伴走支援者に求められるのは、「問いの場所」を見抜く力であるーー経営改善の伴走支援へ
1. 起業支援で見えてきたこと
起業の伴走支援について考えてきて、あらためて感じることがあります。
それは、伴走支援で大切なのは、単に正しい助言をすることではない、ということです。
もちろん、知識は必要です。
事業計画の作り方。
顧客理解。
マーケティング。
価格設定。
資金計画。
販売方法。
こうした知識は、起業支援において重要です。
しかし、支援の現場では、知識をそのまま伝えればよいわけではありません。
むしろ重要なのは、
「いま、この人はどの問いの前に立っているのか」
を見極めることです。
起業者がまだ、
「本当に自分がこれをやるのか」
で迷っているのに、いきなり収益モデルを詰めようとしても、支援はかみ合いません。
アイデアを人に見せることを怖がっているのに、すぐに顧客への販売を求めても、動けなくなります。
ターゲット顧客に提案することに抵抗を感じているのに、行動量だけを求めても、かえって重くなります。
今後も売れそうだという見通しを探している段階で、支援者が早く正解を出しすぎると、起業者が自分で判断する経験を失います。
つまり、支援者に求められるのは、答えを急ぐ力ではありません。
問いの場所を見抜く力です。
2. この考え方は、起業支援だけのものではない
この考え方は、起業の伴走支援だけに限られないと思います。
通常の経営改善の伴走支援にも、そのまま通じるものがあります。
経営改善の現場でも、支援者はよく助言を求められます。
売上を伸ばしたい。
人が育たない。
社員が動かない。
理念が浸透しない。
現場がバラバラである。
仕組みがない。
管理職が機能していない。
利益が出ない。
こうした相談を受けると、支援者はすぐに解決策を考えたくなります。
販売促進を強化しましょう。
評価制度を整えましょう。
会議体を見直しましょう。
マニュアルを作りましょう。
管理職研修をしましょう。
理念共有の場を作りましょう。
どれも間違いではありません。
しかし、ここでも大切なのは、
「いま、この会社はどの問いの前に立っているのか」
を見ることです。
売上の問題に見えていても、実はビジネスモデルの問題かもしれません。
社員のやる気の問題に見えていても、実は行動環境の問題かもしれません。
管理職の能力不足に見えていても、実は社長の意思決定や権限委譲の問題かもしれません。
理念が浸透していないように見えても、実は理念と日々の仕組みがつながっていないのかもしれません。
表に出ている症状と、本当に問うべき場所は、必ずしも同じではありません。
3. 経営改善では、「相」はどこに現れるのか
起業支援では、起業者の進み方を5つの相として整理しました。
しかし、通常の経営改善では、同じように第1相、第2相と並べることは難しいかもしれません。
既存企業は、すでに動いています。
社員もいます。
顧客もいます。
商品・サービスもあります。
売上もあります。
歴史もあります。
だから、起業支援のように、起業を引き受ける相から順に進むわけではありません。
では、経営改善における「相」に相当するものは何でしょうか。
私は、それは会社の中で、どのドライバがいま問われているのか、そしてドライバ間の影響がどこで詰まっているのか、ということだと思います。
成長ドライバ理論では、会社の成長を、いくつかの主要なドライバの働きとして見ます。
社長ドライバ。
理念・ビジョン。
ビジネスモデル。
システム化・型決め。
行動環境。
これらは、バラバラに存在しているわけではありません。
互いに影響し合っています。
たとえば、社長の考え方が理念・ビジョンに影響します。
理念・ビジョンは、ビジネスモデルや仕組みの設計に影響します。
ビジネスモデルは、現場の仕事の進め方に影響します。
システム化・型決めは、社員が安心して動けるかどうかに影響します。
行動環境は、社員が挑戦し、学び、協力し、自律的に動けるかどうかに影響します。
つまり、経営改善では、起業支援のような「相」は、時間順の段階としてではなく、
「いま、どのドライバが問われているのか」
「どのドライバから、どのドライバへの影響が詰まっているのか」
という形で現れるのだと思います。
4. 目の前の問題だけを見ると、問いを間違える
たとえば、ある会社で社員が主体的に動かないとします。
このとき、すぐに、
「社員の意識が低い」
「もっと自律性を高める研修が必要だ」
と考えることがあります。
しかし、本当にそうでしょうか。
社員が主体的に動かない背景には、いくつもの可能性があります。
社長が最終判断をすべて握っていて、社員が判断する余地がないのかもしれません。
理念や方針が曖昧で、何を基準に判断すればよいか分からないのかもしれません。
ビジネスモデルが複雑になり、現場が何を優先すべきか見失っているのかもしれません。
仕事の手順や役割が整理されておらず、動きたくても動けないのかもしれません。
失敗すると責められる空気があり、挑戦するより待つほうが安全になっているのかもしれません。
この場合、表に出ているのは「自律性の不足」です。
しかし、問うべき場所は、必ずしも行動環境だけではありません。
社長ドライバかもしれません。
理念・ビジョンかもしれません。
システム化・型決めかもしれません。
複数のドライバの間のつながりかもしれません。
ここを見誤ると、支援は表面的になります。
社員に自律性を求める研修をしても、社長が判断を手放さなければ変わらないかもしれません。
理念研修をしても、日々の仕組みが理念と矛盾していれば変わらないかもしれません。
管理職研修をしても、管理職に権限と役割が与えられていなければ変わらないかもしれません。
問いの場所を間違えると、正しい施策でも効きにくいのです。
5. 伴走支援者は、原因を一つに決めつけない
経営改善の伴走支援では、原因を一つに決めつけないことが大切です。
もちろん、原因を探ることは必要です。
しかし、経営の問題は、単純な一原因一結果では動きません。
社長の意思決定。
理念・ビジョンの受け止められ方。
ビジネスモデルの変化。
仕組みの整備状況。
現場の行動環境。
これらが重なり合って、いまの状態を作っています。
だから支援者は、
「これは社長の問題です」
「これは社員の問題です」
「これは仕組みの問題です」
と早く決めつけすぎないほうがよい。
むしろ、
「どのドライバが弱くなっているのか」
「どことどこのつながりが切れているのか」
「どこから悪影響が伝わっているのか」
「逆に、どこを整えると良い影響が伝わりそうなのか」
を見ていく必要があります。
たとえば、ビジネスモデルが変わったのに、仕事の仕組みが昔のままだとします。
この場合、現場では混乱が起きます。
社員は頑張っているのに、成果が出にくくなります。
その結果、行動環境が悪くなり、挑戦や協力も減っていきます。
表面だけ見ると、
「社員のやる気が下がった」
ように見えるかもしれません。
しかし実際には、ビジネスモデルとシステム化・型決めのズレが、行動環境に悪影響を及ぼしているのかもしれません。
ここを見抜けるかどうか。
それが、伴走支援者の重要な専門性だと思います。
6. 支援者に必要なのは、「問いを置く場所」を見抜く力である
伴走支援者は、問いを投げる人です。
しかし、問いは何でもよいわけではありません。
問いには、置く場所があります。
社長ドライバに置くべき問い。
理念・ビジョンに置くべき問い。
ビジネスモデルに置くべき問い。
システム化・型決めに置くべき問い。
行動環境に置くべき問い。
ドライバ間のつながりに置くべき問い。
たとえば、社長ドライバに置く問いであれば、
「社長ご自身は、何を手放せずにいるのでしょうか」
「どこまでを社員に任せたいと思っていますか」
「しかし、実際にはどこで確認を求めてしまっていますか」
という問いになるかもしれません。
理念・ビジョンに置く問いであれば、
「その理念は、日々の判断基準として使われていますか」
「社員は、その言葉を自分の仕事と結びつけて理解していますか」
「理念と実際の仕組みがずれているところはありませんか」
という問いになるかもしれません。
ビジネスモデルに置く問いであれば、
「いま、誰にどの価値を提供して利益を得ているのでしょうか」
「以前と比べて、顧客や価値の作り方は変わっていませんか」
「その変化に、現場の仕事の進め方は追いついていますか」
という問いになるかもしれません。
システム化・型決めに置く問いであれば、
「誰がやっても一定水準でできる仕事になっていますか」
「判断基準や手順は、どこまで共有されていますか」
「属人的に支えられている部分はどこですか」
という問いになるかもしれません。
行動環境に置く問いであれば、
「社員は、安心して意見を言えていますか」
「挑戦した人が孤立しない環境になっていますか」
「失敗したとき、学びに変える関わり方ができていますか」
という問いになるかもしれません。
同じ会社の課題でも、問いを置く場所によって、支援の方向は変わります。
だからこそ、伴走支援者には、問いを作る力だけでなく、問いを置く場所を見抜く力が必要なのです。
7. ドライバ間の影響の伝播を見る
成長ドライバ理論で大切なのは、各ドライバを個別に見ることだけではありません。
ドライバ間の影響の伝播を見ることです。
あるドライバが弱くなると、その影響は他のドライバにも伝わります。
たとえば、社長の方針が曖昧になると、理念・ビジョンがぼやけます。
理念・ビジョンがぼやけると、ビジネスモデルの選択や優先順位が揺らぎます。
ビジネスモデルが揺らぐと、仕事の仕組みや役割分担も不安定になります。
仕組みが不安定になると、社員は安心して行動できなくなります。
その結果、行動環境が悪くなります。
逆に、行動環境が悪くなると、現場からの情報が上がりにくくなります。
現場の情報が上がらなければ、ビジネスモデルの改善も遅れます。
ビジネスモデルの改善が遅れれば、社長はますます不安になり、判断を抱え込みます。
このように、悪い影響も循環します。
もちろん、良い影響も伝わります。
社長が判断の基準を明確にする。
理念・ビジョンが現場の言葉に翻訳される。
ビジネスモデルと仕事の仕組みが整う。
社員が安心して動ける環境ができる。
現場から学びが上がる。
それがまた、ビジネスモデルや仕組みの改善につながる。
このように、経営改善とは、一つの問題を一つの施策で直すことだけではありません。
良い影響が伝わる経路を作ることでもあります。
8. 見抜く力は、支援者の経験だけに頼ってはいけない
ここで注意したいことがあります。
「見抜く力」というと、支援者の勘や経験のように聞こえるかもしれません。
もちろん、経験は大切です。
長く支援をしていると、
「この会社は、表面上は人の問題に見えるが、実は仕組みの問題ではないか」
「これは売上の問題に見えるが、実はビジネスモデルと行動環境のズレではないか」
と感じることがあります。
しかし、勘だけに頼るのは危険です。
支援者の経験が豊かであるほど、逆に自分の見立てに引っ張られることもあります。
だからこそ、見抜く力は、対話とデータの両方で支える必要があります。
経営者の語り。
社員の声。
現場で起きている事実。
顧客の反応。
業績や人材に関するデータ。
会社の健康診断のような全体把握の結果。
こうしたものを組み合わせながら、
「本当にそこが問うべき場所なのか」
を確かめていく必要があります。
支援者が一方的に見抜くのではありません。
経営者や社員と一緒に、見えていなかった構造を見えるようにしていく。
ここに、伴走支援の専門性があります。
9. 良い伴走支援は、問いを急がない
支援者は、早く役に立ちたいと思います。
だから、つい早く問いを出したくなります。
早く助言したくなります。
早く解決策を示したくなります。
しかし、良い伴走支援では、問いを急がないことも大切です。
まず、会社の状態を見る。
経営者が何を抱えているのかを聞く。
社員がどのように受け止めているのかを知る。
どのドライバが弱っているのかを考える。
どの影響の伝播が詰まっているのかを探る。
そのうえで、問いを置く。
この順番が大切です。
問いが浅ければ、答えも浅くなります。
問いの場所がずれていれば、努力しても変化は起こりにくくなります。
逆に、問いの場所が合うと、経営者の表情が変わることがあります。
「そこだったのか」
「だから同じことを何度言っても変わらなかったのか」
「社員の問題だと思っていたけれど、仕組みの問題でもあったのか」
「自分が抱え込んでいたことが、現場の自律を止めていたのか」
このような気づきが生まれたとき、経営改善は動き始めます。
10. 伴走支援とは、会社が向き合うべき問いを一緒に見つけることである
伴走支援は、答えを出す仕事ではありません。
もちろん、助言はします。
情報も提供します。
整理もします。
必要であれば、具体策も一緒に考えます。
しかし、その前に大切なのは、会社が本当に向き合うべき問いを一緒に見つけることです。
いま問うべきは、社長の判断なのか。
理念・ビジョンの受け止めなのか。
ビジネスモデルの再確認なのか。
仕組みの整備なのか。
行動環境の改善なのか。
それとも、これらの間の影響の伝播なのか。
ここを見誤ると、支援は表面的になります。
逆に、ここを見抜けると、会社の中で止まっていたものが少しずつ動き始めます。
起業支援で見えてきた「相を見極める」という考え方は、通常の経営改善にも通じます。
経営改善では、それはドライバを見極めること。
ドライバ間の影響の伝播を見ること。
そして、いま会社がどの問いの前に立っているのかを見抜くことです。
伴走支援者に求められるのは、鋭い答えをすぐに出すことだけではありません。
問いの場所を見抜き、経営者や社員が自分たちの力で考え始められるように支えることです。
そこに、伴走支援の深い専門性があるのだと思います。
