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「全修。」の元ネタ?京アニ傑作短編「バジャのスタジオ」

いいアニメとは、そのほとんどの場合が「いい原作」に恵まれているものである。
ただ、時にはそういう原作のチカラを借りず、「アニメオリジナル」なのに秀作というものもあるのさ。
たとえば、先の冬クールにおいては「全修。」がそうだった。

「全修。」(2025年)制作/MAPPA

MAPPAが、この作品をどういう形で考案していったのかについては非常に興味あるが、その詳しいところはよく分からない。
まさか、<業界モノ+異世界転移ファンタジー>というメタフィクション系で攻めてくるとはなぁ・・。

だけどね、個人的には「これの元ネタって、きっとアレでは?」と思う部分もあったのよ。
アニメ監督(女性)とファンタジー世界の邂逅という世界観。
私がいう「アレ」とは、コレ↓↓のことである。

「バジャのスタジオ」(2017年)制作/京アニ

どうなんだろう。
あの京アニの作品だから多分見てる人は多いはずなんだが、不思議とこれを話題にする人が少ないので、ひょっとしたらマイナー作品なの?
確か、NHKで放送されてたはずなんだが・・。

じゃ、見てない人も多少いるかと思うので、そういう人の為に本編を貼っておきます。

「バジャのスタジオ」(2017年)本編約20分

「バジャのスタジオ~バジャのみた海~(2019年)本編約25分

・・めっちゃイイ作品でしょ?


何より、この作品が当時として画期的だったのは、あの京アニがアニメ制作スタジオを舞台にした<業界モノ+ファンタジー>という未曽有のアイデア(メタフィクション)を出してきたことなんだよ。

「全修。」のナツ子とはだいぶキャラが違うが、カナ子も女性アニメ監督です

いや、それ以前に、京アニが「アニメオリジナル」を出してきたこと自体が極めて珍しいことである。

京アニのストロングポイントは「原作のイメージを損なわず、忠実なカタチでアニメ化できる」という、その圧倒的な作画力にこそあり、まぁどっちかというとオリジナルは専門外なのよ。
そこは、ジブリと少し違う。

でも、実は今まで2人だけ、京アニでオリジナルに挑んだ作家がいるわけさ。
その1人目は皆さんもよくご存じ、この人です↓↓

山田尚子

代表作/「けいおん」「たまこまーけっと」「リズと青い鳥」「聲の形」

まぁ、彼女のことは今さら語るまでもあるまい。
ぶっちゃけ、京アニが彼女に去られたことは「オリジナル」の可能性含めて大きな損失・・。

じゃ、もうひとりの方は皆さんご存じですか?
この方です↓↓

木上益治(1957年~2019年)

うむ、京アニの男性陣としては石原立也さん、石立太一さんあたりと比べてやや知名度が低いかもしれない。
でも、間違いなく京アニの大躍進を支えた功労者のひとりですよ。

京アニ初のアニメオリジナルを手掛けたのは彼であり、この作品↓↓は皆さんも見たことあるんじゃない?

「MUNTO」(2003年)

監督/脚本/絵コンテ/演出 木上益治

2003年の作品だから、京アニがブレイクするより前の作品ということですわ。
涼宮ハルヒ」が2006年だからね。

この「MUNT」は木上さんが監督/脚本/絵コンテ/演出ということからして、100%彼の能力に依存した作品である。
彼はもともとシンエイ動画出身の人で、80年代から業界では「天才」として名の知れた人物だったんです。
黎明期京アニでは「育成/指導」を主に担った人らしく、つまり京アニが誇る「圧倒的画力」は木上さんが源流といって過言ではないほどなんだ。

ただ悲しむべきは、そんな偉大な彼が2019年に亡くなってしまったこと。
・・そう、彼は例の放火事件の被害者である。
前述の「バジャのスタジオ」に話を戻すが、これ、実は木上さんの遺作なんだよね(ここでは、なぜか三好一郎という別名義を名乗っている)。
2019年夏に彼は亡くなり、そして、その年の冬に「バジャ」は初めてテレビ放送された。
これは追悼の意味で放送されたのか、あるいはたまたまそうなったのはよく分からない。

「バジャのスタジオ」

なんか、ネット上では木上さんの「MUNT」シリーズを「京アニの黒歴史」とディスってた人もいたんだが、正直私は「MUNT」もさほど悪い作品だとは思えないのよ。
ただ、あまり好評でもなかったのは事実のようだし、誰もこの作品のことは触れようとしないんだよね(笑)。
私は、「あり」だと思ってるんだけど・・。

「MUNT」前篇(2003年)時間約100分

「MUNT」後篇(2005年)時間約90分

・・正直、これが木上さん自身の作家性だとは思わない。
というのも、木上さん自身はこのオリジナル企画の会議の場に別案を持ってきてたらしいから。
ただし、それは「文芸色が強すぎる」と却下され、最終はこの「MUNT」に決まったらしい。

皆さんも、昔の京アニのことをよく思い出してみてほしい。
この会社には、もともと2つの作品ベクトルがあったのよ。

ベクトル①<こっちの世界とあっちの世界>

ベクトル②<日常をベースにした学園モノ>

①が「AIR」(05年)「Kanon」(06年)「CLANNAD」(07年)といったKeyゲーム系(麻枝准系)のいわゆる「厨二」世界の属性であり、これには「境界の彼方」も入るし、私が思うに、「MUNT」はこの世界観を目指したオリジナルだったんだろう。

一方②は、「らき☆すた」(07年)「けいおん」(09年)「日常」(11年)といった4コマ漫画原作、いわゆる「きらら」系「空気」系の属性であり、どっちかというと、ウケでいえばこっちの方が良かったんだよね。
山田尚子の「たまこ」シリーズは、この世界観を目指したオリジナルだったんだろう。

①の木上益治、そして②の山田尚子


世間は、山田尚子の方を支持したわけよ。
で、②支持派は、「MUNT」を見たら「京アニの黒歴史」とディスったわけです。
そういうの、なんか違うんだよなぁ・・。
①と②は、いわば<京アニの両輪>だったんだから。
その後、エポックメイキングになったのは「中二病でも恋がしたい!

「中二病でも恋がしたい!」(2012年)

監督/石原立也 脚本/花田十輝

これは<②の立場から①を楽しむ>という京アニの最終結論であり、ひとつの総括だったと思う。
小林さんちのメイドラゴン」もまた、その系譜だよね。

「小林さんちのメイドラゴン」(2017年)

監督/武本康弘 脚本/山田由香

・・それにしても、木上さんも山田さんも今はもう京アニにいないし、付け加えると武本康弘さんもいないし、「オリジナル」復活の道はやや遠のいたかもしれんぞ。

いやマジで、例の放火犯は呪ってやりたい・・。


この犯人のことは詳しく知らんが、確か「あっちの世界」の人なんだよね?
そういう人が、「こっちの世界」で火をつけちゃったか・・。
おそらくこれは、このてのセカイを扱う業界だからこそ背負ってしまったともいえる、一種の<リスク>だったんだろう。

ところで、京アニがあんまりオリジナルを作らないことについて、皆さんはどう捉える?
実はこれ、京アニさん自身にとっても一時期まで切実な問題だったらしいのよ。
というのも、「涼宮ハルヒ」や「けいおん」があそこまでヒットしつつも、

実は当時、京アニにはほとんどおカネが入ってこなかったんだってさ。


あれだけ頑張ったのに、骨折り損のクタビレ儲け。
・・まぁ、それは「製作委員会方式」の弊害というやつで、そこで儲かった莫大な利益は「京アニ以外のどこか」がごっそり持っていったんだろう。
ただ、それはそういうシステムなんだから文句いってもしようがない。

でも、今後どうしよう?」ということになり、そこで作られたのが

京都アニメーション大賞

というやつですね。
これはもう、がっつりと「権利」を担保した上でアニメ化しよう、って魂胆ですわ(笑)。
いやいや、結構狡猾だね?
この「京都アニメーション大賞」で生まれた作品は

・中二病でも恋がしたい!
・境界の彼方
・ハイスピード
・無彩限のファントムワールド
・ヴァイオレットエヴァーガーデン
・ツルネ


などで、これら作品は「涼宮ハルヒ」や「けいおん」とは比較にならんほどの莫大な利益を生んだと思います。
・・残念ながら例の火災以降、これの募集は現状中断されてるんですけど。
でも多分、そのうち復活するでしょう。
この選考は今まで10回前後あったんだが、そのうち「大賞」に選ばれた作品は「ヴァイオレットエヴァーガーデン」の1本のみらしい。
上記作品群も、実はそのほとんどが「奨励賞」。
酷い時は「奨励賞」すら該当作ナシとされ、どんだけ厳しい選考やねん?

と思うと「ヴァイオレットエヴァーガーデン」が一層尊い作品に感じられてきた・・

個人的に、この作品は京アニの画力の「K点越え」だと思う。
いや、日本アニメの「K点越え」。

そして、こうした画力を指導的立場で担ってくれてたのが前述木上益治さんであり、

皆さん、この人の名は心に刻んで下さい。


この会社、始まりは元虫プロの八田陽子さんが結婚後の副業(?)として、近所の主婦を集めて細々と始めた「アニメ塾」のようなものだったという。
ちなみに今の社長は八田さんの旦那で、彼はもともとアニメには何のゆかりもない人だからね(笑)。
で、どうやら、最初のうちは有望スタジオというほどでもなかったっぽい。
それが激変したのが、やはり木上さんが入ってからなんだってさ。

この人、正真正銘の「天才」だったらしい。


その画力は、彼が30年以上前に描いたというこの絵本↓↓でご確認ください。

沖浦啓之
「京都ではアニメーターの何たるかは木上益治さんの背中を見ていれば全てわかる」

井上俊之
「新人の頃ライバルだったが結局勝てなかった。アニメのセンスの良さでは未だに勝てない」


やっぱりね、京アニがここまでの会社になったのには、こういう<根拠>があったのよ。
私は「バジャのスタジオ」見て、ホント涙が出そうになったわ・・。

ありがとう、木上さん。


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