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小説|「セレニティ模様」第19話

 今日も何事もなくやり過ごすことができた。香は布団の中でほっと息をつく。
「ぜえぜえぜええ。ヒューヒュー」悠の苦しそうな呼吸音が聞こえる。
香がいつの間にか寝ていて夜中になっていた。
香は慌てて部屋の電気をつける。悠が喘息発作を起こしている。
「ぜえええぜええええ。ごほっごほっ」呼吸もままならない中咳も止まらない。顔色も青い。
「悠?お母さん呼んでくるね」香は悠の肩を軽く叩く。
悠が小さく頷く。香はお母さんの寝室めがけて飛び出す。
「お母さーん。悠が喘息の発作…」
八重子が起きて一緒に悠のところへ向かう。
「悠―」
八重子が悠の顔色を見る。
「病院行こう。悠着替えられる?」そう言って八重子が悠の服を準備する。
「香も行く」
「んだが。んだら香も着替えるが」
「うん」この家に取り残されるのが嫌な香はこういう場合、決まってついていく。
喘息の発作というのは厄介でいつ起こるのか予測ができない。それに夜や朝方、土日に起こることが多かった。だから急患で診てもらうことがままあった。
「悠、階段降りられる?ゆっくりね。お母さん、車出しておくって」
「香は大丈夫?ヒューヒュー。ごめんね。ヒューヒュー」一つ話すごとに苦しそうな呼吸音が聞こえる。こんなときでも悠は香を気遣う。
「ううん」
香と悠はそろって気管支喘息持ちだ。だからお互いにそのつらさがわかる。今回はたまたま悠が発作を起こしただけのこと。
玄関に行くと八重子が悠たちの上着を持って待っていた。
「外、寒いから羽織れな」八重子が悠の後ろから上着を着させる。
「香も、な」香にも上着を着させる。お母さんはいつだって平等だ、と香は思う。
 
 *
一台の車が夜のまちを走る。前にも後ろにも車がいない。対向車もいない。お母さんが運転する車のエンジン音と悠のせつない呼吸音。
 香は後部座席に悠と肩を並べて座る。車のハンドルを握る八重子の後ろ姿。
町全体が息をひそめているような静寂。夜中に開いているお店はない。家々の電気も消えている。今活動しているのはひょっとして自分たちだけなのではないかと思う。心細さ、薄気味悪さを感じさせる静寂だ。
だから道路沿いにぽつんとコンビニの明かりが見えるとほっとした。
コンビニをほどなく進むと総合病院が見えた。まぎれもなくいつもの道を通って来た。
夜の病院は必要最低限の電気しか点いていない。正面入り口を入って左に進むとお馴染みの小児科だ。今はその一つの廊下が真っ暗闇で先が見えない。正面入り口を入って右に進むとある売店の電気も消えている。売店の前にある自動販売機だけに明かりが灯っている。そこだけ明るいのが余計不気味に感じる。近寄りたくなるけれど何か罠があるかもしれないような。全体的に薄暗い環境がそう思わせるのだろうか。
夜の病院は何度も来ているけれどこの雰囲気はそうそう慣れるものではない。
「香、こっちだよ」八重子が悠の手をつないで待っている。
「うん」一人取り残されるなどもってのほかだ。香は駆ける。

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