湯浅政明の新作は、<吉本ばなな>らしいぞ?
今回は、世界に誇る日本アニメ界の鬼才・湯浅政明監督について少し書いてみたい。
彼は数年前に拠点サイエンスSARUを去って以降、新たに「ame pippin」という新スタジオを立ち上げた話までは一応聞いてたが、ここにきてその続報がようやく届くこととなった。
それが、これである↓↓
湯浅政明、新作は吉本ばなな「ひな菊の人生」

・・もう、湯浅政明✕吉本ばなという、あまりにも食い合わせが良さそうなコラボに思わず笑っちゃいましたよ。
こんなの、傑作にならないわけないじゃん!
と同時に、例によって興収10億には届かないスケールでおさまるんでしょうねぇ・・(笑)。

個人的には、吉本ばなな初の映画化作品「キッチン」はマイフェイバリットムービーなんです。
あの不思議な世界観、もうタマらんものがあったし、今じゃセレブな美魔女と化してしまった川原亜矢子も「キッチン」の時は初々しかった・・。
私の学生世代を振り返ると、自分の周りの奴らの読書傾向(文学)は
①村上春樹派
②村上龍派
③吉本ばなな派
という主な3派に分かれてたもんさ。
見た感じ、
男女ともにバランスよく支持される①
主にオトコノコに支持される②
主にオンナノコに支持される③
という傾向だったと思う。
私は②派だったので吉本ばななには走らなかったが、しかし「天才」を感じさせるのは明らかに村上龍より彼女の方だったかと(①は少し別格です)。
いや、この際ハッキリいうけどね、日本が世界に発信すべき文学はラノベじゃなく、こういう①~③のようなものであるべきなのよ?

なのに不思議なもんで、これまでアニメ作家は誰も①~③に手出しをしようとしなかったんだよね。
「アニメが純文学に手出ししてはならん」という不文律でもあったのか?
仮にそうだとして、そのタブーを破るのが湯浅政明だというのも、これまた「らしくて」イイじゃん(笑)。

湯浅さんは1965年生まれ。
いわゆる「アニメ界黄金世代」の一角といえる人である。
<アニメ界黄金世代>
・庵野秀明/1960年生まれ
・河森正治/1960年生まれ
・幾原邦彦/1964年生まれ
・湯浅政明/1965年生まれ
ざっと「黄金世代」の主要メンバーを挙げてみたんだが、この中で湯浅さんだけ一種の違和感があるというか、ちょっとばかり「浮いてる」ような印象を受けませんか?
・・いや、このへんは結構感覚的な話だからご理解いただくのは難しいかもしれんが、
庵野秀明「ガイナックス」
河森正治「スタジオぬえ」
幾原邦彦「ビーパパス」
この人たちの仕事には、どこか「インディペンデント系のサークル」っぽいニュアンスが常にあったのよ。
で、そういう彼らのサークルには絶えず何らかの相互交流があり、お互いに切磋琢磨しながらここまでやってきたわけね(ガイナックスやビーパパスはもう今は無いけど)。
だけどさ、こういうサークル間の交流の中に、なぜか湯浅さんだけは入っていないような気がするんですけど・・?

うむ、正直そうなんだよね。
どこか、湯浅さんだけ「黄金世代のカヤの外」感があるわけで・・。
いや、湯浅さんはきちんと社交性のある人物だし、決して意図してこういう形になったというわけでもないのさ。
ただ単に、水が合う合わんの話だったと思う。
どっちかというと彼の場合、STUDIO4℃(森本晃司)メンバーの方が仲いいというイメージかな?
思えば、庵野/河森/幾原のサークルにはどこか<厨二>っぽい匂いがするでしょ?
だけど湯浅さんには、それがないのね。
ここが不思議なところである。
というのも、湯浅さんって人物はアニメ界きってのアニメ研究の鬼みたいな人だから。
それは平たくいえば「オタク」のはずなのに(つまり庵野さんらと同類)、不思議と彼は「オタク」な感じがしない。
多分、湯浅さんという人は「オタク」じゃなく「学者」「研究者」というカテゴリーなのさ。

だから、彼が設立した会社「サイエンスSARU」、そこにサイエンスという冠を付けてる通り、
ここは「サークル」というよりは「研究室」「ゼミ」という印象がある。
多分、これは生まれ育った環境の差だと私は思うんだわ。
たとえば、河森さんは東京の慶応育ち。
で、庵野さんと幾原さんは共に関西の芸大育ち。
じゃ、湯浅さんが一体どこ出身かというと、実は九州なんですよ。
そう、東京⇔大阪で同世代のやつらがワチャワチャやってた頃、湯浅さんはその喧騒から離れたところで、ひとり黙々と画を描いてたわけさ。
もし、彼も生まれが関東/関西なら彼ら同様ワチャワチャやってただろうが、なんせサブカル聖地から遠く離れた九州だったからねぇ・・。
彼は今でこそ「演出家」として見られてるが、実はデビュー時は「めっちゃ独特の画を描く新人」として名を馳せていたという。
つまり九州時代からコツコツと、かなりの量を描いてた人なんだと思うぞ。

じゃ、ここで湯浅さんの作家性を紐解く意味で、某サイトのインタビューで彼が発表していた<僕的ベスト20アニメ>というのをご紹介しましょう。
<湯浅政明の僕的ベスト20アニメ>

『冬眠中はお静かに[トムとジェリー]』テックス・エイヴリー
『悲しい悲しい物語[トムとジェリー]』ハンナ・バーベラ
『ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ』ニック・パーク
『イエロー・サブマリン』
『ユニコ魔法の島へ』
『アリババと40匹の盗賊』宮崎駿作画パート
『ど根性ガエル』70話A「美しき雪ダルマの巻」百瀬義行
『天才バカボン』26話B「パパは男のなかの男なのだ」
『山ねずみ ロッキーチャック』
『妖怪人間ベム』
『うる星やつら』27話「面堂はトラブルとともに!」山下将仁
『スプーンおばさん』エンディング 南家こうじ
『クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』末吉裕一郎作画パート
『THE八犬伝[新章]』4話「浜路再臨」大平晋也
『サイボーグ009』木村圭市郎作画回
『ルパン三世旧シリーズ』宮崎駿作画回
『バットマン』パイロットフィルム
ラディスラフ・スタレヴィッチ作品
ゲーム「ポポロクロイス物語」うつのみやさとる/宮沢康紀作画パート
『タイガーマスク』木村圭市郎作画回
『巨人の星』83話 荒木伸吾
『クレヨンしんちゃん』TVシリーズにおける大塚正実作画パート
『迷宮物語』福島敦子作画パート
『ゴールドライタン』41話「大魔神の涙」なかむらたかし

はい、「ベスト20」とかいいつつも、24作品あることはあまり気にしないでください。
で、このラインナップ見て、「はぁ?」と思った人は多いに違いない。
見たことのない作品が多いし・・。
まぁ、彼の話を聞く限り、コマ打ち云々だのかなりマニアックな視点が入ってます。
これ、クロウト視点でのセレクトですわ。
なお、「好きだけど、あまりにメジャーすぎるから」という理由で「ベスト20」に入れなかった作品もあり、それが下記の作品群。
『ルパン三世 カリオストロの城』
『未来少年コナン』
『アルプスの少女ハイジ』
『母をたずねて三千里』
『赤毛のアン』
『劇場版 エースをねらえ!』
『銀河鉄道999 (The Galaxy Express 999)』
『宇宙戦艦ヤマト』
『マジンガーZ対暗黒大将軍』
『妖獣都市』
『くもとちゅうりっぷ』
『ピノキオ』
『ファンタスティックプラネット』
『木を植えた男』
『霧につつまれたハリネズミ』
『ヒックとドラゴン』
『SING/シング』
むしろ我々としては、こういうメジャーなラインナップの方をまずは押さえておくべきだと思うけど。
とにかく、彼のアニメに対する造詣の深さは、ちょっとシャレにならんレベルなんだわ・・。

思えば、庵野さんもまたオタクとしての造詣が相当なレベルという人だが、いや、そういうのとはまた少し質が違うんだよなぁ~。
湯浅さんの場合、ほとんど学術の領域にまで足を突っ込んでる感じね。
いわば、「教授」みたいな人である。
で、そうした長年の研究から、遂にはサイエンスSARUのFlashアニメ開発という領域にまで行き着いたんだと思う。
あのSARUのFlashなんて、ひょっとしたら日本アニメ次代の新機軸になるのでは?とさえ思えるシロモノである。
あれを、もっと業界に広く普及させられないものか・・。
じゃ最後に、湯浅さんの少し古いアニメをひとつ見ていただこう。
「なんちゃってバンパイヤン」パイロット版
制作/ProductionI.G(1999年)

これは湯浅さんが「マインドゲーム」でブレイクする直前の頃の作品で、彼にしては珍しいProductionI.Gとの仕事である。
TVシリーズを想定して湯浅さんが考案した企画のパイロットフィルムだったらしく、ProductionI.Gは2001年、このパイロット版のアイデアをモトにした「バンパイアキッズ」というシリーズを作ったが、その本編の方に湯浅さんは絡むことなく(なぜなのかは不明)、代わりに湯浅さんはこの企画を後々になって自分の映画に転用したらしい。
どうやら、それというのが「夜明け告げるルーのうた」のことらしいんだけどね。
じゃ、ひとつ、ご覧になってみてください。
「なんちゃってバンパイヤン」本編約18分
・・めっちゃ湯浅的なアニメーションじゃんw
結構イイでしょ?
ギレルモ・デルトロと湯浅政明

アヌシー国際アニメーション映画祭で喝采を浴びる湯浅政明

なお、最近の湯浅さんはサイエンスSARUの枷から放たれ、どうやら十分に充電をできたっぽい雰囲気。
彼の真価が発揮されるのは、むしろこれからだよな?
とりあえず「ひな菊の人生」、完成を楽しみに待ちましょう。

