成長ドライバ理論のフレームワークが示す「経営の構造」
1.「良い会社」とはどのような会社なのか
「良い会社」とはどんな会社でしょうか。
たとえば、収益性や成長性が高い、顧客満足度が高い、社会貢献性が高い、社会から信頼されている、社員のモチベーションが高い、社員満足度が高い、職場の雰囲気が良いなど、多様な考え方があります。
私は、これらを包摂するものとして、
「良い会社」とは
「社員を大切にし、社員と会社がともに成長する会社」
と定義しています。前半の「社員を大切にする」は、一定の給与や休日、福利厚生などはもとより、社員に対して誠実であり、厳しい中にも働きがいがあり、仕事を通じて人としても社員としても成長できる環境があるという意味です。
後半の「社員と会社がともに成長する」というのは、文字通り社員が成長するということ、それだけではなく会社も成長するという意味です。ここでいう会社の成長とは、量ではなく質の成長を意味しています(Penrose, 1959)。
会社が質的に成長することによって確固とした経営基盤が形成され、
それに応じて景気に左右されることなく、充実したアフターフォローやより良い商品・サービスが生み出せるようになります。
顧客満足や社会からの信頼が高まることで社員の満足度も高まり、安心して仕事に取り組むことができるようになります。
職場の信頼感が醸成され、雰囲気も良くなります。このような状態が、会社が成長している状態です。
以上のような考えから、「良い会社」は「社員を大切にし、社員と会社がともに成長する会社」と定義できると考えているのです。
2.人を大切にする経営と財務的な業績向上の関係
では、人、つまり社員を大切にする経営をすると、売上や利益など財務的な業績は高まるのでしょうか。
法政大学の坂本光司教授は、多くの企業調査の結果、社員を大切にしている会社は社員のモチベーションが高く、その結果、売上高や過去5年間の経常利益率が高い傾向があると述べています(坂本, 2008)。
人を大切にする経営が財務的な業績向上を生み出しているという現象は、日本に限ったことではありません。
たとえば、ジョン・マッキーとラジェンドラ・シソーディアは、社員が学び、成長する意欲を掻き立てられ、自己実現をはかりながら活躍できるように配慮している会社は、顧客に対する価値創造に優れ、そうでない企業よりも高い利益率を達成していると述べています(Mackey & Sisodia, 2013)。
しかし私は、「どのような会社でも、社員を大切にすれば業績が向上する」とは限らないと考えています。
当たり前のことですが、社員を大切にするだけで業績が上がるなら、こんな簡単なことはないでしょう。
社員を大切にする行為と同時に、「経営がうまく回って、社員と会社がともに成長するようなメカニズムが整備されている」ことが必要と考えられます。
経営がうまく回るメカニズムがある程度できていて初めて、社員を大切にする行為がそのメカニズムを刺激し、効率的・効果的に動かし、その結果として業績が向上すると考えることができるのです(Pfeffer, 1998;Becker et al., 2001)。
すなわち、社員を大切にするという姿勢や行為は、それ単体で成果を生むものではなく、
経営の基本メカニズムを刺激し、円滑に機能させるための重要なエネルギー源として位置づけられるのです。
3.成長ドライバ理論のフレームワークと考え方
良い会社づくりは包括的な行為であるので、それを進める際には、経営の重要な要素、そしてそれらの関連を示す、いわゆる「経営の全体像を捉えるフレームワーク」があると便利です。
その一つとして有効であると考えられるのが、「成長ドライバ理論のフレームワーク」です。
経営全体の構造をしめすフレームワークです。
これを図示すると以下のようになります。

※本図は「会社がうまく回る条件」を、5つのメインドライバと5つのサブドライバとして整理した概念図です。
※図中の矢印は、固定的な因果(Aがあれば必ずBが起きる)や時系列の手順を示すものではありません。各ドライバが整合することで、職場の判断や行動を介して影響が伝播しやすい方向性を示したものである。現実の企業では影響は一方向に限られず、循環的・相互作用的に現れます。
※したがって本図は「管理の設計図」ではなく、経営の状態を誤読なく捉えるための観察と対話の地図として用いることが適切です。
この図には、企業の円滑な運営や成長を生み出す原動力となる「社長」「経営理念・ビジョン」「ビジネスモデル」「システム化・型決め」「行動環境」の5つの大きな要素(メインドライバ)が表現されています。
このうち5つ目の「行動環境」は、会社の風土や雰囲気、においのことです。社員が成長するためには、学習と成長が起こるような行動環境であることが望ましいと言われています(Argyris & Schön, 1978)。
そして、社員が育つ行動環境を生み出す原動力として、「ストレッチ」「サポート」「自律」「規律」「信頼」の5つの要素(サブドライバ)があります。
行動環境、とりわけ信頼や心理的安全性が学習行動を促すことは、心理的安全性研究の蓄積からも支持されています(Edmondson, 1999)。
さらに、組織を「個人の判断と行動が連鎖する動的システム」として捉える視点は、Individualized Corporation 論における問題意識とも親和性が高いと言えます(Ghoshal & Bartlett, 1997)。
ここで、「ビジネスモデル」「システム化・型決め」「行動環境」の関連、さらに「社長」「経営理念・ビジョン」との関連等について、この図を俯瞰しながら見ていきます。これは、経営がうまく回り、社員と会社がともに成長するプロセスの大まかな姿です。
企業は顧客に商品やサービスを提供して利益を得ます。どのようにして利益を生み出すか、その仕組みが「ビジネスモデル」です。
中には、ちょっとしたヒット商品や新規サービスを原動力にして急成長している会社もあります。
そのような会社は、効率的な生産体制やサービス提供方法が整っていないことが少なくありません。当然、顧客に飽きられたり、すぐに真似されて他の企業が類似の商品・サービスをより安く提供したりすると、一気に売上が落ちて会社が傾いてしまいます。その意味で「一時的な成功」と言わざるを得ません。
しかし「システム化・型決め」が伴うようになれば、ビジネスモデルの効率性が高まり、精緻化され、一時的ではない実効力を持つようになります。
これによって初めて、ある程度の期間にわたってしっかりとした成長が可能となるのです。
とはいえ時間が経てば、顧客のニーズが変わったり、ライバル会社がより良いものを提供したりするなど、ビジネスモデルは徐々に陳腐化していきます。その意味で、システム化・型決めが出来上がったとしても、まだ成長軌道に乗ったとはいえません。それは、常に改善し続けたり、イノベーションを生んだりする力が伴っていないからです。
改善やイノベーションの原動力は「社員」、つまり「人」です。「人の成長」を生み出す力や仕組みが経営に組み込まれていなければ、中長期的に安定した企業成長は実現できません。
ここでいう「人の成長」とは、単なるスキルの向上だけを意味するものではありません。「お客さまに満足してもらいたい」「仕事のやり方を改善したい」「仕事を通して自らを高めたい」等、マインド面での成長も意味しています。
経営がうまく回り、企業が中長期的な成長軌道に乗るためには、単に「ビジネスモデル」や「システム化・型決め」ができているだけでなく、人が成長できる「行動環境」を同時につくっておく必要があるのです。
そのカギが、前述した5つのサブドライバです。
つまり、
社員が自分の能力を少し超えたことに挑戦することが奨励されている、
上司はそれを支える役割を担っている、
社員は会社の理念や方針を踏まえて自分で判断して行動ができる、
やると決まったことはやり切る、
それらの前提として上下の信頼、横の信頼が培われている、
このような「行動環境」が望ましいといえるのです。
中堅・中小企業において、このようなメカニズムを構想し、つくり出すのは「社長」です。
そして、指針として社員に示し、リードしていくために「経営理念・ビジョン」が存在します。
社長は事業に思いを持ってこれを高く掲げ、
それを基軸にして「ビジネスモデル」「システム化・型決め」「行動環境」を作り込み、率先垂範して実行していく役割を担うのです。
経営の有効なモデルとは、「社長」「経営理念・ビジョン」「ビジネスモデル」「システム化・型決め」「行動環境」が整合性を保ちながら、ダイナミックに刺激し合い、上昇スパイラルを描いて、あるべき姿に近づいて行くことです。
このようにメインドライバ、サブドライバを、うまく回るようにコントロールしていくことが経営行為の要諦です。
そして、「社員を大切にする思いや行為」は、各ドライバが生き生きと活動し、良い影響が伝播していくためのエネルギー、潤滑油になります。
これによって、成長ドライバ理論のフレームワークに血が通うのです。
真の偉大な企業は、この先に北極星のように輝いているはずです。
経営者の皆様は、自らの北極星の姿を思い浮かべつつ、成長ドライバ理論のフレームワーク図を手に、目の前の一歩一歩を歩んで行かれることが有効と思われます。
