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小説|「セレニティ模様」第4話

幼稚園では季節ごとや時間帯によって様々なイベントが開催される。
来る七月。七月の恒例行事といえば七夕だ。朝、幼稚園に着くと入り口前のホールには大きな笹竹が飾り付けられていた。香はあまりの高さに首をのけぞらせて見上げた。
七夕といえば一人ずつ短冊に願い事を書いて、書き終わったらその笹に飾りつける。
 午前中は思い思いに願い事を書き、書き終えたら竹笹に飾る時間。開始早々、とんでもないはやさで願い事を書き終え「できた!」と大声を上げ、その勢いのまま走って笹に飾りつけに行く子。それなりの時間で書き終え笑顔を浮かべながら友だちと一緒に飾り付けに行く子。
大多数のクラスメイトが既に飾りつけまで終え席を立ち自由に遊んでいた。
 それなのに香ときたら願い事がどうにもこうにも思いつかない。一つだけで良いのにその一つさえ思い浮かばない。何を書けばいいのか分からず白紙のまま時間だけが過ぎる。
見回りに来た先生が「もうほとんどみんな書き終わっているよ」とわざわざ告げる。
「悠ちゃんは書き終わっているよ」としっかり余計な一言を付け加える先生もいる。ずっと一緒に過ごして来たから香が一番分かっている。悠はなんでも自分よりできるのだ、と香は口を真一文字に結ぶ。
 パン屋さん、ケーキ屋さん、お花屋さん、看護師さん…子ども心に憧れる王道はどれもこんなに引っ込み思案な自分にはできそうもない。どうしよう。どうしよう。人との関わりは自分には無理だ。自分がイメージできる範囲で香にもできそうなことを一生懸命探す。専業主婦ならどうだろうか。お母さんは家の中のことを一人で切り盛りしている。大変そうだけど教えてもらえば何とか自分にも手が届くだろうか。香は意を決して短冊に書く。
 “およめさんになりたい”
 短冊に遠慮がちに書かれた文字。それを眺め我ながらなかなか大そうな願い事になった、と香はうろたえる。友だちもままならないのにお嫁さんとは。香は考えすぎて空回りすることがよくある。
 しかしもらった短冊は一枚。マジックペンで書いた願い事をぐりぐり塗りつぶして書き直すのもどうかと思う。
よし。香は竹笹に向かう。できるだけ目立たないよう後ろに飾りつける。他の人たちはどんなお願い事をしているのだろう。香は飾ってある短冊を見る。
「おいしゃさんになりたい」「げーむがほしい」「ぴあのがうまくなりますように」…
あっ。悠の短冊だ。
あの有名な美少女戦士・月のうさぎちゃんになりたいことが書かれている。
 香は自分もこのくらい気楽に書けばよかったと思ったのと、普段大人っぽい悠が書いたことがなんだかおかしくて顔がほころぶ。
 「香、なんで笑ってるの?」悠が隣に来た。
 「悠の願い事が子どもらしくてつい笑ってしまった」
 「ははっ。髪がピンクの小さいうさぎちゃんとも迷ったの」
 「あー。悠、その子もすきだもんね」
 香は悠と比べてはできない自分に落ち込み、悠と話すと自分の気持ちがほぐれる。考えすぎな自分の気持ちをいつも軽くしてくれるのは悠なんだよなあと香はしみじみ思う。

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