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小説|「セレニティ模様」第44話

 香は校門を通り教室を目指す。下駄箱や廊下では同じ中学校出身組はすでにグループになっている。当然自分はそこに入れない。中学校で交流がなかったのだから仕方がない。
でもいじめる人たちがいない。それだけで充分なのだと欲深くなる自分を制する。
 友だちをつくるもう一つの方法といえば出席番号が近い人と、なんとなく同じグループになりがちだ。けれどそれも縁がないな、と香は思う。
中学校のヒエラルキーで下層にいた自分。齢十三歳。すでにそこで社会の立ち位置も決まってしまった気でいた。高校生ライフも中学の延長みたいなもので変わらないだろう。
 
 *
中学校舎はオンボロ校舎だった。そのうえ、そこかしこに殴った後や傷がついていた壁。いかにもワルがいそうな物騒な治安だった。
だからそれに比べると高校の校舎はがらりと印象が違った。
県立白ヶ音(しろがね)高校の校舎。窓辺の陽だまりで話している生徒たち。
数年前にできたばかりの校舎は真新しい。木のぬくもりを感じる校舎。窓から差し込む光。柔らかい雰囲気に包まれている。
一年一組の教室。山川香という名前を見つけ着席する。窓側の前から四番目。まだ新しい机といす。変な落書きや彫った後のない机。
 前席には電車で見た子が座っている。その周りにはさっき電車で一緒にいた二人が集まっている。
山ノ上莉緒さん。その席に同じ中学校の友だちらしき人たちがたくさん集まっている。中学生活をエンジョイしてきた人たちだろう。香はそっと自分の机をやや後ろに引いてスペースを空ける。
 出席番号も後ろのほう。年度初めは窓際の席になることが多い。ぼーっと窓の外を見る。広いグラウンド、その先に見える山々。うっすら曇り空。期待しないほうがよい。期待してがっかりするくらいなら、いっそ起こり得る最悪のことを想像した方がマシだ。
 ガラガラガラガラ。教室のドアが開く。先生が二人並んで入って来る。立ち話を楽しんでいた人たちが急いで自席に着く。
 「はい。おはようございます」担任の先生と、その後ろに副担任の先生。香は正直、先生に何も期待をしてない。大人だから年を重ねているからといって人間ができているとは限らないということは十五年も生きていればそれとなく分かってくる。
 「おはようございます」それぞれ生徒たちの挨拶が聞こえる。
 担任の先生が黒板に文字を書く。
 「高藤 登」
 「はじめまして。担任のたかとうのぼるです。よろしくお願いします」
 七三分け、つぶらな瞳をした四十代後半くらいのおじさん先生だ。小柄な先生で威圧感がない。けれど頼りない感じではない。
 隣にいるおそらく副担任の先生が軽く拍手する。それに倣って拍手が起こる。香も合わせて拍手する。みんなよりワンテンポ遅く始め、ワンテンポ早く終えるから香の拍手は決まって短い。なんとなく目立つことがいやだから拍手が自分だけになる、それすらも嫌なのだ。つくづく学校生活に向いていないと小さくため息をつく。
 「戸部 葉月」
 「はじめまして。副担任のとべはづきです。よろしくお願いします」
 丸顔。ショートカットの艶のある髪。すらっとした細身の長身。二十代そこそこだろうか。
 今回は生徒たちのほうからまばらな拍手が起こり自然な拍手に変わった。
 
 「戸部先生は昨年度大学を卒業したばかりです。今年度、採用試験に合格して初めての先生です。よろしくお願いします」
 高藤先生が戸部先生の方に手を向けて言う。
 「わあ。優秀なんですね」
 「すげー」
外の社会の常識なんて知らない香は、それはすごいことなのだとハッとする気持ちと普通に暮らしていたらこれがすごいことだと知っているんだという自分との隔たりを感じた。
思えば、中学一年生の朝の会。毎朝、一つずつ順番に興味を持ったニュースを発表するという時間があった。
毎日、自分のことだけで精いっぱいの自分、家庭の中で起こるトピックスでいっぱいいっぱいのときに外のニュースに目を向ける余裕なんてないと腹立たしかった。外からの感情が揺さぶられる情報を受けるキャパがなかったからだと回想する。

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