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小説|「セレニティ模様」第43話

 道に積み上がった雪はほとんど溶け、地面からは草や蕾、小さい花が顔を出す。
香は玄関から外へ出て砂利道を歩き始める。
 斜め後ろを振り返る。
 「行ってきます」
 「気ぃつけでな」エプロン姿のヨシばあが後ろで手を組んで半歩後ろをゆっくりと歩く。
 ヨシばあの家から続く砂利道、直進で五十メートルくらい。そこまで一緒に歩いてヨシばあは見送ってくれる。
 香と悠は晴れて高校生になり、二人とも別々の高校だけれど念願叶い二人ともヨシばあの家に住んでいる。
 
 香はルートごとに徒歩、電車、自転車を利用しながら通学する。
まずヨシばあの家の最寄り駅、醍ノ原駅から電車に乗って二駅。八分ほど。高校の最寄り駅の横川駅へ向かう。
田舎では当たり前なのだけれどどうやら都会の人にとっては二駅で八分という時間間隔は驚くらしい。次の駅までは三分で着いたりすることが普通らしく香にとってはそっちのほうが驚きだ。
横川駅から高校までは自転車で片道十分ほどだ。
 一本だけのホーム。階段もなくもちろん地下通路もない。
線路を渡ればすぐそこが改札。車掌さんに定期券を見せそのまま同じ階のホームで電車を待つ。
待つこと十分、電車が来た。香と同じ制服を着た集団が乗っているのが窓越しに見える。すでに同じ中学校出身者でまとまっているように見える。
電車の扉が開くと目の前に三人で楽しそうに話している女子グループが目に入った。中学校も青春を謳歌してきたであろうことがすでに雰囲気で分かる。香は存在感を消すように電車に乗る。二両編成の電車。大して混まない電車も朝の通学時間帯はそれなりに活気づいている。
 ガタンゴトン。ガタンゴトン。香は電車に揺られながら背の窓を見る。
見慣れた田んぼ。その奥に連なる山々。その中でもドンと構えているひときわ大きな山。ヨシばあの家の仏間の窓から一直線に見える山だ。山々から少し視線を下げると民家がぽつぽつと見える。その中の一つ、ヨシばあの家も小さく見える。
 昔から電車からヨシばあの家が見えると心が弾む。電車から見えることが特別だと感じる。
 電車に揺られて八分。横川駅へ到着。
ホームへ降りた集団が自転車置き場に向かう。香はそれを見送る。空いてきたところで電車から降りて間合いを取りながら自転車置き場に向かう。
群れから離れて行動する癖が染みついている。高校生になっても変わらず過ごすだろうと香は予想した。
 群れから離れ自転車をこいでいても信号で止まっている集団に追いついてしまう。だから「早く信号が変われ」と念じながらさらにのろのろと自転車をこぐ。スピードがなさすぎてよろける。ぶざまだけれどそれでもできるだけ近づかないように神経を集中させる。
 ひたすら住宅街を直進すること六分。途中、民家の犬に大声で吠えられ自転車のバランスを崩しそうになったり、目の前に小さい虫が群がっている空間があり驚いた拍子に自転車のベルを鳴らしてしまったり。いくつかのちいさなハプニングをくぐり抜けなんとか高校に着いた。まだ高校生活が始まってもいないのにこんなにびくつくなんて香は自分のことをつくづく小心者だなと思う。悠がいたら笑いに昇華できるのになと思う。
 思えば幼稚園から中学校までは行き帰りはいつも悠が一緒だった。その時間に悠が隣にいない。心にぽっかり穴が開いたような寂しさや心細さがある。いてくれるだけで安心する稀有な存在だった。

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