「社員を大切にする経営」とは何か 〜やさしくあり続けるために、たくましくある〜

  1. はじめに
    1-1. 経営者と関わる中で、改めて感じたこと
    1-2. 多くの経営者は、本当に社員を大切にしたいと思っている

  2. 経営者が止まる理由
    2-1. 社員を大切にすると利益が減るのではないか
    2-2. だからこそ「利益は何のために必要か」を問う

  3. 社員を大切にすることの誤解
    3-1. 「優しい会社」が良い会社とは限らない
    3-2. 人は「意味」と「成長」で動く
    3-3. 厳しさだけでも人は動けない

  4. 安心して挑戦できる環境
    4-1. 母性と父性で考える
    4-2. まず母性があり、そこに父性が生きる

  5. たくましく、やさしく
    5-1. 伊那食品工業の社是が示すもの
    5-2. やさしくあり続けるために、たくましくある
    5-3. 社員を大切にすることには、経営者のたくましさも含まれる

  6. これからの経営に求められること
    6-1. 人のエネルギーが競争力になる
    6-2. 隣接可能性進化の時代
    6-3. 本当に怖いのは、静かな劣化
    6-4. 社員を大切にする経営は、理想論ではない

  7. 最後に
    7-1. 経営者自身に問い直してほしいこと               7-2. まず、自社を見つめ直してみる

1. はじめに
1-1. 経営者と関わる中で、改めて感じたこと
先月から、noteで「伴走支援」について書き始めました。
伴走支援とは、経営者に代わって答えを出すことではありません。
経営者が、自ら考え、判断し、行動していくプロセスに寄り添う支援です。
実際に、さまざまな経営者の方とお話をしていると、強く感じることがあります。
それは、多くの経営者が、
「社員を大切にしたい」
という思いを、本気で持たれているということです。
しかし同時に、
「では、社員を大切にする経営とは、具体的にどういう経営なのか」
という問いに対しては、簡単には答えが出ない。
むしろ、多くの経営者が、利益や現実との間で揺れながら、悩み続けているように感じます。
だから今回は、
「社員を大切にする経営」
について、改めて考えてみたいと思います。

1-2. 多くの経営者は、本当に社員を大切にしたいと思っている
私は、多くの経営者は、本当に社員を大切にしたいと思っていると感じています。
給与を上げたい。
休みを増やしたい。
働きやすい職場にしたい。
辞めずに長く働いてほしい。
成長してほしい。
幸せになってほしい。
そうした思いを持ちながら、日々経営されています。
しかし一方で、
「社員を大切にするとは、具体的にどういうことなのか」
を改めて考えると、意外と難しい。
優しく接することでしょうか。
福利厚生を充実させることでしょうか。
残業を減らすことでしょうか。
もちろん、それらは大切です。
ただ、本当にそれだけなのでしょうか。

2. 経営者が止まる理由
2-1. 社員を大切にすると利益が減るのではないか
ここで、多くの経営者が悩みます。
社員を大切にしたい。
しかし、社員を大切にしようとすると、利益が減るのではないか。
給与を上げれば負担が増える。
休みを増やせば人が足りなくなる。
教育には時間もコストもかかる。
余裕を持たせれば効率が落ちる。
だから、
「社員を大切にしたい」
と思いながらも、そこで止まってしまう経営者は少なくありません。
そして実際、短期的に見れば、負担が増える場面もあります。
人材育成。
採用。
働く環境の改善。
挑戦の余白。
無理な効率化をしないこと。
これらは、短期利益だけ見れば、コストに見えることがあります。

2-2. だからこそ「利益は何のために必要か」を問う
だからこそ、ここで改めて考える必要があるのだと思います。
「利益は、何のために必要なのか」
という問いです。
利益を増やすために人を使うのか。
それとも、
人を幸せにし続けるために利益を出すのか。
この順番によって、経営の見え方は大きく変わります。

3. 社員を大切にすることの誤解
3-1. 「優しい会社」が良い会社とは限らない
ただ一方で、社員を大切にするとは、単に優しくすることでもありません。
例えば、厳しいことを言わない会社。
挑戦を求めない会社。
責任をあまり持たせない会社。
波風を立てない会社。
人間関係は穏やかで、不満も少ない。
一見すると、「優しい会社」に見えるかもしれません。
しかし、その一方で、
成長の機会が少ない。
改善が生まれにくい。
若手が育ちにくい。
仕事への意味実感が弱い。
変化への対応力が弱い。
そういう状態が、静かに進んでいることがあります。
つまり、
「不満が少ないこと」と、「人が生き生き働いていること」は同じではありません。

3-2. 人は「意味」と「成長」で動く
人は、自分の仕事に意味を感じられるとき、エネルギーが生まれます。
誰かの役に立っている。
必要とされている。
期待されている。
成長できている。
そう感じられるとき、人は主体的に動き始めます。
逆に、
何のためにやっているのか分からない。
誰でもできる仕事しか任されない。
挑戦もない。
期待もされない。
そういう状態では、人のエネルギーは少しずつ失われていきます。
だから、社員を大切にするとは、単に不満を減らすことではありません。
「ここでなら成長できる」
「ここでなら挑戦できる」
「ここで働く意味がある」

そう思える環境をつくることなのだと思います。

3-3. 厳しさだけでも人は動けない
ただし、ここで重要なのは、厳しさだけでも人は動けないということです。
不安。
萎縮。
監視。
人格否定。
失敗への恐怖。
そうした空気の中では、人は防衛的になります。
最低限しかやらなくなる。
言われたことしかやらなくなる。
改善提案をしなくなる。
つまり、未来へ向かうエネルギーが止まるのです。
だから、本当に必要なのは、
「安心して挑戦できる状態」
です。
安心があるから挑戦できる。
挑戦できるから成長できる。
成長できるから働く意味が生まれる。
この順番なのだと思います。

4. 安心して挑戦できる環境
4-1. 母性と父性で考える
このことは、河合隼雄 の「母性原理」と「父性原理」の議論とも重なるように思います。
母性とは、包み込むことです。
「ここにいてよい」
「失敗しても人格までは否定されない」
「困ったときには支えてもらえる」
そうした安心の土台です。
一方、父性とは、方向を示すことです。
どこへ向かうのか。
何を大切にするのか。
何を期待するのか。
どこまで挑戦するのか。
この明確さがあるから、人は未来へ向かって力を出せます。

4-2. まず母性があり、そこに父性が生きる
ただ、順番としては、まず母性だと思います。
安心と信頼がない状態で、挑戦や規律だけを求めても、それは成長への刺激ではなく、脅威として受け取られやすいからです。
だから、
安心がある。
だから挑戦できる。
だから成長できる。
この流れが重要なのだと思います。

5. たくましく、やさしく
5-1. 伊那食品工業の社是が示すもの
ここで思い出すのが、塚越寛 さんの「年輪経営」です。
伊那食品工業 の社是は、
「いい会社をつくりましょう たくましく そして やさしく」
です。
私は、この言葉はとても深いと思っています。
一般的には、
たくましさ=厳しさ。
やさしさ=配慮。
そのように理解されがちです。
しかし、塚越さんの思想は、もっと構造的です。

5-2. やさしくあり続けるために、たくましくある
塚越さんは、
利益を出すために人件費を削れば、利益は出る。
しかし、社員は幸せにならない。
だから、多くの会社は順番を間違えている、
という趣旨のことを語られています。
つまり、
利益のために人を使う
のではなく、
人を幸せにするために、必要な利益を出す。
この順番なのです。
だから、「やさしさ」が目的であり、「たくましさ」は、そのやさしさを守り続けるための条件なのだと思います。
社員(人)を幸せにすることが目的であり、利益はその手段に過ぎない。この考え方は、今後、人類が進化していく際の指針となるでしょう。

5-3. 社員を大切にすることには、経営者のたくましさも含まれる
こう考えると、「社員を大切にする」という言葉の意味も変わってきます。
社員を大切にするとは、単に優しくすることではありません。
社員を幸せにし続けられる会社をつくることです。
そのためには、
利益を出し続けること。
事業を進化させること。
変化に適応すること。
会社を持続させること。
そうした経営者としてのたくましさも必要になります。
つまり、
「やさしくあり続けるために、たくましくある」
ということなのだと思います。

6. これからの経営に求められること
6-1. 人のエネルギーが競争力になる
そして、この視点は、これからますます重要になります。
人口減少。
人手不足。
AIによる構造変化。
価値観の多様化。
市場変化の加速。
これからの時代は、「人を消耗させながら成長する経営」が成立しにくくなっていきます。
なぜなら、変化への対応力そのものが、
「人と組織のエネルギー」
に依存する時代になるからです。
言われたことだけをやる組織では、変化に対応できません。
現場で考える。
改善する。
挑戦する。
顧客価値を進化させる。
そうした力が必要になります。
つまり、会社の競争力そのものが、「人の成長」に依存する時代になっているのです。

6-2. 隣接可能性進化の時代
これからの時代、会社は「今の事業を守ること」だけでは、生き残りにくくなっています。
AIの進化。
市場変化の加速。
顧客ニーズの変化。
こうした中で重要になるのは、
「顧客の本源的欲求に、今、手の届く隣接領域で工夫し、これまでと一歩違う方法を試行錯誤し、積み重ねながら、どう到達するか」
です。
例えば学習塾なら、本質は「授業」ではありません。
「成長したい」
「可能性を広げたい」
「認められたい」
という欲求です。
すると、
対面授業だけでなく、
AI個別学習。
探究型学習。
保護者伴走。
コミュニティ形成。
キャリア支援。
など、新しい隣接可能性が見えてきます。
しかし、その可能性は、見えているだけでは開きません。
現場が考え、改善し、挑戦し、試行錯誤する必要があります。
つまり、隣接可能性進化の原動力は、技術そのものではなく、
「人と組織のエネルギー」
なのです。
だからこそ、社員を大切にする経営は、単なる人事論ではありません。
AI時代における、組織進化の基盤でもあるのです。

6-3. 本当に怖いのは、静かな劣化
ただ、組織の劣化は、静かに進みます。
すぐに会社が潰れるわけではありません。
短期的には、会社は回るかもしれません。
しかし少しずつ、
改善提案が減る。
挑戦を避ける。
受け身になる。
若手が育たない。
優秀な人ほど静かに辞めていく。
そうしたことが起き始めます。
そして最終的には、経営者だけが必死になり、現場は疲弊し、変化に対応できなくなっていきます。
つまり、本当に怖いのは、売上低下そのものではありません。
組織の中から、
考える力。
挑戦する力。
支え合う力。
成長する力。
そうした、人と組織のエネルギーが失われていくことなのです。

6-4. 社員を大切にする経営は、理想論ではない
だからこそ、「社員を大切にする経営」とは、単なる優しさではありません。
会社の未来を育てる経営です。
人が成長する。
組織が進化する。
改善が生まれる。
新しい価値が生まれる。
その積み重ねが、会社の持続的な成長につながっていきます。
つまり、社員を大切にすることは、理想論でも精神論でもありません。
これからの時代を生き抜くための、経営の合理性でもあるのです。

7. 最後に
7-1. 経営者自身に問い直してほしいこと
最後に、ぜひ改めて考えてみていただきたいのです。
社員を大切にしたい。
しかし、そうすると利益が減るのではないか。
この葛藤は、多くの経営者が持っています。
そして実際、短期的には負担が増える場面もあります。
だからこそ、最後に改めて問い直したいのです。
利益は、何のために必要なのか。
利益を増やすために人を使うのか。
それとも、
人を幸せにし続けるために利益を出すのか。
この順番によって、経営の景色は大きく変わります。
自社では、社員は安心して挑戦できているでしょうか。
失敗しても、学びに変えられる空気があるでしょうか。
社員は、自分の成長を感じられているでしょうか。
仕事の意味を感じられているでしょうか。
改善や挑戦が自然に生まれているでしょうか。
利益が目的になっていないでしょうか。
人を、単なるコストとして見ていないでしょうか。
社員を大切にするとは、何かを“してあげる”ことではありません。
人と組織のエネルギーが、未来へ向かって動き続ける環境を、経営としてどうつくるか。
そこに、本質があるのだと思います。

7-2. まず、自社を見つめ直してみる
社員を大切にする経営に、唯一の正解があるわけではありません。
会社の規模も違う。
業種も違う。
置かれている状況も違う。
だからこそ大切なのは、
「自社では、どういう状態を目指すのか」
を、経営者自身が考え続けることなのだと思います。
例えば、
社員は安心して挑戦できているだろうか。
改善提案は自然に出ているだろうか。
若手は成長実感を持てているだろうか。
管理職は疲弊していないだろうか。
人を、単なるコストとして扱っていないだろうか。
利益が目的化していないだろうか。
逆に、
「優しいだけ」で、
挑戦や成長が止まっていないだろうか。
そうした視点で自社を見つめ直してみると、
会社の状態が少し違って見えてくるかもしれません。
そして、
社員を大切にする経営とは、
特別な制度を導入することではなく、
人と組織のエネルギーが、
未来へ向かって動き続ける環境を、
少しずつ整え続けることなのだと思います。

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