小説|「セレニティ模様」第51話
ヨシばあの住む地域は特別豪雪地帯だ。
十一月になると家々で囲いが始まる。家の一階は中に太陽光が当たらなくなり全体が暗くなる
十二月になるとほとんど太陽は顔を出してくれず空はだいたいいつもどんよりとした曇り空だ。日中日が差さず十六時ともなると日が暮れる。一日を通して日照時間が非常に短い。雪は容赦なく冬の間降り続け積み上がる。吹雪で視界が見えず冷たい風が頬を刺すこともままにある。積った雪を放置していると圧雪されどんどん硬く、重くなる。プレスチック性のスコップでは太刀打ちできずスチールやアルミの金属で作られた角スコップを使う。雪国の人たちにとって積もった雪はできるだけ早い内に寄せるというのが鉄則だ。できるだけふんわりした雪質の内に家の前の畑や近くの雪寄せ場に寄せておく。今日はやりたくないとか、そういう気分次第でやらないという選択はない。
冬は古の時代から休むことが養生とはいえ雪が降り続ける限り雪寄せが生活の中心となる。寄せたそばからまた積もっていくのが見えて終わりのない雪との戦いに嫌気がさす。
雪を楽しもう!などという雪の大変さを逆手にとったイベントがあるけれど雪の大変さを無視して無理に陽気にするイベントに辟易する。過酷さと向き合って豪雪地帯の冬の生活の質を上げてほしい。冬季うつなどという病もあるけれどお陽さまの光もなく来る日も来る日も雪寄せのことが頭の片隅から離れない冬ではそうなってもおかしくない。
雪が自然に溶けたらいいのに。太陽光発電のように電気になればいいのに。積雪のエネルギーで暖房が使えたらいいのに。ラクするための発想がとまらない。他に考えるべきことがあるのに、香はついそんなことを考えてしまう。
とはいえ豪雪地帯に住んでいる人たちにとってはこの暮らしが当たり前だ。朝は早起きして仕事に行く前に一時間ほどは雪寄席するのが常識だ。雪道は混雑するから夏場より三十分以上は早く出勤するのも普通だ。そうしないで遅れたとしてもそれは己の甘えだとしか思わない人が多数だ。
冬囲いをして日中も薄暗い家の中。
コタツ、石油ストーブ。石油ストーブの上ではヤカンに入ったお湯が沸かされている。
ヨシばあの家で暮らす冬。雪国ならではの冬の暗さがあるけれど山川家で過ごす冬より心は温かい。
香と悠は揃ってコタツに足を入れている。
「さむいさむい」香が大げさに言う。山川家ではトメさんにそんなこと言うと余計寒くなるとか、贅沢だとか、冬にアイスなんか食べるからだとか言われ次第にそういう感情を出さなくなっていたなと思い出す。
「ねっ。さむいさむい」悠も続ける。
「もう一つストーブつげるが?風邪引げばダメだ。なあ」ヨシばあが心配する。
「大丈夫だよ。さむいさむいって言ってるだけだから。冬の風物詩的な」悠が笑う。
「ほんとはアイス食べたいって思ってた」香が困り笑いしながら言う。
「あー。アイスいいよね。冬にコタツに入りながらゆっくりアイスを味わいたいよね」悠が話に乗ってくれる。
「んだがあ?」そう言ってヨシばあは急須からお茶を淹れる。湯飲み茶わんから湯気が立ち昇る。
「二人ともどうぞ」二人の前のテーブルに湯飲み茶わんを置く。
「仏間のどご襖が開がねえぐなってきたな。そろそろ屋根の雪下ろしだなあ」八重子が引き戸を開けて入ってくる。
少し引き戸を開けただけで廊下から冷たい空気が入り込み底冷えする。コタツに入っているものの畳に座っている。冷気は下に溜まるというのを思い出したら余計に寒くなった。
「寒いいいい」香が言う。
「今度はほんとに寒いやつだ」悠が笑う。
「もうアイスいらなくなった」香が悠を横目で見る。
「そうだね。ははは」悠は咄嗟に湯飲み茶わんを両手で囲み暖をとる。
香はこうやって冗談みたいに話せるようになってやっぱり環境は大事だな、変わるきっかけをくれてありがとうと思い悠を見る。
「この間聞いでみだんだども今年も高木さん家の俊じいがやってくれるど」ヨシばあが言う。
「毎年のごどだども有難でえな。十二月に一回も雪下ろししねくでいいんだば儲けもんだ」
