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小説|「セレニティ模様」第52話

 今朝も明け方三時すぎ頃、除雪機、通称ブルの音が聞こえた。
 ガガガガガガ ゴゴゴゴゴゴゴ
 この音もさることながら振動もなかなかのもので、雪国あるあるでこれで目が覚める。そしてあー今日も雪が積もったんだなと思う。
香は朝起きてカーテンを開ける。二回は囲いをしていないから外が見える。いつもの山は真っ白な雪の帽子をかぶっているし、田んぼは一面真っ白な雪。
別の窓から外を見る。生活道路に続く道までは雪が寄せられ道がついている。なぜかというとヨシばあが毎朝早起きをして歩けるように平坦な道をつけてくれているからだ。年を重ねたヨシばあの身体には堪えるはずだ。それなのに文句ひとつ言わず当たり前のように寄せてくれる。
湿気を含んだ雪が積もるとずっしりとした雪のかたまりになる。
その日の体調によってはそのままにしておきたいときもあるだろう。けれどそうするとしまり雪になって余計寄せるのが大変。だからこの地域で雪を放置している人はいない。なんなら早起きして朝からせっせと雪寄せをし、たいてい八時頃には終わっている。その時間でも普段の暮らしで家の前に雪があれば怠けもの、だらしない、何をしているんだと後ろ指をさされる風潮があったりなかったりする。
 今日は雪寄せなんかしたくない。朝も午前中も雪寄せしたから午後くらい雪寄せのことは考えたくない。と思っても降雪は待ってくれない。どんどんどんどん、どしどしどしどし降り積もる。自分の気持ちとは裏腹にこまめに寄せなくてはならない。この地域で暮らすには豆さが肝心だ。忍耐強くなければやっていけない。
香が学校に行くときも学校から帰って来るときにもヨシばあの家の前にはいつも道がついていて、ヨシばあの思いやりや勤勉さに心打たれる。
 「いってきます」香の口から白い息が出る。
 「気いつけでな」ヨシばあからも白い息が出る。
 登校時間なり玄関を開けると吹雪いていた。
外を歩き始めると遮るものがない空間で冷たい風と一緒に雪が顔にぶつかり冷たくて痛くて香はぎゅっと目をつむる。少し歩いて振り返るとヨシばあの姿は吹雪の中に消えて見えなくなった。最寄り駅まで下を見ながら歩く。いつもの道。前の人が通った足跡。かろうじてまだ消えていないところを頼りに歩く。足がかじかむ。
 徒歩五分の間に頭のてっぺんから足先まで雪が覆う。やっとのことで最寄り駅に着いた。コートや帽子、手袋、マフラーに着いた雪を払う。払わないと水滴になって湿ってしまうから寒いところで早めにはらうに限る。手袋をしても手も赤くなり指もパンパンに腫れてほとんど指の感覚はないけれど、そこまでは終わらせておきたい。
 「雪の影響で電車が遅れています」アナウンスが聞こえる。
 冬の間は想定していることだ。待合室で待つ。待合室の窓から見える景色は吹雪いている雪景色。少し先も見えない。香は寒々しくて見るのをやめた。
 待合室では参考書を開いている人。イヤフォンで音楽を聴いている人。友だちとおしゃべりしている人。それぞれだ。
 香はもしこれから中学校に行くんだったらもっと電車が遅れろ、一生動くな、と思っただろう。中学生の頃は通学手段が自転車か徒歩だったからどんなに天候が悪くても一歩ずつ確実にたどり着いた。それもいやだった。自分の頑張り次第で確実についてしまうことが嫌だったのかもしれない。頑張れば頑張った分だけ大変になる。それが嫌だったのかもしれない。そんなことを考える。冬はどうしてもセンチメンタルになる。

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