成長ドライバ理論は、経営をどう捉えているのか。――経営の全体構造から、会社の状態を読み解く。

前稿では、経営者が「分かっているのに動けない」状態に陥る理由を、意思決定の問題として整理しました。

本稿では、その迷いを整理するための枠組みとして、成長ドライバ理論が経営をどのように捉えているのかを見ていきます。

成長ドライバ理論は、経営を単一の原因で説明しようとしません。

売上が落ちたから営業が弱い。
人が辞めるから人事制度が悪い。
社員が動かないから意識が低い。

こうした説明は、一見すると分かりやすく見えます。

しかし実際の会社では、一つの現象は、一つの原因だけで生まれているわけではありません。

社員が挑戦しない背景には、失敗を避ける空気があるかもしれません。
その空気の背景には、評価や仕事の進め方の問題があるかもしれません。
さらにその背景には、経営者の判断傾向や、理念と実際の意思決定とのズレがあるかもしれません。

つまり、会社で起きている現象は、複数の要素が相互に影響し合う中で生まれています。

成長ドライバ理論では、経営を複数のドライバによる構造として捉えます(東渕, 2017, 2020)。

重要なのは、「何が悪いか」を急いで決めることではありません。

どのドライバがどのような状態にあるのか。
そして、その状態がどのような構造の中で生まれているのか。

まず、その全体像を静かに見ていくことです。

成長ドライバ理論は、企業が良い会社として成長していく構造を示す理論です。

そして、そのフレームワークは、経営を冷静に俯瞰するための地図でもあります。

良い悪いを判断する前に、まず全体を見る。

会社の状態を、ドライバ間の関係を含めて立体的に見る。
さらに、時間軸の中で動いているものとして見る。

この視点が、伴走支援では非常に重要になります。

「会社の健康診断」の結果は、そのための重要な材料になります。

しかし、それ以前に必要なのは、部分だけを切り取らず、経営全体を見ようとする姿勢です。

これは、経営を支援する者にとっての基本姿勢でもあります。

五つのドライバで経営を見るということ。

成長ドライバ理論では、経営を大きく五つの領域で捉えます。
メインドライバです。

・経営者
・経営理念・ビジョン
・ビジネスモデル
・システム化・型決め
・行動環境

成長ドライバ理論のフレームワーク

ここでいう「経営者」とは、単なる役職としての社長ではありません。

最終的な意思決定を引き受け、自ら判断基準を持ち、方向を定める主体としての経営者です。

経営理念・ビジョンは、掲げているかどうかではなく、実際の判断や行動の中で参照されているかどうかが問われます。

ビジネスモデルは、誰にどのような価値を提供し、どのように収益を得ているのかという価値創出の仕組みです。

システム化・型決めは、仕事や判断を属人的な頑張りだけに依存させず、再現可能にするための仕組みです。

行動環境は、社員がどのような行動を取りやすい状態に置かれているかという、制度や風土を含めた環境です。

重要なのは、これらが上下関係で並んでいるわけではないということです。

五つのドライバは、相互に影響し合いながら、会社という構造全体を形づくっています。

理念は行動環境へ影響します。
しかし、行動環境も理念の定着へ影響します。

システム化は社員の行動へ影響します。
しかし、現場の行動環境が変われば、システム化のあり方も変わります。

ビジネスモデルは、社員に求められる行動へ影響します。
しかし、行動環境が変われば、ビジネスモデルの実現可能性も変わります。

そして、経営者の判断は、理念や仕組みや行動環境に影響します。
同時に、現場の状態や事業の現実は、経営者の判断にも影響します。

経営とは、こうした相互作用の中で動いているものです。

「人の問題」に見えるとき、本当に人の問題なのか。

伴走支援の現場で、最もよく出てくる相談の一つが、「人の問題」です。

経営者
「社員が指示待ちで、自分で考えて動いてくれないんです。」

この言葉を聞くと、多くの支援者は、人材育成や意識改革を思い浮かべます。

しかし、成長ドライバ理論では、問いの立て方が変わります。

伴走支援者
「社員が自分で考えて動きにくくなっている背景には、どのような環境や仕組みがあるでしょうか。」

経営者
「……失敗すると、私がすぐ修正してしまいます。」

伴走支援者
「そうすると、社員の意識だけの問題ではなく、経営者の関わり方や、任せ方の仕組みも関係しているかもしれませんね。」

この対話によって、焦点は社員個人から、経営者の関わり方、仕事の任せ方、判断基準、失敗時の扱い方へ移っていきます。

成長ドライバ理論は、問題を特定の個人へ押し付けることを防ぎます。

個人のせいにしてしまうと、経営として改善できる余地を閉ざしてしまうからです。

会社で起きている現象は、多くの場合、人そのものではなく、人を取り巻く構造の中で生まれています。

だからこそ、まず構造を見る必要があります。

経営者の判断は、行動環境を形づくる。

別の事例です。

経営者
「経営理念では『挑戦しよう』と言っているのに、実際の判断では失敗を避けてしまっています。」

この言葉でまず見えているのは、経営者自身の判断と、掲げている理念との間にズレが生まれている状態です。

理念が間違っているわけではありません。
また、経営者の実行力が低いという単純な話でもありません。

実際の経営判断では、理念だけではなく、資金繰り、顧客への影響、社員の負担、過去の失敗経験など、さまざまな要素が関係します。

その中で、理念としては挑戦を掲げていても、具体的な判断の場面では失敗回避が優先されることがあります。

ここで重要なのは、その判断が経営者個人の内側にとどまらないということです。

経営者が繰り返し失敗回避的な判断をすると、社員はその判断を見ています。

社員は、理念の言葉だけではなく、実際の意思決定や日常の反応から、

「この会社では、何が評価されるのか」
「どこまで挑戦してよいのか」
「失敗したときにどう扱われるのか」

を感じ取ります。

その結果として、組織全体に、挑戦よりも失敗回避が優先される行動環境が形成されていくことがあります。

つまり、ここで見ているのは、単に経営者が挑戦できていないという話ではありません。

経営者の判断傾向が、理念との接続を弱め、そのことが行動環境に影響し、社員の行動傾向として現れていく構造です。

成長ドライバ理論は、このようなズレや影響の連鎖を、構造として可視化します。

この可視化によって、経営者は自分を責め続ける必要がなくなります。

代わりに、

「どの判断の積み重ねが、どのような行動環境をつくっているのか」
「どこから整えると、全体の構造が変わり始めるのか」

という建設的な問いが立ち上がります。

なぜ、診断から始めるのか。

成長ドライバ理論に基づく伴走支援では、いきなり解決策を考えません。

多くの場合、まず診断から始めます。

経営者
「診断と聞くと、評価される感じがして少し身構えます。」

伴走支援者
「良し悪しを決めるためではありません。
今、会社がどのような状態にあるのかを、構造として見るためのものです。」

診断は、会社をランク付けするためのものではありません。

会社や経営の実情を、構造として透かして見るための鏡です。

ここで重要なのは、「ドライバ値が低い=悪い会社」と単純に考えないことです。

会社には、それぞれ強みも弱みもあります。

そのため診断では、まず、

「各ドライバが現在どのような状態にあるのか」

を見ていきます。

理念はどうか。
システム化はどうか。
行動環境はどうか。

まずは、各ドライバの状態そのものを見ることが重要です。

その上で、

「なぜ、その状態になっているのか」

を構造的に見ていきます。

そこでは、

・ドライバ自体がどの程度形成されているのか
・ドライバ同士がどのように接続しているのか
・相互の影響循環がどのように働いているのか

を見ていきます。

つまり成長ドライバ理論では、

「各ドライバの状態」

だけではなく、

「その状態が、どのような構造の中で生まれているのか」

を見ているのです。

サブドライバは、行動環境を客観的に見るための視点である。

成長ドライバ理論には、五つのメインドライバに加えて、さらに五つのサブドライバがあります。

・ストレッチ
・サポート
・自律
・規律
・信頼

これらは、行動環境を形づくる重要な構成要素です(東渕, 2017, 2020)。

サブドライバは、人の性格や感情を分類するためのものではありません。

また、「どれが足りないか」を単純に評価するチェックリストでもありません。

組織内で、どのような行動が生まれやすい状態になっているのか。
また、どのような行動が生まれにくくなっているのか。

サブドライバは、その行動環境の構造を客観的に見分けるための視点です。

たとえば、挑戦が起こりにくい状態であれば、ストレッチ形成が弱くなっている可能性があります。

ここで見ているのは、「社員に挑戦心がない」ということではありません。

高い目標に向かう機会があるのか。
挑戦が歓迎されているのか。
失敗しても学びとして扱われるのか。
現状維持を超える問いが組織内に存在しているのか。

こうした挑戦環境の状態を見ています。

失敗時の支援や支えが弱ければ、サポート形成が十分でない可能性があります。

ここで見ているのは、「社員同士の人間関係が悪い」という単純な話ではありません。

挑戦した際に、経営者や管理職が支える関わりをしているのか。
失敗したときに、責任追及だけで終わらず、学びや成長へつなげようとしているのか。
困ったときに相談しやすい状態があるのか。
安心して行動できる支援的な関わりが存在しているのか。

こうした支援環境の状態を見ています。

主体性が育ちにくい場合には、自律と規律の接続が弱くなっていることがあります。

ここで見ているのは、「社員に主体性がない」ということではありません。

任せる範囲が明確になっているのか。
判断基準が共有されているのか。
自由に動くためのルールや型があるのか。
自分で判断してよい余地が設計されているのか。

こうした行動環境の状態を見ています。

また、安心して相談しにくい状態であれば、信頼形成が弱くなっている可能性があります。

ここで見ているのは、「人間関係が悪い」という印象論ではありません。

本音を言える場があるのか。
役職や部署を越えて協力しやすい関係があるのか。
約束が守られ、判断に一貫性があるのか。
相手の意図を過度に疑わなくてよい状態があるのか。

こうした関係性環境の状態を見ています。

このように、サブドライバは、社員個人の性格や経営者の感情を直接分析するものではありません。

行動環境を、ストレッチ、サポート、自律、規律、信頼という視点から構造的に捉えるためのものです。

成長ドライバ理論は、人を直接変えようとするのではなく、行動環境の構造を見ることで、行動傾向そのものを変えていこうとします。

サブドライバは、そのための重要な視点を提供しています。

理論は、前に出ないからこそ機能する。

ここまで見てきたように、成長ドライバ理論やメインドライバ、サブドライバは、伴走支援の場で前面に出ることはほとんどありません。

理論を説明することが目的ではないからです。

理論は、ドライバごとの良し悪しを裁くためではありません。

会社の状態を、構造として静かに見つめ直すために使われます。

支援者の内側で、

問いを整え、
介入を抑え、
焦りを鎮める。

そのために理論があります。

だからこそ、伴走支援は場当たり的な助言になりません。

経営者自身が、自ら考え、判断し、整えていけるよう、後ろ側から支える支援になります。

伴走支援者にとって、成長ドライバ理論は、「経営を正しくする理論」ではありません。

しいて言えば、

「経営を部分だけで見てしまうことを防ぐ理論」

です。

次稿では、この理論的な地図を前提として、伴走支援とはそもそも何をしている支援なのかを、プロセス全体として見ていきます。

参考文献

March, J. G. (1994). A primer on decision making: How decisions happen. Free Press.

東渕則之 (2017). 「成長ドライバ理論による良い会社づくりのアプローチ」『松山大学論集』第29巻第3号, 55–100。

東渕則之 (2020). 「成長ドライバ理論が拓く総合経営診断の新たな地平 ―その理論と実践報告―」『日本経営診断学会論集』19, 50–56。

いいなと思ったら応援しよう!