伴走支援は、やさしい傾聴でも、答えを出すコンサルでもない――良い会社づくりを支える第三の専門的支援
1 はじめに
前回は、コーチングと良い会社づくりの伴走支援の違いについて考えました。
コーチングは、経営者の内面を支える力を持っています。
経営者が自分の価値観を見つめ直す。
判断基準を整理する。
迷いや葛藤を言葉にする。
自分が本当は何を大切にしたいのかを確認する。
その意味で、コーチングは経営者にとって非常に有効な支援です。
しかし、良い会社づくりの伴走支援では、経営者の内面だけでなく、経営全体のつながりや詰まりを見る必要があります。
社長の思い。
経営理念・ビジョン。
ビジネスモデル。
システム化・型決め。
行動環境。
これらがどうつながり、どこで噛み合わなくなっているのか。
そこを見ることが、伴走支援には欠かせません。
では、伴走支援とは、コンサルティングのことなのでしょうか。
これもまた、少し違います。
今回考えたいのは、ここです。
伴走支援の最も大きな価値は、「やさしい傾聴」でも「答えを出すコンサル」でもない、第三の専門的支援として位置づけられる点にあります。
このことを、少し丁寧に考えてみたいと思います。
2 コンサルティングは、答えを提示する力を持っている
まず確認しておきたいのは、コンサルティングにも大きな価値があるということです。
コンサルティングは、多くの場合、支援者が専門知をもとに会社の課題を分析し、解決策を提案する支援です。
市場を分析する。
財務を分析する。
組織課題を整理する。
制度設計を提案する。
業務改善の計画をつくる。
人事制度を見直す。
事業戦略を立てる。
こうした支援は、会社にとって非常に重要です。
社内だけでは見えないことがあります。
経営者や社員が日々の仕事に追われていると、全体を客観的に見ることが難しくなります。
専門的な知識がなければ、制度設計や財務改善、マーケティング、DXなどの課題に対応しきれないこともあります。
そのようなとき、外部の専門家が分析し、選択肢を示し、具体策を提案することには大きな意味があります。
したがって、伴走支援とコンサルティングの違いを述べることは、コンサルティングを低く見ることではありません。
むしろ、コンサルティングが得意とする領域を認めたうえで、良い会社づくりの伴走支援は、それとは別の役割を担うということです。
3 しかし、良い会社づくりは、答えをもらうだけでは進まない
良い会社づくりにおいて難しいのは、答えが外から与えられただけでは、会社が本当に変わるとは限らないことです。
たとえば、外部の専門家が立派な改善策を示したとします。
評価制度を変えましょう。
会議体を見直しましょう。
採用の仕組みを整えましょう。
管理職研修をしましょう。
理念浸透のためのワークショップをしましょう。
いずれも、内容としては正しいかもしれません。
しかし、それを経営者が自分の言葉で理解していなければ、実行は続きません。
幹部が納得していなければ、現場には浸透しません。
社員が「また外部の人が作った制度が降りてきた」と感じれば、表面的な運用で終わってしまうこともあります。
良い会社づくりは、制度や施策を入れれば進むというものではありません。
経営者自身が、自社の状態を見立てる。
なぜそれが必要なのかを、自分の言葉で語れる。
幹部や社員と対話しながら、少しずつ実践に移す。
実践した結果を振り返り、また修正する。
このプロセスがなければ、会社は自走していきません。
支援者が答えを出し、経営者がそれを実行する。
この形だけでは、会社は一時的には動いても、自ら考え続ける力が育ちにくいことがあります。
良い会社づくりに必要なのは、正解をもらうことだけではありません。
自社を見立てる力を取り戻すことです。
4 伴走支援者は、経営者が自社を見立て直すことを支える
伴走支援者の役割は、経営者の代わりに答えを出すことではありません。
経営者が、自社の状態を見立て直せるように支えることです。
ここが、コンサルティングとの大きな違いです。
たとえば、採用がうまくいかない会社があるとします。
コンサルティング的な関わりであれば、
「求人票を改善しましょう」
「採用チャネルを増やしましょう」
「採用広報を強化しましょう」
「育成制度を整備しましょう」
といった提案が中心になるかもしれません。
もちろん、それが必要な場面はあります。
しかし、伴走支援では、まず次のように問います。
「採用がうまくいかないと感じている背景には、何がありそうでしょうか」
「採用した人が定着しないとすれば、どこで詰まりそうでしょうか」
「現場は、新しい人を受け入れられる状態になっているでしょうか」
「教える役割や時間は、今の仕事の中に組み込まれているでしょうか」
「そもそも、どのような人に来てほしいのかは、社内で共有されているでしょうか」
この問いは、支援者が答えを出すための問いではありません。
経営者自身が、自社の状態を見立て直すための問いです。
支援者が分析結果を一方的に示すのではなく、経営者が自分の会社をもう一度見つめ直す。
見えている課題の背後に、どのようなつながりがあるのかを考える。
採用の問題だと思っていたものが、実は育成や役割分担、行動環境の問題でもあったと気づく。
ここに、伴走支援の特徴があります。
伴走支援者は、何も知らない人ではありません。
専門知を持たなくてよいわけでもありません。
むしろ、経営を見る力は必要です。
しかし、その専門知を、相手に答えとして押しつけるのではなく、経営者が自分で見えるようになるために使います。
ここが重要です。
専門知を前に出しすぎると、経営者は受け身になります。
専門知をまったく使わなければ、単なる傾聴にとどまります。
伴走支援者は、その間の難しい場所に立ちます。
5 前に出すぎず、しかし何も言わずに横にいるだけでもない
伴走支援者の難しさは、ここにあります。
前に出すぎてはいけない。
しかし、何も言わずに横にいるだけでもいけない。
前に出すぎると、支援者が答えを持つ人になってしまいます。
経営者は、支援者の提案を待つようになります。
「先生、どうすればよいですか」
「次は何をすればよいですか」
「この判断で合っていますか」
このような関係になると、会社は支援者に依存しやすくなります。
一方で、何も言わずに横にいるだけでは、経営が動かないこともあります。
経営者が避けている論点がある。
先送りによって、社員に影響が出ている。
理念と現場がズレている。
仕組みと行動環境が噛み合っていない。
こうした状態が見えているのに、支援者が「社長が気づくまで待ちましょう」とだけ考えていると、会社の状態は悪くなることがあります。
伴走支援者に求められるのは、経営者の主体性を奪わずに、経営者の視野を広げることです。
答えを押しつけずに、必要な問いを置くことです。
安心できる関係をつくりながら、避けてはいけない論点も扱うことです。
ここに、伴走支援者の専門性があります。
6 必要な緊張を避けない
良い会社づくりの伴走支援では、安心できる関係がとても大切です。
経営者が本音を話せない関係では、深い支援はできません。
弱さや迷いを出せない場では、本当の課題は見えてきません。
しかし、安心だけでは不十分な場面もあります。
必要な緊張を避けてはいけない場面があります。
たとえば、価格改定を先送りしている社長がいたとします。
社長
「値上げが必要なのは分かっています。でも、取引先に嫌われたくないんです」
支援者
「嫌われたくないというお気持ちがあるのですね」
社長
「はい。だから、もう少し様子を見ようと思います」
ここで共感だけで終わると、社長は安心するかもしれません。
しかし、会社はじわじわと弱っていくかもしれません。
原価が上がっている。
利益が削られている。
社員の賃上げができない。
現場に無理がかかる。
必要な投資ができない。
この状態で価格改定を先送りし続けることは、単なる気持ちの問題ではありません。
収益構造の問題であり、良い会社づくりの土台に関わる問題です。
このとき、伴走支援者には、次のような問いかけが必要になることがあります。
伴走支援者
「嫌われたくないという気持ちは、とても自然だと思います。一方で、価格を据え置くことによって、会社や社員にどのような影響が出ているでしょうか」
社長
「社員の賃上げは難しくなっています。利益もかなり厳しいです」
伴走支援者
「そうすると、これは気持ちだけの問題ではなく、会社全体の状態にも関わっていそうですね。良い会社づくりの観点から見ると、ここで何を守る必要があると思われますか」
社長
「社員の生活や、会社の将来の投資ですね」
伴走支援者
「だとすれば、取引先にどう伝えるかを考えることも、避けて通れない論点かもしれません」
ここでも、支援者が「値上げすべきです」と断定しているわけではありません。
経営者が避けていた論点を、会社全体の視点から見直せるようにしています。
伴走支援では、関係性の安全を大切にします。
しかし、安全だけを守り続けて、経営上の危険を見ないわけにはいきません。
必要なのは、安心と緊張の両方です。
安心して話せる関係があるからこそ、必要な論点を避けずに扱うことができます。
簡単な正解がない課題に向き合うときには、支援者が快適さを守るだけでなく、必要な緊張を保つことも求められます(Heifetz, 1994; Heifetz, Grashow, & Linsky, 2009)。
7 伴走支援は、会社が自走するための支援である
良い会社づくりの伴走支援が目指すのは、支援者への依存ではありません。
経営者と会社が、自ら考え、判断し、実践し、学習していく力を高めることです。
この点で、伴走支援は組織学習の考え方とも関係しています。
組織は、単に知識を教えられることで変わるのではありません。
自分たちの行動を振り返り、前提を問い直し、実践を通じて学び直すことで変わっていきます(Argyris & Schön, 1996)。
良い会社づくりも同じです。
支援者が立派な答えを示しても、経営者や社員が自分たちのものとして考え、実践し、学習しなければ、会社は変わりません。
逆に、最初は小さな一歩でも、経営者が自分の言葉で考え、社員と対話し、会社の状態を見立て、実践を重ねていけば、会社は少しずつ変わっていきます。
伴走支援は、その変化のプロセスを支えるものです。
社長だけが抱え込む状態から、幹部や社員も一緒に考える状態へ。
思いつきの改善から、会社全体のつながりを見た改善へ。
支援者に答えを求める状態から、自社で問いを立て、実践し、振り返る状態へ。
この変化を支えることが、伴走支援の大切な役割です。
経営力再構築伴走支援においても、経営者の自己変革力や自走化が重視されています(中小企業庁ほか, 2023)。
伴走支援とは、経営者を依存させる支援ではありません。
経営者と会社が、自分たちで考え、動き、学び続ける力を取り戻すための支援なのです。
8 コーチングでも、コンサルティングでもない第三の専門的支援
ここまで見てきたように、伴走支援は、コーチングともコンサルティングとも重なる部分があります。
コーチングのように、経営者の内面を大切にします。
経営者の思い、迷い、葛藤、覚悟を丁寧に扱います。
一方で、コンサルティングのように、経営全体を見る視点も必要です。
理念、ビジネスモデル、仕組み、行動環境、収益構造、人材育成、組織の関係性。
これらを見なければ、良い会社づくりの詰まりは見えてきません。
しかし、伴走支援は、コーチングそのものではありません。
内面を深掘りするだけでは、会社が動かないことがあります。
また、伴走支援は、コンサルティングそのものでもありません。
答えを提示するだけでは、会社が自走する力は育ちにくいことがあります。
伴走支援の価値は、そのどちらでもないところにあります。
やさしい傾聴だけではない。
答えを出すコンサルでもない。
経営者が自社の状態を見立て直し、自ら考え、判断し、実践し、会社として学び続ける力を支える。
そこに、良い会社づくりの伴走支援という第三の専門的支援の意味があります。
9 良い会社づくりの伴走支援が目指すもの
良い会社づくりの伴走支援が目指しているものは、経営者を成長させることだけではありません。
もちろん、伴走支援の過程で、経営者は成長します。
自分の考えを整理し、判断基準を明確にし、会社全体を見る力を高めていきます。
しかし、それ自体が最終目的ではありません。
目的は、社員を大切にし、社員と会社がともに成長する良い会社をつくることです。
そのためには、経営者の思いだけでは足りません。
理念だけでも足りません。
制度だけでも足りません。
ビジネスモデル、仕組み、行動環境、人の成長、信頼関係がつながっていく必要があります。
伴走支援は、そのつながりを一緒に見ていく支援です。
経営者の内面を大切にしながら、そこに閉じない。
経営全体の構造や状態を見ながら、人を責めない。
答えを押しつけず、しかし必要な問いから逃げない。
待つべきところは待ち、動かすべきところは小さく動かす。
これが、私が考える良い会社づくりの伴走支援です。
コーチングと似ている。
しかし、同じではない。
コンサルティングの知見も活かす。
しかし、答えを押しつける支援ではない。
経営者の内面を大切にしながら、経営全体の詰まりを見て、会社が自走していく力を育てていく。
そこに、これからの伴走支援に求められる大切な役割があるのだと思います。
参考文献
Argyris, C., & Schön, D. A. (1996). Organizational learning II. Addison-Wesley.
Heifetz, R. A. (1994). Leadership without easy answers. Harvard University Press.
Heifetz, R. A., Grashow, A., & Linsky, M. (2009). The practice of adaptive leadership: Tools and tactics for changing your organization and the world. Harvard Business Press.
中小企業庁・独立行政法人中小企業基盤整備機構・経営力再構築伴走支援推進協議会(2023)「経営力再構築伴走支援ガイドライン(令和5年6月)」。
東渕則之(2017)「成長ドライバ理論による良い会社づくりのアプローチ」『松山大学論集』第29巻第3号, 55–100。
東渕則之(2020)「成長ドライバ理論が拓く総合経営診断の新たな地平――その理論と実践報告」『日本経営診断学会論集』19, 50–56。
