小説|「セレニティ模様」第23話
小学校高学年になると次第に香と悠の喘息発作は治まった。小児科医から定期検診も来なくてよいとお墨付きをもらった。
学校を休むこともめったになくなった。二人ともなんとなく体が丈夫になってきた感覚があった。
小学校六年生になると中学校の話もそれとなく話題にのぼるようになった。誰某先輩に目をつけられたら大変だとか、何某の部活はダサく見られるからやめたほうがいいとか。
この片田舎ではほぼ全員が同じ中学校に進学する。小学校が同じ人たちは同じ中学校に繰り上がるし他の学区からも集まる。中学校は一学年七クラスないし八クラスあるらしい。
香も悠もうすぐ中学生。香は漠然と中学生になりたくなかった。
*
小学校一年生の誕生日。プレゼントを買ってくれるというので近くのハローマックへ行った。
失礼承知で言わせてもらうと当時はそれほど好きでもないのに某有名キャラクター、白くて小さい猫のぬいぐるみを買ってもらった。
買ってとも主張しない目。人気キャラクターだけあって自ら売込みしなくても買ってもらえる余裕なのか。
しかし香にとってはその佇まいが逆に近寄りやすく手に取りやすかったのかもしれない。なんとなく手に取ってそのまま買ってもらった白い小さい猫のぬいぐるみ。
それほど好きでもないけれど一緒に暮したら好きになるかもしれないと思っていたけれど、来る日も来る日もその猫に愛着が湧かなかった。
感情が読めないし、何を考えているのかはたまた何も考えていないのか分からなくてどう接したらいいのか分からなかった。
しかしある時、某有名猫に口がないのはその時々の相手の気持ちに寄り添うからだというコラムを読んだ。だから自分のその時々の状況に応じて励ましてくれたり一緒に笑ってくれているように見えたりするのだと。
香はその時までまさかぬいぐるみのほうが自分の感情に寄り添ってくれるなんて思ってもみなかったから衝撃を受けた。
なんと香のほうが某有名猫の感情を読むのではなく、某有名猫のほうが自分の感情を読んで合わせようとしてくれていたとは。
香も猫もどちらも相手側の感情に合わせた表情に寄り添えるようにしていたから長い間お互い様子見という状況だった。香はそのコラムの内容が腑に落ちてそれからはその猫のぬいぐるみに親しみを覚えた。
そういえばぬいぐるみに自分の心の内を打ち明けるようになったのはいつ頃からだっただろう。
