短編小説『裏窓からの風景』
「しかしですなあ💢」
真夏だというのにブラウンのトレンチコートにトレードマークのつば広の帽子、ただでさえ暑苦しい格好をさらに暑苦しくするように銭股警部はいきりたっている。
「君、何というか、その、なんとかならんのかね⁈」
上司の管理官は銭股をただす。
「はっ?ラパンのことでありますか?」
銭股の顔色がさらに暑苦しくなる。
「違うよ、ハッキリ言うよ。君、職場で猿股はやめてもらえんかね?」
銭股は、なんとトレンチコートの下が猿股姿だったのだ。
「そのことでありますか。しかしですなあ💢」
銭股はいきりたつ。
「これはワシなりのクールビズなのであります。このもはや沸騰している日本、ひいては地球におきまして、より快適で持続可能な労働環境、、」
「あ〜いい、いいもう分かった分かった」
管理官は途中で口を挟む。
「本題に入る。ラパンのことだ」
銭股の目が光る。
「ラパンが誘拐事件を起こした。そして、この写真(見出し)を送ってきたのだ。」
「ラパンが誘拐ですか?」
銭股の猿股が汗ばむ。
「そうだ。呉須コンツェルン会長の娘さんが誘拐された。」
そこへ会長の呉須蹴男(くれす・けりお)がドアを蹴り破る勢いで飛び込んできた。
「おいっ娘は大丈夫なんだろうな?!その写真は娘の後ろ姿だ。」
その怒鳴り声に猿股姿の銭股が落ち着き払った声で返す。
「御安心ください。娘さんは無事です。」
即座に会長が言い返す。
「なぜ、言い切れる?」
「ラパンは、、」
猿股の銭股は、なぜか妙なところで話をためる。
「ラパンは、、」
猿股銭股は繰り返しためる。
「財宝はさらっても、女性はさらいません。ラパンはそういう男です。それに誘拐しているなら、なぜ後ろ姿なのですか?本人であるなら、正面のアングルではっきり顔を撮ればいいではないですか?雰囲気を似せている別人に決まっています。娘さんは単に外出されているだけ。ご心配なさらずとも、いずれ帰って来られますよ。」
今度は一転、長々と朗々と語りだす。しかし、猿股姿では説得力もあったものではない。
そんな時、呉須会長の携帯がなる。
「呉須だ。何?そうか、そうか、よくやった。」
管理官が「どうされました?」思わず尋ねる。
会長は吐き捨てるように
「これだから警察は信用できん。独自に部下に指示をしてラパンと交渉させていたのだが、今、身代金と引き換えに娘が無事解放されたとのことだ。どこかの誰かのように、誘拐されてもいないなどとよく言えたものだ。」
面目丸潰れである。追いすがる銭股は
「警察を差し置いて、そんな勝手なことを!困りますな。」
「娘は無事に帰ってきたのだ。もう警察に用はない。まったく!」会長は帰っていく。
気まずい沈黙が流れたあと、管理官が口を開く。
「銭股君、君にはラパン担当から外れてもらう。それと悪いが当分謹慎だ。あと、猿股だが、金輪際履くな!目障りだ!」
ムンクの叫びのような形相の銭股の心の叫びが、こだまする。
「ヒィーーヒィーーヒィーー〜」
「ヒィーヒィーヒィーー〜
ヒィーヒーヒーヒーコーヒー、えっコーヒー?」
ガタッ!
反動でアイスコーヒーが、こぼれそうになる。
いけない、コーヒーを飲みながら、うたた寝してたみたい。とても変な夢を見てしまった。もう本当に地獄みたいな悪夢。そう言えば、会長の名前、グレースケリーみたいな感じだったっけ?
そう、私はモナコには程遠いけど、せっかくの夏休み。奮発して避暑地のペンションにやってきたのだ。ココで山の上ホテルじゃないけれど、文豪みたいに缶詰して文学賞取るんだから、、、なんて。けど窓から見える向かいの建物とか、ヒッチコックの『裏窓』の構図によく似てる。
あの映画、犯人は向かいの部屋に住む宝石商のセールスマンだったはず。だったら、ちょうど正面に赤いアドバルーンが見えるから、今度は切り離したアドバルーンで、向かいの宝石商の部屋に強盗が侵入するのを、こちらから目撃するとかって設定アリかも。『裏窓』では足を骨折して動けない状況だったけど、引きこもりの人が目撃して、葛藤の末に通報して、社会と接点を持っていくとかって、単にスリラーなだけじゃなく、内容も社会派になるじゃない。
ガンッ!?
いきなり、後頭部を鈍器で殴られて、目の前が真っ暗になった、、、
目が覚めると病院に寝かされていて、頭には包帯が巻かれていた。まだ痛む。あとから、聞いた話になるけど、信じられないことに実際に窓の向こうの建物には宝石商が住んでいて、アドバルーンを使った強盗が入ったらしい。その下調べに真向かいの私の泊まっていた部屋に侵入したところ、素人のはずの女(私)が、強盗計画を看破したものだから、慌てて殴ったらしい。(酷い!)
命あっての物種って言うから、殺されずにすんで良かったけれど、私の成功の青写真はどうなるの?事実は私の小説だったのよ!
(了) (1956文字)
↑こちらにも、ラパン一味が出ております。
花澤薫さま
初めまして。
いきなりで恐縮ですが、参加致します。
よろしくお願いします。
