伴走支援者に求められる力――知識や技法よりも、耐える力が問われる
伴走支援者に求められる力
――知識や技法よりも、耐える力が問われる。
ここまで、成長ドライバ理論を基盤とした伴走支援の考え方とプロセスを整理してきました。
本稿では、その支援を担う「伴走支援者」には、どのような力が求められるのかを考えます。
結論から言えば、伴走支援者に必要なのは、特別なノウハウや最新の経営理論ではありません。
むしろ、すぐに動かさないことに耐える力です。
■知識があっても、支援がうまくいかない理由
経営支援に携わる人の多くは、十分な知識と経験を持っています。
経営戦略。
財務。
人事制度。
マーケティング。
それでも、伴走支援がうまくいかない場面は少なくありません。
経営者
「いろいろ教えてもらったのですが、
逆に何から手を付ければいいか分からなくなりました。」
この言葉は、支援が失敗したサインではありません。
しかし、支援者が「足し算」を続けてしまった結果でもあります。
成長ドライバ理論の観点では、知識の投入が一つのドライバだけを刺激し、他との整合性を崩してしまうことがあります(東渕, 2017, 2020)。
そのため、知識が多いほど、支援は難しくなる場合があります。
■ 伴走支援者は、何に耐えているのか
伴走支援者が最も耐えなければならないのは、沈黙です。
経営者
「……少し考えさせてください。」
この沈黙の時間に、支援者は多くの衝動にさらされます。
助言したくなる衝動。
整理してあげたくなる衝動。
沈黙を埋めたくなる衝動。
しかし、その沈黙は、経営者が影響の伝播を頭の中で整理している時間でもあります。
ここで支援者が介入すると、経営者の思考は中断されます。
伴走支援者に求められる力の一つは、この沈黙に耐えることです。
■ 「待つ」と「放置する」は違う
耐えるというと、何もしないことだと誤解されがちです。
しかし、伴走支援における「待つ」は、放置ではありません。
伴走支援者
「今は答えを出さなくて大丈夫です。
どの判断が一番引っかかっているかだけ、教えてもらえますか。」
この問いは、方向づけを行っています。
支援者は、影響の連鎖がどこで詰まっているかを見極めながら、問いを最小限に絞っています。
成長ドライバ理論は、こうした問いの設計を支える枠組みです。
どのドライバに触れ、どのドライバには触れないか。
その判断が、支援者の内側で行われています。
■ 支援者自身の「正しさ」を手放す
伴走支援者に求められるもう一つの力は、自分の正しさを手放すことです。
支援者
「この方法が一番合理的だと思います。」
この言葉は、事実として正しいかもしれません。
しかし、経営者の判断として正しいとは限りません。
経営者は、
・社員との関係
・これまでの経緯
・地域や取引先との文脈
といった、外からは見えにくい要素を同時に抱えています。
成長ドライバ理論は、こうした文脈の重なりを前提とします。
そのため、支援者は「正解」を示す立場から、一歩引く必要があります。
■ 覚悟とは、責任を引き受けさせること
伴走支援では、ときに「覚悟」という言葉が使われます。
しかし、ここでいう覚悟とは、厳しさや根性論ではありません。
経営者
「これは、私が決めます。」
この言葉が出るまで、支援者は答えを渡しません。
なぜなら、決定の責任を引き受けるのは、経営者本人だからです。
意思決定研究では、当事者性が意思決定の質を左右することが示されています(March, 1994)。
伴走支援者の覚悟とは、経営者にその当事者性を取り戻してもらうために、支援者自身が不完全さに耐えることです。
■ 伴走支援者の力は、測りにくい
最後に、伴走支援者の力は、成果指標では測りにくいという点を確認しておきます。
売上。
利益。
制度導入の数。
これらは重要ですが、直接の成果ではありません。
本当に重要なのは、
・経営者が自分の判断を言葉にできるようになったか
・迷いを構造として捉えられるようになったか
という変化です。
これらは数値化しにくく、評価されにくい力です。
しかし、成長ドライバ理論を基盤とした伴走支援では、最も重要な力でもあります。
次稿では、こうした力を持つ伴走支援者を、どのように育て、どのように支えていくのかを考えます。
伴走支援を一時的な取り組みではなく、社会的な仕組みとして成立させる視点に進みます。
参考文献
March, J. G. (1994). A primer on decision making: How decisions happen. Free Press.
