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タイタン――オレンジ色の霧の向こう(7):第3章 タイタンの基礎的性質(上)

カッシーニ・ホイヘンス・ミッションは、タイタンについての膨大なデータをもたらした。だが、それらのデータが明らかにしたのは、単なる事実の集積以上のものである。タイタンの物理的性質を理解することは、なぜこの衛星がかくも特異な存在であるのかという問いに答える手がかりとなる。そして同時に、新たな謎をも浮かび上がらせるのだ。

軌道と物理特性

タイタンは土星から約122万キロメートルの距離を公転している。これは土星の半径の約20倍に相当する。公転周期は15.95日(地球日)で、これがタイタンの1日の長さである。だが、タイタンと土星の関係を語る上で重要なのは、土星自体の公転周期である——29.5地球年。タイタンは土星とともに、この長大な時間をかけて太陽の周りを回っているのだ。

タイタンは潮汐ロック(tidal locking)と呼ばれる状態にある。つまり、常に同じ面を土星に向けている。これは地球の月と同じ現象である。タイタンの自転周期と公転周期が同期しているため、タイタンから見れば、土星は常に空の同じ位置に留まっている。

タイタンの直径は5,150キロメートル。地球の月(直径3,474キロメートル)よりも遥かに大きく、惑星である水星(直径4,879キロメートル)をも上回る。質量は1.35×10²³キログラムで、密度は1.88g/cm³である。この密度から、タイタンが岩石核と水の氷のマントルから成ることがわかる。具体的には、タイタンの組成は50-55%が岩石、残りが水の氷とその他の物質である。

タイタンの内部構造は明確な層構造に分化している。中心には半径約2,000キロメートルの岩石核があり、それを様々な形態の氷の層が取り囲んでいる。そして、その氷の外殻と核の間に、液体の層——地下海——が存在することが確実視されている。これについては後述する。

大気の謎——なぜタイタンだけが

タイタンの最も顕著な特徴は、その厚い大気である。だが、この事実そのものが、実は深い謎を孕んでいる。なぜタイタンだけが、太陽系の衛星の中で唯一、厚い大気を保持しているのか。

木星の衛星ガニメデとカリストは、タイタンと構造的に類似している。両者とも岩石核と氷のマントルを持ち、大きさもタイタンに匹敵する。実際、ガニメデ(直径5,268キロメートル)はタイタンよりも僅かに大きい。それにもかかわらず、ガニメデとカリストには実質的な大気がほとんど存在しない。なぜタイタンだけが例外なのか。

この問いに対する完全な答えは、未だ得られていない。だが、いくつかの要因が指摘されている。第一に、タイタンの低温である。地表温度が94ケルビン(マイナス179度)という極低温では、気体分子の熱運動が遅く、重力から逃れにくい。第二に、窒素分子(N₂)の重さである。窒素分子の分子量は28で、水素(分子量2)やヘリウム(分子量4)に比べて遥かに重い。重い分子は、タイタン程度の重力でも保持されやすい。

だが、これだけでは説明として不十分である。なぜなら、ガニメデやカリストも同様に低温であり、タイタンと同程度の重力を持つからだ。タイタンが大気を保持している真の理由は、おそらくその形成過程や内部からのガスの供給と関係しているのだろう。だが、その詳細は依然として謎のままなのである。

大気組成——窒素とメタンの世界

ボイジャー1号による最初の測定以来、タイタンの大気組成は徐々に明らかになってきた。カッシーニとホイヘンスのデータにより、現在では高い精度で組成が判明している。

対流圏(地表から高度約42キロメートル)では、窒素が約95%、メタンが約5%(地表付近では4.9%)を占める。水素は約0.1%存在する。その他、エタン、プロパン、アセチレン、シアン化水素など、微量の炭化水素や窒素化合物が含まれる。

成層圏(高度約42キロメートルから約300キロメートル前後まで)では、窒素の割合が増加して約98.4%になる。メタンは約1.4%に減少する。この違いは、対流圏と成層圏の境界(対流圏界面)にある「コールドトラップ」によって説明される。高度42キロメートル付近で大気温度は最低値の71ケルビン(マイナス202度)に達し、メタンが凝結して雲を形成するため、それより上層ではメタンの割合が減少するのである。

窒素が主成分であるという事実は、予想外のものだった。1944年にカイパーがメタンを検出して以来、多くの科学者はメタンが大気の主成分だと考えていた。だが実際には、窒素が圧倒的に優勢だったのである。この発見により、タイタンは単なる「冷たいメタンの世界」ではなく、地球と共通する窒素主体の大気を持つ世界として位置づけられることになった。太陽系で窒素主体の厚い大気を持つのは、地球とタイタンだけなのである。

(続く)

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(2026.2.23 noteにて公開)

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