キロメートル 最大深さ:約7キロメートル 命名:マリナー探査機に因む。 特記:太陽系最大の峡谷系。地球のグランドキャニオン(長さ約446km、深さ最大1.8km)を遥かに凌ぐ。テクトニクス的な地殻の引き裂き、あるいは地下の溶岩の引き抜きによる陥没が主な形成原因と考えられている。複数の峡谷が平行に走り、東端と西端で性質が異なる。

マリネリス峡谷群の構成部分(西から東へ) ノクティス・ラビリントス(Noctis Labyrinthus):「夜の迷宮」の意。複雑な谷地形。 ティトノス・カスマ(Tithonium Chasma) イウス・カスマ(Ius Chasma) メラス・カスマ(Melas Chasma):ヴァレス・マリネリスの中でも最も広い部分。 コプラテス・カスマ(Coprates Chasma) カプリ・カスマ(Capri Chasma) エオス・カスマ(Eos Chasma)


C.4 主要な平原

クリセ平原(Chryse Planitia) 「黄金の平原」の意(ギリシャ語)。バイキング1号の着陸地点。北半球低地の一部。古代の洪水地形が多く見られる。

ユートピア平原(Utopia Planitia) バイキング2号および中国の祝融ローバーの着陸地点。北半球低地の中で最も大きな平原。地下に大量の水氷が埋蔵されていると推定されている。「ユートピア」はトーマス・モアの架空の理想郷に因む。

メリディアニ平原(Meridiani Planum) オポチュニティの着陸地点。赤道付近に位置する。ヘマタイト(赤鉄鉱)が豊富に分布し、過去に水が存在した証拠を多く含む。「メリディアニ」は子午線(meridian)に因む。

エリシウム平原(Elysium Planitia) インサイト探査機の着陸地点。北半球低地の一部。比較的平坦で着陸に適した地形。

アマゾン平原(Amazonis Planitia) 火星で最も滑らかな地形の一つ。比較的若い地質年代の溶岩流で覆われている。


C.5 主要なクレーター・盆地

ヘラス盆地(Hellas Planitia) 直径:約2,300キロメートル 深さ:約7キロメートル(太陽系最深の衝突盆地の一つ) 特記:南半球に位置する巨大な衝突盆地。盆地内の大気圧は火星平均より高く、液体の水が存在しやすい条件の一つ。

アルギュール盆地(Argyre Planitia) 直径:約1,800キロメートル 南半球に位置する衝突盆地。ヘラス盆地と並ぶ大規模な衝突痕。古代の水が流れ込んでいた可能性がある。

ゲール・クレーター(Gale Crater) 直径:約154キロメートル キュリオシティの着陸地点。中央に「シャープ山」(Aeolis Mons)と呼ばれる高さ約5.5キロメートルの山を持つ。堆積岩の層状構造が詳細に記録されており、火星の気候史の解読に重要な場所。

ジェゼロ・クレーター(Jezero Crater) 直径:約45キロメートル パーサヴィアランスの着陸地点。「生命の水」を意味するボスニア語に因む。古代デルタ地形と河道を持ち、約35億年前に湖が存在した可能性が高い。生命の痕跡が保存されている可能性が最も高い地点の一つとして選定された。

グセフ・クレーター(Gusev Crater) 直径:約166キロメートル スピリットの着陸地点。古代の河川「マアディム・ヴァリス」が流れ込んでいた痕跡があり、かつて湖であった可能性がある。ロシアの天文学者マトヴェイ・グセフに因む。


C.6 主要な高地・台地

ノアキス・テラ(Noachis Terra) 南半球の古い高地。ノアキアン期の名前の由来となった地域。クレーターが密集し、太陽系でも最古級の地表が残る。

テラ・サバエア(Terra Sabaea) 南半球に位置する古い高地。アルベド地形としての「サバエア」は、古代アラビアの地名に因む。

シルチス・マジョル(Syrtis Major Planum) ホイヘンスが1659年に初めて火星表面の暗い模様として観測した地形。玄武岩質の平原。名前は古代地名(現在の北アフリカのスルト湾)に因む。アルベド地形としての「シルチス・マジョル」は、火星観測史上最も古くから知られた地形の一つ。

アラビア・テラ(Arabia Terra) 北半球の大規模な高地。複雑な侵食地形を持ち、古代の水活動の痕跡が多く残る。粘土鉱物(フィロケイ酸塩)の分布も確認されている。


C.7 探査機着陸地点のまとめ

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\begin{array}{} \hline
\text{探査機} & \text{着陸地点} & \text{年} & \text{成果の概要} \\ \hline
\text{バイキング1号} & \text{クリセ平原} & \text{1976} & \text{初の長期地表観測、生命探査実験} \\ \hline
\text{バイキング2号} & \text{ユートピア平原} & \text{1976} & \text{生命探査実験} \\ \hline
\text{マーズ・パスファインダー} & \text{アレス・ヴァリス} & \text{1997} & \text{初のローバー(ソジャーナー)展開} \\ \hline
\text{スピリット} & \text{グセフ・クレーター} & \text{2004} & \text{熱水活動の痕跡を発見} \\ \hline
\text{オポチュニティ} & \text{メリディアニ平原} & \text{2004} & \text{水成堆積岩、ヘマタイト球粒を発見} \\ \hline
\text{フェニックス} & \text{北極地域} & \text{2008} & \text{水の氷を直接確認、過塩素酸塩を検出} \\ \hline
\text{キュリオシティ} & \text{ゲール・クレーター} & \text{2012} & \text{有機分子を検出、古代湖環境を確認} \\ \hline
\text{インサイト} & \text{エリシウム平原} & \text{2018} & \text{火星震を観測、内部構造を推定} \\ \hline
\text{祝融} & \text{ユートピア平原} & \text{2021} & \text{地下に水氷の痕跡を示す地層を確認} \\ \hline
\text{パーサヴィアランス} & \text{ジェゼロ・クレーター} & \text{2021} & \text{岩石コアを採取、酸素生成に成功} \\ \hline
\end{array}
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(2026.5.23 noteにて公開)


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