ヨーガの思想史『ヨーガの大海』2-1-3. ハタ・ヨーガの多様な流れ
はじめに
ハタ・ヨーガ(हठयोग, Haṭhayoga)は、中世インドで興隆した身体技法を重視するヨーガの一派です。古典ヨーガ(パタンジャリのラージャ・ヨーガなど)が心の制御による解脱を目指したのに対し、ハタ・ヨーガは身体そのものを「道具」として用い、肉体的・生理的な修行によって心身を浄化・活性化し、最終的な三昧(サマーディ)へ至ろうとする実践体系です。ハタ・ヨーガの名称は「力強いヨーガ」という意味で、「ハ(太陽)」「タ(月)」の二音から万物の二元(陽と陰)の統合を表すとの解釈もありますが、本来的には「力(はた)=強行によるヨーガ」という語義が正しいと考えられます。この流派では、アーサナ(座法)やプラーナーヤーマ(調気法)などの身体技法によって生命エネルギー(プラーナ, प्राण, prāṇa)の流れを操作し、生理的・心理的変容を起こすことで悟りや解脱を得ることを目指しました。
ハタ・ヨーガは当初、特定の宗派(主にヒンドゥー教シヴァ派のナータ(ナート)派)に属する行法でした。しかし中世から近世にかけて、その技法と思想はさまざまな分派(ナータ派、ダッタートレーヤ派、アーナンダ派など)に受け継がれ、それぞれ独自の展開を遂げました。さらに、ハタ・ヨーガの思想と実践は他宗教・文化圏(シヴァ派の密教タントラや仏教密教、さらにはイスラーム神秘主義(スーフィズム)など)とも深く交錯し、相互に影響を与え合いました。その結果、ハタ・ヨーガは宗派の壁を越えて広まり、様々な文化的背景の中で受容・変容していったのです。ここでは、ヒンドゥー教のヴェーダーンタ哲学系統に属する修行者たちがハタ・ヨーガを採用・発展させた流れに始まり、中世〜近世におけるハタ・ヨーガの多文化間での流れについて、身体技法・思想・文献伝承の観点から具体的に解説します。
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