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山田尚子、いしづかあつこの作家性<アート>

皆さんは、「化け猫あんずちゃん」というアニメ映画を見ましたか?
ちなみに、私はまだ見てません。

ただ、これが話題作「ルックバック」等と肩を並べて米アカデミー賞の選考対象31作品入りを果たしたと聞き、これ意外とスゴイ作品なんだな・・と。
また、業界的にも結構話題になってるようだ。
というのも、これの監督が山下敦弘&久野瑤子という2名の共作で、しかも山下敦弘って日本映画をそこそこ見てるなら多分知らない人はいないほどのビッグネームである。
脱力系のめっちゃ面白い映画を撮る人で、私、彼の「リンダリンダリンダ」の大ファンなんですけど。

多分、これを超えるガールズバンド映画はいまだ出てきてない

で、なんで山下さんがアニメを?と思ったんだが、どうやらこの共同監督の久野瑤子さんというのは以前、岩井俊二監督の傍らにいた人らしくて、あの「花とアリス殺人事件」で「ロトスコープアニメディレクター」というのをやっていたらしい。
・・そう、この「化け猫あんずちゃん」は、ロトスコープアニメなんだよ。

じゃ、ちょっと面白い映像があるので、まずはそれを見てもらおう↓↓

見ての通り、このあんずちゃんのcvを務めた森山未來は、ただアフレコをしたというだけじゃなく、アニメに落とし込む前段階の実写映画から猫耳を着けて主演してたわけです。
この猫耳の着用がホントに必要だったかは知らんが・・。
ようするに、

①山下監督が実写映画「あんずちゃん」を撮る
②久野監督が①をもとにロトスコープアニメ「あんずちゃん」を作る


そういう制作工程だったということだね。

実写映画「花とアリス」(2004年)
ロトスコープアニメ映画「花とアリス殺人事件」(2015年)

こういうパターンによる実写映画監督のアニメ界への参入は、2019年に制作された映画「音楽」でも同様である↓↓

ちょっと、こういうムーブメントがキテるな・・と思う。


そして、この「あんずちゃん」という作品は、実をいうと<日仏合作>なのよ。
何でフランスが?と思うところだが、そこは実のところ久野瑤子監督がカギを握っていて、どうやら彼女、もともとは多摩美術大学に在籍してた頃からアート系アニメを作ってた人らしく、それを見たフランス側が彼女に接触を図ってきたという経緯らしい。
・・ん?
多摩美大でアニメを作ってた?
しかも、この久野さんって1990年生まれだし、

「肛門的重苦」の冠木佐和子さんと大学で同期だったということなんじゃないの?

このおふたりが大学で面識があったかは知らんが、意外とこういう<一ヵ所からの才能同時多発>というのはあるもんだよ。
確か大阪芸大でも、庵野秀明士郎正宗島本和彦南雅彦(BONES社長)が同期じゃなかったっけ?
あと世代は違うけど、前述の山下敦弘監督も大阪芸大出身ね。

ちなみに、久野さんは今から11年前に文化庁メディア芸術祭で「新人賞」を受賞しており、その受賞の契機になったアニメがこれなんだわ↓↓

めっちゃバンドデシネ系のアートじゃん?
ケツの穴からジュルジュル、汁が出てくるぅ~っ!!」というアニメ作った冠木さんとはベクトルが若干違う。

同じ多摩美大でも<キレイな久野⇔汚い冠木>といったところかも・・。

冠木佐和子制作アニメ

で、この久野さんが「新人賞」を獲った翌年、同賞に輝いた「新人」というのが、実はこの人↓↓

山田尚子

何やら、最近は風格すら漂わせている山田尚子・・。
彼女もまた、美大出身(京都造形芸術大学)という出自なんだ。

2013年、2014年、各々の新人賞受賞者がこうして肩を並べて米アカデミー賞の選考に残るとは、なかなか感慨深いものがある。

左が久野瑤子監督

もともと、この文化庁メディア芸術祭新人賞というのは美大出身のアート系クリエイターが受賞する例が多く、この賞の第1回受賞者・近藤聡乃さんという人からして、彼女もまた多摩美大出身なんだ。
その時の受賞作品(2002年)が、これ↓↓

これまた、バンドデシネ系アートだな~。

じゃ、この近藤聡乃さんという人は今どうしていらっしゃるのかというと、ぶっちゃけ、もう日本にはいません。
エリックフランダーという世界的な音楽家(チェロ)と結婚されたそうで、今はニューヨークに在住してるらしい。

画/近藤聡乃

たまに個展を開催してるらしく、もはや完全に「アート界の人」である。

・・そう、結局近藤さんはアニメ界に来なかったんだね。
というより、そもそもアニメ界は彼女にアプローチすらしてないと思うよ。
だって、美大出身のややこしい芸術家肌の新人雇うぐらいなら、そのへんのアニメーション専門学校の卒業生を雇った方がマシ、と考える人だっていると思うから。
多分、アニメ業界の言い分はこうなんだろう。

「アニメは<アート>なんかじゃねーんだよ。<商品>なんだよ」

・・案外、そういうもんだと思う。

でも「・・あれ?山田尚子は?」と思うよね。
そう、山田さんは美大出身でありつつも、きっちりとアニメ畑にハマってるじゃん?
付け加えると、いしづかあつこさんもそうである(愛知県立芸大卒)。
そして、そのいしづかさんにしても、一番最初に脚光を浴びたのは2003年のこの作品からなんだわ↓↓

完全にバンドデシネ系のアートじゃん?
よくもまぁ、このめっちゃアートな作風から「ノーゲームノーライフ」や「宇宙よりも遠い場所」の境地までいけたもんだよなぁ・・。

「ノーゲームノーライフ」(2014年)
「宇宙よりも遠い場所」(2018年)

ただ、いしづかさんにせよ、山田さんにせよ、両者のお話に共通性を感じてしまうのは、どちらも「学生時代、ほとんどアニメを見てない」ということなんだよ。
つまり、おふたりとも属性が<アニメ>の人じゃなかった、ということだ。
ゆえに、萌え文化とかも最初はワケ分からなかったんじゃないか?
たまたま、おふたりとも「就職先の選択肢」としてアニメ制作会社を選んだにすぎず(マッドハウス、京アニ)、別に「どうしてもアニメ業界に!」というモチベではなかったと思う。
本音をいえば、アーティストの方面を目指したかったんじゃないか?
だから<商品>としての画(萌え等)は、入社後にイチから勉強したんだと思う。

「けいおん」(2009年)

それは、久野さんもまたそうだよね。
現在こうしてアニメ業界に携わってはいるものの、その入り口は直接というわけではなく、岩井俊二監督/山下敦弘監督の映画を介した、「実写畑」からの変則的参入である。

・・でもさ、山田尚子さんあたりを見てると割と分かりやすいんだが、彼女は業界での地位を確固たるものにするにつれ、だんだんと自分の作風を原点である<アート>の方向性に寄せていってる感があるのよ。
というか、彼女の作家性はもともと<アニメ>じゃなくて、<実写映画>の方に根差してると私は解釈してるのね。
そこは、実をいうと久野さんと一緒。
その一番分かりやすい例が、TVアニメ「たまこまーけっと」と映画「たまこラブストーリー」の差異である。

TVアニメ「たまこまーけっと」(2013年)

映画「たまこラブストーリー」(2014年)

このふたつの「たまこ」を同列に捉えちゃってる人も稀にいるけど、それはトンデモないですよ。
このふたつは、全く似て非なるもの。
「たまこまーけっと」は<商品>としての優れたアニメなんだけど、これが「たまこラブストーリー」になると、いきなり<アート>に昇華されてるのね。
・・そう、「けいおん」から「たまこまーけっと」まで一貫して<商品>に徹してきた山田尚子が、どうしたことか「ラブストーリー」でいきなり路線を変えてきたんだ。

TVアニメ時にはなかった技巧、今はお馴染みの「山田尚子的映像」みたいなものがこれでもかというほど「ラブストーリー」には詰め込まれている。
そもそも、文化庁メディア芸術祭が「けいおん」や「たまこまーけっと」ではなく、「たまこラブストーリー」の方を新人賞の根拠にした意味からしてそうでしょ。

皆さんも、もし時間に余裕があるようでしたら、「たまこまーけっと」と「たまこラブストーリー」を一度見比べてみてください。
そうすることで、山田さんの作家性がより一層浮き彫りになってくるから。

TVアニメ(商品)の文法で作ったのが
「たまこまーけっと」
映画(アート)の文法で作ったのが
「たまこラブストーリー」

「たまこラブストーリー」は、ホントにナメちゃいかん映画なんです。
山田さんといえば「聲の形」が覚醒とされる見方もあるけど、いや、覚醒はむしろ「ラブストーリー」の方だから。
映画として、マジ完璧だし。
その完璧さを把握できるよう、細かく各シーンの画のレイアウトを見てほしい。
全部、完璧なんだ。
あぁ~この人って映画を分かってんなぁ~と、おそらくアニメファン以外の映画ファンをも唸らせたのが本作である。

アニメは<アート>じゃなく商品>である、という文脈を私は否定しないが、それでも<アート>をちゃんと理解できてる人が最後には勝つのもまた真理だと思う。
と考えると、やっぱ美大(芸大)出身の人材って、結構無視できないんだよ。

なお、前述の多摩美大だが、ここの卒業生には「つみきのいえ」でオスカーを獲った加藤久仁生さんがいるんだわ。
まぁ、この人の場合、アニメ業界にはいまいち縁がないけど。
あと面白いところでは、TRIGGER今石洋之監督も多摩美大出身なんだってさ。
・・なるほど、言われてみれば、彼の作風は案外<アート>だわ。

「パンティ&ストッキングwithガーターベルト」
「天元突破グレンラガン」

やっぱ、ドリルは<アート>だよなぁ~!


そもそもTRIGGERという会社自体、旧ガイナックスのメンバーで今石という才能をどうすべきか?というのを話し合った末に新設が決められたスタジオだったらしく、やはり美大卒アニメーターというもの、もともとアニメ業界では貴重な位置づけなのかもしれないね。


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