伴走支援とは何か。――助言でもコンサルでもない支援が、なぜ必要なのか。
成長ドライバ理論を用いた伴走支援を理解するうえで、避けて通れない問いがあります。
それは、「なぜ、安易な助言がかえって経営を混乱させることがあるのか」という問いです。
多くの経営者は、決して無知でも怠慢でもありません。
書籍も読み、セミナーにも参加し、正しいと思われることはすでに理解しています。
それでも動けないのは、助言の内容が間違っているからではなく、その助言が経営全体にどのような影響を及ぼすかを、経営者自身が感じ取っているからです。
■ 助言が成立しない場面で、何が起きているのか。
次のような場面は、伴走支援の現場でよく見られます。
伴走支援者
「理念を明確にして、社員にもっと伝えた方がいいと思います。」
経営者
「それは分かっています。
ただ、今それをやると、現場が混乱しそうで……。」
このやり取りは、一見すると経営者が消極的に見えるかもしれません。
しかし、経営者は無意識のうちに、影響の伝播を感じ取っています。
経営理念を明確にする。
それ自体は正しい行為です。
しかし、それによって、現場の行動環境がどう変わるか。
既存の評価制度や業務の型と整合するのか。
これらが整っていなければ、理念は空回りします。
成長ドライバ理論の視点では、これは「経営理念・ビジョン」と「行動環境」「システム化・型決め」の整合性が取れていない状態です(東渕, 2017, 2020)。
経営者は、そのズレを言語化できなくても、違和感として感じ取っています。
■ 経営者は「全体」を同時に見ている。
意思決定研究では、経営者は単一の基準で判断しているわけではなく、複数の影響を同時に考慮していることが示されています(March, 1994)。
そのため、部分最適の助言ほど、受け取りにくくなります。
伴走支援者
「まずは現場に任せてみてはどうでしょうか。」
経営者
「任せたい気持ちはあります。
でも、判断基準が共有されていない状態で任せると、
かえって責任の所在が曖昧になる気がします。」
この迷いは、「経営理念・ビジョン」、「自律」、「規律」これらの間のズレとして捉えることができます。
自律を促そうとする助言が、規律の不在によって逆効果になることを、経営者は直感的に理解しています。
このとき、助言が成立しないのは、経営者が頑固だからではありません。
経営者が、影響の連鎖を一歩先まで見ているからです。
■ 伴走支援が「問い」から始まる理由。
こうした場面で、伴走支援者がすべきことは、答えを足すことではありません。
問いを整えることです。
伴走支援者
「今、その判断をためらっている一番の理由は何でしょうか。」
経営者
「理念を出すことで、
現場に余計なプレッシャーがかかる気がしているのだと思います。」
伴走支援者
「そのプレッシャーは、
どの仕組みや関わり方から生まれそうでしょうか。」
このように問いを重ねることで、迷いは「性格の問題」や「覚悟の問題」ではなく、ドライバ間の関係として整理されていきます。
成長ドライバ理論は、この問いを支えるための地図です。
どこを問い、どこには踏み込まないか。
その判断を、支援者の内側で支えています。
■ 介入しないという、専門性。
伴走支援の特徴は、「何をするか」以上に、「何をしないか」にあります。
とくに、影響の伝播を意識すると、介入は自然と慎重になります。
伴走支援者
「今は、経営理念を言葉にするよりも、
判断基準が現場でどう使われているかを一緒に見てみませんか。」
この提案は、正解を示していません。
しかし、経営全体の整合性を崩さないための判断です。
成長ドライバ理論は、支援者に対して「急いで整えすぎない」ことを教えます。
一つのドライバを動かすことは、他のドライバにも必ず影響を及ぼします。
だからこそ、支援者は、あえて待つという選択を取ります。
■ 伴走支援とは、影響の連鎖に耐える支援である。
伴走支援は、即効性のある支援ではありません。
むしろ、変化がどのように伝播していくかを見守る支援です。
組織学習論では、変化は段階的に起こり、予期せぬ副作用を伴うことが指摘されています(Argyris & Schön, 1996)。
成長ドライバ理論は、この前提を実務の中で扱いやすくした枠組みと言えます。
伴走支援者は、
・変えたい気持ち
・変えることへの不安
・変えた結果として起きる影響
これらを同時に抱えている経営者の横に立ちます。
助言を控え、問いを整え、影響の連鎖に耐える。
それが、コンサルでもコーチングでもない、伴走支援の核心です。
次章では、こうした支援が、なぜ「集客段階」から始まっているのかを見ていきます。
伴走支援のプロセス全体を、時間軸で捉えていきます。
参考文献
Argyris, C., & Schön, D. A. (1996). Organizational learning II: Theory, method, and practice. Addison-Wesley.
March, J. G. (1994). A primer on decision making: How decisions happen. Free Press.
東渕則之 (2017). 「成長ドライバ理論による良い会社づくりのアプローチ」松山大学論集
第29巻第3号, 55–100。
東渕則之 (2020). 「成長ドライバ理論が拓く総合経営診断の新たな地平 ―その理論と実践報告―」日本経営診断学会論集19, 50–56。
