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小説|「セレニティ模様」第41話

 担任教師に言ってもなんの意味もないと言い放った翌日。早いもので八重子が担任と電話していた。
「いじめなどない。いじめるような生徒ではない。全体に向けていじめをしないように伝える、だからまた学校に来てくださいよ」とのことだった。そう告げて通り一辺倒の相談が終わった。
 
  *
 香は二週間休んだのち学校へ行った。悠も一緒だったのが心強かった。何か変わるかもと淡い期待をしたりどうせ変わるわけない、現状維持より悪くなってるかもと最悪の事態まで想定したり。眠れないまま過ごし当日の朝もやっぱり行くのを辞めてしまおうかと葛藤したり。ダメだったら一時間だけで、もしくは朝の会だけで帰ってこようと逃げ道を作って登校した。
 紆余曲折あった結果香はなんとか登校して自分の席にいる。教室内のことを何も聞きたくないし見たくない。これ以上傷つきたくなくて心を固く閉ざした。肩まである自分の髪で視界を遮る。俯いたまま朝の会を待つ。
 
 朝の会が始まると早々に担任から全体に向けて「そういうことはしないように」と注意喚起がなされた。注意喚起がされたところで中途半端な関わりはちくった扱いされ、またねちねち言われた。
根絶する気がないならむしろ話さないでほしかった。煽っただけで悪化した。また、ほとぼりが冷めるまで時間が必要だ。
 そして今日も変わらず桑原さんたちは先生と愉しそうに話している。先生もおだてに弱いタイプでまんざらでもなさそうで癪に障る。桑原さんがしたり顔で香を見る。
 桑原さんたちと先生に対する怒りが増幅した。解決するどころか自体が悪化して久しぶりの学校は散々だった。
 
  *
 季節はゆっくりでも確かに移ろうことが救いで秋になった。
 田んぼも一面、稲穂が実っている。黄金色に輝いている。もうじき収穫だ。
 こんな風に立派に成長できたらよかったなと香は思う。
風に揺られて稲穂が靡く。風に流された稲穂はしなやかに揺れる。風に吹かれても折れず柔軟に曲がって受け流している。香は自分とは対照的だなと思う。なんでも受け止めて受け止めきれなくてキャパオーバーになってしまう自分はこれから先社会の荒波の中生きていけるのだろうか。
 「香、どうしたの?」
 「稲穂見て、自分のこと考えていた」
 「稲穂見て?すごい才能だね。ふふっ」悠が目を見開く。
 「あれ。飛躍して伝えちゃった。ふふっ」香は自分でも突拍子もない伝わり方になったことがおかしかった。
 「そろそろ進路のこと。決めないとだなーって思って」香がのけぞる。
 「ね」悠が感慨深げな顔をする。
 「私さ、桑原さんたちとは絶対違う高校に行きたいんだ。だからさ、今はあの人たちがどこの高校に行くのか一生懸命、聞き耳を立ててるの」
 「うん、うん。それは大事なことだよ」悠は香を諭すように少しどっしりと香の肩をおさえる。
 「今の私にできる精一杯の環境の変化は桑原さんたちと違う高校に進むことくらいだと思って」
 「うん。私はさヨシばあの家から通えるところにしようかなって」
 「えっ。悠はヨシばあの家に行っちゃうんだ」
 「あの家から家出ではない正当な理由で出られる方法を考えててね…」
 「うん。そっかあ。悠と離れ離れになっちゃうのか…寂しいな」
 「香はどこに行きたいか分からないけど香もヨシばあの家から通ったら?ふふっ」
 「えっ。その発想は思いつかなかったから。便乗しちゃっていいのかな。悠にはその手があったかと気づかされてばっかりだな」
 「ねっ。良かったら考えてみて」
 「うん」家と学校が両方変わる。大げさかもしれないけれどそれは今の香にとっては社会が変わることを意味する。その未来を想像したらどんよりした心に晴れ間が広がるような気分になった。

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