改革で大切なのは、過去を否定しないこと。人は功績を認められてから変わっていく。
前回、業務改革とは、システムを変えることではなく、自分たちの仕事の進め方を変えることだと書きました。
新しい仕組みやツールを導入する時、旧来の業務の進め方をそのまま移行させようとすると、改革は単なる置き換えになってしまう。
大切なのは、旧来の方法そのものではなく、その業務が果たしていた目的や目標を見つめ直すこと。
そう考えると、業務改革の本質は、システム刷新ではなく、自分たちの仕事の再設計にあるのだと思います。
ただ、実際の改革で最も難しいのは、ここから先です。
仕事の進め方を変えるということは、そこで働く人の考え方や感情にも触れることになります。
これが、とても難しいのです。
人は、簡単には変われない
改革を進めようとすると、必ずと言っていいほど、変化に慎重な人たちが出てきます。
少し強い言い方をすれば、抵抗勢力のように見えることもあります。
新しいやり方に否定的な人。
以前の方法に戻ろうとする人。
細かい不満を次々に挙げる人。
「昔はこれでうまくいっていた」と言う人。
改革を進める側から見ると、どうしても厄介に感じてしまいます。
しかし、これはとても自然な反応でもあります。
慣れた仕事の進め方が変わる。
新しいシステムを覚えなければならない。
長く使って習熟していたツールが変わる。
それは、単に手順が変わるという話ではありません。
その人が積み重ねてきた経験や勘、仕事の誇り、場合によっては居場所の感覚にも関わってきます。
私自身は、変化に対して前向きな方だと思っています。
新しい仕組みやツールにも抵抗はあまり感じない方だと思います。
それでも、自分が慣れ親しんだ仕事の進め方が変わる時には、どこかで戸惑いや寂しさのようなものを感じることがあります。
であれば、普段から改革や業務設計を意識してこなかった人が、戸惑い、迷い、否定し、時には拒否するような反応を見せるのは、むしろ自然なことなのだと思います。
「昔はよかった」の奥にあるもの
改革の現場では、「昔はよかった」という空気が出てくることがあります。
以前の方が早かった。
前のシステムの方がわかりやすかった。
昔のやり方なら、こんな手間はなかった。
現場のことをわかっていない。
こうした声を聞くと、改革を進める側は反論したくなります。
新しい仕組みの方が合理的です。
長い目で見れば効率化されます。
属人化をなくすためには必要です。
以前のやり方では限界があります。
もちろん、その説明は必要です。
しかし、論理だけで人の気持ちは動きません。
「昔はよかった」という言葉の奥には、単なる懐古だけではなく、別の感情があるように思います。
これまでの自分の仕事は否定されるのではないか。
自分が積み上げてきた経験は価値を失うのではないか。
新しいやり方についていけるのだろうか。
自分の居場所は残るのだろうか。
そうした不安が、時に「昔はよかった」という言葉になって表れるのではないでしょうか。
だから、改革で大切なのは、過去を否定しないことだと思います。
これまでのやり方が間違っていたから変えるのではありません。
これまでのやり方で、事業を支えてきた。
お客様に対応してきた。
現場を回してきた。
トラブルを乗り越えてきた。
その積み重ねがあったからこそ、今があります。
まずは、そこをきちんと認めることを忘れてはいけません。
これまでの功績をきちんと認識・再評価
改革の時に必要なのは、過去のやり方を切り捨てることではありません。
過去のやり方が果たしてきた役割を確認し、その価値を次の形に受け渡すことだと思います。
たとえば、ある帳票があったとします。
新しいシステムでは、その帳票は不要になるかもしれません。
しかし、その帳票が長年担ってきた役割は、不要になるわけではありません。
何を確認していたのか。
どんなミスを防いでいたのか。
誰と誰の認識を合わせていたのか。
どのタイミングで判断材料になっていたのか。
そこを丁寧に見ていくと、帳票そのものは不要でも、その帳票が担っていた目的は残す必要があることに気づきます。
新しい仕組みでは、その目的を別の方法で実現する。
画面で確認するのか。
アラートで知らせるのか。
権限設定で防ぐのか。
入力チェックで止めるのか。
このように考えれば、改革は「過去を捨てる作業」ではなくなります。
過去の仕事が持っていた意味を、新しい仕組みに翻訳する作業になります。
その時、現場で長く働いてきた人の経験は、むしろ重要になります。
旧来の業務をよく知っている人ほど、その仕事が本当に果たしていた意味を知っています。
なぜその確認が必要だったのか。
どこでミスが起きやすいのか。
お客様がどこで困るのか。
そうした知見は、新しい仕組みに移行する時にも欠かせません。
だからこそ、改革では、これまでの功績をきちんと認識することが重要なのだと思います。
「あなたたちのやり方は古いから変えます」では、人は動きません。
「これまで支えてきた仕事の価値を、次の形に移したい。そのために、これまでの経験を貸してほしい」
そういう伝え方が必要なのだと思います。
改革は、説得ではなく受け渡し
改革というと、どうしても前へ進むことばかりを考えます。
新しい仕組み。
新しいツール。
新しい業務フロー。
新しい役割分担。
しかし、前へ進むためには、過去とのつながりを丁寧に扱う必要があります。
人は、過去を否定されたままでは、なかなか前へ進めません。
たとえ合理的には正しくても、感情が置き去りにされると、改革は現場に根づきません。
だから、改革は説得ではなく、受け渡しなのだと思います。
これまでの仕事の価値を改めて認める。
そのうえで、今の環境では何を変える必要があるのかを共有する。(課題の共有)
旧来の方法が果たしていた目的を新しい形に移す。
そして、現場の人にも、その移行の担い手になってもらう。
これができると、抵抗に見えていたものが、少し変わって見えてきます。
抵抗している人は、
失われるかもしれない価値を守ろうとしているのかもしれません。
自分の経験が無駄になることを恐れているのかもしれません。
新しい環境で、自分がどう役に立てるのかを探しているのかもしれません。
そう考えると、改革を進める側の姿勢も変わります。
相手を論破するのではなく、相手の経験を受け取る。
過去のやり方を否定するのではなく、過去の価値を言語化する。
そして、それを新しい仕組みにどう引き継ぐかを一緒に考える。
改革の難しさは、ここにあるのだと思います。
終わりに
業務改革で一番難しいのは、システムを変えることではありません。
人のマインドセットを変えることです。
ただし、それは「古い考え方を捨てさせる」という意味ではありません。
これまでの仕事に意味があったことを認めたうえで、その価値を新しい環境に合う形へ受け渡していくことです。
改革とは、過去を否定することではありません。
これまでの仕事が果たしてきた役割を認めたうえで、次の環境に合う形へ移していくことなのだと思います。
「昔はよかった」と言う人に対して、「それは違う」とすぐに返すのではなく、まずは「何がよかったのか」を聞いてみる。
現場で積み重ねてきた知恵があるかもしれません。
お客様を守ってきた工夫があるかもしれません。
ミスを防ぐための経験則があるかもしれません。
それを受け取ったうえで、これからの仕組みにどう活かすかを考える。
その時、改革は過去との断絶ではなく、次への受け渡しになります。
そして、その受け渡しができた時に、ようやく人も仕組みも少しずつ変わっていくのだと思います。
