コーチングと伴走支援は何が違うのか――経営者の内面だけでなく、経営全体の詰まりを見る

1 はじめに

良い会社づくりについて考えていると、必ずぶつかる問いがあります。

それは、

「経営者は、どうすれば良い会社づくりを進めていけるのか」

という問いです。

良い会社をつくりたい。

社員を大切にしたい。

社員と会社がともに成長する会社にしたい。

そう願っている経営者は、少なくありません。

しかし、実際にそれを進めていくことは簡単ではありません。

理念を掲げても、現場に浸透しない。

社員に主体的に動いてほしいと思っても、なかなか動きが生まれない。

仕組みを整えたいと思っても、日々の仕事に追われて後回しになる。

経営者自身も、何から手をつければよいのか分からなくなることがあります。

そのようなとき、経営者が一人で考え続けるよりも、誰かに伴走してもらうことで、前に進みやすくなることがあります。

近年では、経営者がコーチをつけたり、コーチングを学んだりすることも珍しくありません。

コーチングは、経営者にとって非常に有効な支援です。

安心して話せる場がある。

自分の考えを整理できる。

自分が本当に大切にしているものに気づく。

こうした対話の価値は、とても大きいと思います。

一方で、良い会社づくりの伴走支援を考えるとき、私は、いわゆるコーチングだけでは十分に扱いきれない領域があるとも感じています。

ただし、ここで述べたいのは、コーチングを批判することではありません。

むしろ、コーチングが持っている対話の力、傾聴の力、問いの力を認めたうえで、良い会社づくりの伴走支援では、そこにもう一つ別の視点を重ねる必要がある、ということです。

それは、

「経営者の内面だけでなく、経営全体のつながりや詰まりを見る」

という視点です。

2 コーチングは、経営者個人を支える力を持っている

一般に、コーチングでは、相手が自分自身で答えを見出していくプロセスが重視されます。

支援者は、答えを教える人ではありません。

問いを通じて、相手の内省を促し、行動につなげていく存在です(Whitmore, 2017)。

エグゼクティブコーチングでも、経営者や管理職が自分の価値観、判断基準、リーダーとしてのあり方を見つめ直すことが重視されます(Grant, 2014)。

たとえば、次のような対話です。

コーチ
「社長は、本当はどうしたいと思っているのですか」

社長
「もっと自分らしい経営がしたいと思っています」

コーチ
「自分らしい経営とは、社長にとってどのような意味がありますか」

社長
「社員に無理をさせるのではなく、一人ひとりが納得して働ける会社にしたいということだと思います」

このような対話は、経営者が自分自身の価値観を確認するうえで、大きな意味を持ちます。

経営者は孤独です。

日々、多くの判断を迫られます。

しかし、その判断について、本音で話せる相手は限られています。

社内では、弱音を吐きにくい。

幹部に話すと、かえって不安を与えるかもしれない。

家族にも、すべてを話せるとは限らない。

その意味で、安心して話せる対話の場は、経営者にとって貴重です。

コーチングは、経営者が自分の内側を見つめ直すための支援として、とても大切な役割を果たします。

3 伴走支援は、経営者を起点にしながら、経営全体を見る

では、良い会社づくりの伴走支援は、コーチングと何が違うのでしょうか。

一言でいえば、伴走支援は、経営者個人を起点にしながらも、経営者の内面だけに閉じない支援です。

伴走支援も、経営者の思いを大切にします。

経営者の迷いも扱います。

経営者の覚悟も見ます。

しかし、それを個人の内面だけの問題として終わらせません。

その思いは、経営理念やビジョンとどうつながっているのか。

その迷いは、ビジネスモデル上の難しさから来ているのか。

その判断の遅れは、仕組みや役割分担の未整備から来ているのか。

社員が動かない背景には、行動環境や関係性の問題があるのではないか。

このように、伴走支援では、経営者の内面と、会社全体の状態を同時に見ていきます。

ここで私が背景に置いているのが、成長ドライバ理論です。

成長ドライバ理論では、良い会社づくりを、社長一人の能力や努力だけで説明しません。

社長。

経営理念・ビジョン。

ビジネスモデル。

システム化・型決め。

行動環境。

これらが相互に影響し合いながら、会社全体の状態をつくっていると考えます(東渕, 2017, 2020)。

したがって、経営者がどれほど良い思いを持っていても、ビジネスモデルが弱ければ、社員に無理がかかります。

理念が立派でも、仕組みや会議、評価、育成に組み込まれていなければ、日々の判断基準にはなりません。

社員に主体性を求めても、発言すると否定される空気があれば、自律は育ちません。

つまり、良い会社づくりは、経営者の内面だけでは進みません。

経営者の思いと、会社全体のつながりを見ながら、どこを整えるのかを考える必要があります。

伴走支援とは、そのプロセスに寄り添う支援です。

4 問いの向きが違う

コーチングと伴走支援の違いは、問いの向きにも表れます。

コーチングでは、次のような問いが中心になります。

「社長は、本当はどうしたいのですか」

「それは、社長にとってどのような意味がありますか」

「そのとき、どのような感情がありましたか」

「何が社長の中で引っかかっていますか」

これらは、経営者の内面を見つめるための問いです。

一方、良い会社づくりの伴走支援では、次のような問いが加わります。

「その判断は、会社のどこに影響しますか」

「それを決めようとすると、何が引っかかりますか」

「社員が動けないとしたら、どの仕組みが整っていないのでしょうか」

「理念と現場の行動は、どこでつながっていますか」

「今、詰まっているのは、社長の気持ちでしょうか。それとも会社の状態でしょうか」

たとえば、評価制度を変えたいが、なかなか決めきれない社長がいたとします。

社長
「評価制度を変えたいとは思っています。でも、決めきれないんです」

伴走支援者
「決めきれない理由は、どこにありそうですか」

社長
「現場が混乱しそうで怖いんです」

伴走支援者
「その不安は、制度そのものの問題でしょうか。それとも、これまでの関係性や説明不足の問題でしょうか」

社長
「たぶん、関係性ですね。今まで十分に話し合ってこなかったので、急に変えると反発が出そうです」

伴走支援者
「だとすると、制度の中身を考えることと同時に、何を共有しておく必要がありそうでしょうか」

ここで行われているのは、単なる助言ではありません。

支援者が答えを出しているわけでもありません。

経営者が決められない理由を、内面だけでなく、会社全体の状態として見直せるようにしているのです。

問いの深さが違うというより、問いの向いている先が違う。

これが、伴走支援の大きな特徴です。

5 内面を深掘りしても、会社が動かないことがある

コーチング資格を持つ支援者は、傾聴や問いかけに長けています。

これは伴走支援においても、大きな強みです。

しかし、ここに落とし穴もあります。

それは、内面の深掘りが丁寧であるほど、経営全体の詰まりが見えにくくなることがある、ということです。

たとえば、採用難に悩む社長がいたとします。

社長
「人が採れません。求人を出しても来ないんです」

支援者
「採用は苦しいですね。社長ご自身は、採用についてどのようなお気持ちですか」

社長
「焦っています。ちゃんとしなければと思うんですが」

支援者
「焦りの奥には、何がありそうですか」

社長
「失敗したくないんです。採っても辞めたら怖い」

この対話は、とても自然です。

社長の不安に寄り添っています。

内面にある恐れも言語化されています。

しかし、ここで止まってしまうと、経営は動かないことがあります。

なぜなら、採用がうまくいかない理由は、社長の恐れだけではないかもしれないからです。

入社後の育成が属人的になっている。

教える人の時間が確保されていない。

現場が疲弊していて、新人を受け入れる余裕がない。

評価や役割が曖昧で、入社後の成長イメージが見えない。

こうした状態があるなら、採用の問題は、単なる採用活動の問題ではありません。

ビジネスモデル、システム化・型決め、行動環境が絡んだ問題です。

このとき必要なのは、内面の深掘りをやめることではありません。

内面に問いを向けつつ、同時に、経営全体のつながりに問いを向け直すことです。

たとえば、次のような対話です。

伴走支援者
「採っても辞めたら怖い、という感覚はとても自然だと思います。少し確認したいのですが、採用しても定着しないとしたら、どこで詰まりそうでしょうか」

社長
「現場ですね。教える人がいないんです」

伴走支援者
「現場が教えられる状態になっているかどうかが、一つの大事な点になりそうですね。今、新人を教える役割と時間は、仕事の中に組み込まれているでしょうか」

社長
「そこが曖昧です。結局、忙しい人に任せてしまっています」

伴走支援者
「そうすると、採用そのものだけでなく、受け入れ方も一緒に見る必要がありそうです。社長としては、どこから確認してみたいですか」

ここで、支援者は解決策を押しつけていません。

「求人票より受け入れ体制が先です」と断定しているわけでもありません。

経営者自身が、自社の状態を見立て直せるように問いを置いています。

その結果、社長は「採用できない自分」を責める状態から少し離れます。

そして、

「どこを整えれば、採用が成り立つのか」

を考えられるようになります。

この転換が重要です。

良い伴走支援は、経営者を責めません。

同時に、経営者の内面だけに問題を閉じ込めません。

会社全体の状態として見直すことで、次に見るべき場所を一緒に探していきます。

6 「待つこと」が、経営を止めてしまうこともある

コーチングでは、相手のペースを尊重することが大切にされます。

これはとても重要です。

支援者が急がせすぎると、経営者は自分の言葉で考えられなくなります。

支援者の答えに合わせるだけになってしまいます。

だから、待つことには大きな意味があります。

しかし、伴走支援では、待つことが常に善とは限りません。

特に、組織に影響が出続けている場面では、意思決定の先送りが会社の状態を悪化させることがあります。

たとえば、社員の不満が高まっているのに、社長が説明を先送りしている場面です。

社長
「社員が不安に思っているのは分かっています。でも、まだ自分の中で整理できていないんです」

支援者
「整理できていないのですね。では、もう少し時間を置きましょうか」

この対応は、コーチングとしては丁寧です。

社長のペースを尊重しています。

しかし、現場ではその間にも不安が広がっているかもしれません。

憶測が生まれる。

信頼が下がる。

不満が増える。

離職を考える人が出る。

そうなると、社長がようやく考えを整理したときには、すでに会社の状態が悪くなっていることもあります。

ここで必要なのは、「待つか、待たないか」の二択ではありません。

待ちながらも、経営として止めてはいけない部分を一緒に考えることです。

たとえば、次のような関わりです。

伴走支援者
「社長の中で整理が必要なのはよく分かります。そこは大切にしましょう。ただ、現場の不安が広がっているとすれば、社員に何も伝えないことの影響もありそうです」

社長
「確かに、それは気になっています」

伴走支援者
「最終結論でなくてもよいと思います。今、何を検討しているのか。いつまでに何を決めるのか。社員に何を約束できるのか。そのあたりで、今伝えられることはありそうでしょうか」

社長
「それなら、伝えられることはあります」

これは、支援者が答えを押しつけているのではありません。

経営者が自分で判断できるように、意思決定を小さく刻んでいるのです。

伴走支援では、経営者のペースを尊重しながらも、会社全体への影響を同時に見ます。

そして、放置すると悪化する部分については、小さくても動ける一歩を一緒に探します。

ここに、コーチングとは異なる実装支援の視点があります。

経営力再構築伴走支援においても、経営者の自己変革力や自走化を支えることが重視されています(中小企業庁ほか, 2023)。

伴走支援は、支援者が経営者を動かすことではありません。

経営者が、自分の意思で動ける状態を取り戻す支援なのです。

7 伴走支援は、経営者の内面を大切にしながら、そこに閉じない

ここまで、コーチングと伴走支援の違いを見てきました。

繰り返しますが、コーチングを否定したいわけではありません。

コーチングは、経営者が自分の内面を見つめ直し、自分の価値観や判断基準を確認するうえで、とても有効です。

特に、孤独な経営者にとって、安心して話せる対話の場は大きな意味を持ちます。

しかし、良い会社づくりの伴走支援では、そこにもう一つの視点が必要になります。

それは、経営全体を見る視点です。

経営者の思いは、理念とつながっているか。

理念は、ビジネスモデルや仕組みに組み込まれているか。

社員が動けない背景には、行動環境の問題がないか。

決められない理由は、経営者の気持ちだけなのか、それとも会社全体の状態なのか。

こうした問いを、経営者と一緒に見ていく。

そこに、伴走支援の独自性があります。

伴走支援は、経営者の内面を大切にしながら、そこに閉じない。

経営者の思いと、会社全体の状態を同時に見る。

そこに、コーチングと似ていて異なる、伴走支援の大切な役割があります。

では、伴走支援はコンサルティングなのでしょうか。

これもまた、少し違います。

次回は、伴走支援を「やさしい傾聴」でも「答えを出すコンサル」でもない、第三の専門的支援として考えてみたいと思います。

参考文献

Grant, A. M. (2014). The efficacy of executive coaching in times of organisational change. Journal of Change Management, 14(2), 258–280.

Whitmore, J. (2017). Coaching for performance: The principles and practice of coaching and leadership (5th ed.). Nicholas Brealey.

中小企業庁・独立行政法人中小企業基盤整備機構・経営力再構築伴走支援推進協議会(2023)「経営力再構築伴走支援ガイドライン(令和5年6月)」。

東渕則之(2017)「成長ドライバ理論による良い会社づくりのアプローチ」『松山大学論集』第29巻第3号, 55–100。

東渕則之(2020)「成長ドライバ理論が拓く総合経営診断の新たな地平――その理論と実践報告」『日本経営診断学会論集』19, 50–56。

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