小説|「セレニティ模様」第7話
台所からご飯どきの良い香りが漂ってくる。ヨシばあとお母さんが肩を並べて一緒に作っている。後ろ姿からも良い雰囲気を醸し出している。お母さんもこっちに来た時のほうが心なしか優しい顔つきになっている。
「香、悠、ご飯できたよー」
「はーい」
テーブルいっぱいに手料理が並ぶ。畑でとれた秋野菜に始まり、唐揚げ、グラタン、フライドポテトなど、色とりどりの子ども好みのメニューが並ぶ。デザートもプリン、ゼリー、アイスなど。自分たち向けに作ってくれたことが嬉しいのだ。もちろん味も最高においしくて体も心も満たされる。
「おいしい」香が唐揚げを口いっぱいに頬張る。
「おいしい」悠はフライドポテトをぱくぱくと口に運ぶ。
「いがったあ」ヨシばあがほほ笑む。しもぶくれのほっぺと細めた目が相まって七福神みたいだ。
「ゆっくり噛んで食べれな」お母さんが香と悠を交互に見る。
食卓の温かさはヨシばあの家で教えてもらったといっても過言ではないと香は思う。
「なにが甘いものも食べるが?」台所から戻ってきたヨシばあがエプロンで手を拭きながら聞く。
「ア、 アイスって食べていいの?」悠が聞く。
「いいべえ。どれ」そう言ってヨシばあが冷蔵庫へ向かう。
「やったあ」悠が小さくガッツポーズを作る。
「やったあ」香も便乗する気満々だ。
*
こんなに楽しい時間に水を差すようだけれど二人にはアイスと言えば思い出すエピソードがある。
それは去年の冬、実家の居間で香と悠が一緒にアイスを食べていたときのことだ。
偶々トメさんに見つかった。居間の引き戸が開いてトメさんと目が合った瞬間、トメさんが眉間にこれでもかというほどの皺をため顔をしかめた。
「こんな寒いときにアイスなんか食べているの?信じられないわね」と二人を凝視した。
それでも香と悠はアイスが溶ける前に食べ終わりたい一心でその顔を前にしても二人で食べ続けた。
それが一度で終わることはなく後日またしても同じシチュエーションがやって来た。
子どもの体温は大人より高いらしい。だから冬でもアイスを欲するのはもはや普通のことかもしれないじゃんかと思う。
「アイス食べたいな」香が言うと
「トメさんがいない内に食べちゃおうよ」悠が冷凍庫に向かう。香もそれに続く。
二人でそんな会話をしてアイスを食べた。
そうして食べ始めてまもない内に玄関の戸が開く音がした。
「げっ」悠が言う。
「えっ。トメさん帰ってきたの?」香が小声で言う。
あろうことかこのタイミングでトメさんが帰ってきた。そのまま居間のほうに歩いてくる気配がする。居間の引き戸のガラス細工にトメさんの影が映った。
まずい。万事休す。思考が止まる香をよそに、香が隣を横目で見ると、悠は咄嗟に持っていたアイスをコタツの下に隠した。香もそれに倣う。
その瞬間、居間のドアが開いた。トメさんが部屋を見渡す。何を話すでもなく戸を閉め自分の部屋へ向かった。
トメさんがいなくなると悠は何事もなかったかのようにコタツからアイスを取り出しまた食べ始めた。
「香も溶けちゃうからコタツからアイス出したほうがいいよ」
「あっ。うん」呆気にとられる香。それをよそに悠はしっかりアイスを食べ始めている。
「トメさんって帰ってきたとき必ず居間に来るけどさぁ」悠が小声で言う。
「うん」
「いつも何も言わずに戸を閉めて自分の部屋に行くから。一瞬だけコタツにアイスを隠しておくといいかも」
「ははっ」物心ついたころから香のそばにはいつも悠がいた。一人だったら辛いことも悠がいると面白く思える。
ヨシばあの家にいるとき実家と距離を置いているから客観的に自分たちのことを見ることができた。
