小説|「セレニティ模様」第39話
白に小花柄があしらわれた急須。ヨシばあが二人分の湯飲み茶わんに煎茶を淹れる。
夜の静けさ。とくとくと注がれる煎茶。心を落ち着かせてくれる。一呼吸おいて物事を考えることができる、と八重子は思う。
「二人とも寝でら。疲れだべ」ヨシばあが八重子の前に湯飲み茶わんをそっと置く。
「うん。子どもだどってな。ちゃんと親のこと見でらんだもんな。要らね気遣わせでしまっだ」
「んだ。香と悠だば、よおおおーっぐ見でらど」
「トメさんと和夫さんのことに気遣って、気取られで香と悠のことは後回しにしてたんでねえが」
「うん。二人ともしっかりしてるがらってな」
「二人のごど考えでやれな。しっかりしででもまだまだ子どもだ」
「んだな。まず学校のこどな。担任の先生に相談するべな。卒業の年だがらこのまま出席して卒業してほしいと思ってしまうどもな。だめだ、だめだ」八重子が小さく首を振る。
「そこで無理させれば一生の傷になるがもしれねえど。困ってるって話してくれたこど無駄にするなよ」
「それだば、んだ。もちろんだ」
「そただにひどい学校だば行かせねくてもいいんでねえべが。お義母さんになんと言われてもおめが守ってやれよ」
「んだ」八重子がお茶を一口飲む。そして深く息をはく。
「おめも一人で抱えねでおれに話せな」ヨシばあがお茶をすする。
このとき悪いとは思いながらも香と悠は引き戸の向こうで耳を澄ませていた。
少し引き戸を開ける。
「あ…ヨシばあと目が合っちゃった」香が悠の方を向く。
「なに、二人どもいだのが。こっちゃ来い」ヨシばあが手招きする。
「うん。私の話してたから。つい気になっちゃって」香はバツが悪そうに苦笑いする。
「あのさ。担任の先生に言っても無駄だよ。根本的な解決はしないから」
「ん?」
「あの人、生徒たちにすらとかくイケてるグループの人たちに気に入られようとしてるもん」
「ん?」
「先生だけど生徒みたいなもんっ。私みたいな地味で目立たない生徒のことは眼中にないよ」
「そんたことねえべ」
「それがあるんだよっ。先生がそんな感じだから話しても無駄だよ」
「んだなが。んだどもまず担任に話してみねばと思ってら」
「勝手にすればいいよっ」話し始めたら無性に苛立って居間から飛び出した。自分でも信じたくないことを自分で言って伝えなければならないことが無念でならない。
「あ。香?」悠が追いかける。
香は部屋のドアをぴしゃりと閉めて声を殺して泣いた。
「トントン。香?」
「うん」
「ちょっとお邪魔してもいい?」ドア越しに悠の気遣いがちな声が聞こえる。
「いいよぅ」悠と接すると心の中にあるぎすぎすしたものが取れていく。イライラがなりを潜める。
子どもの頃からそうだった。同じような境遇で同じような苦労をしてきたからだろうか。悠の頑張りがわかるからだろうか。悠といると意地を張るのをやめようと思える。
