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小説|「セレニティ模様」第6話

土曜日の昼下がり。秋晴れ。
お馴染みの田舎道。お母さんが運転する白い軽自動車。エンジン音とともに香と悠を乗せて走る。
 国道から逸れて小道に入る。両側が木々に囲まれた坂道に入る。自然むき出しの大きな木々が立ち並ぶ。ぎりぎり車がすれ違えるくらいの道。車窓のすぐそばまで枝が伸びている。
 坂道を上り切ると眼下に広がる田園風景。下っていくと次第に集落が広がる。ほとんどが田んぼでぽつぽつと民家がある。民家と同じ並びに小さな個人商店がある。
黄金色の稲穂が風になびき右へ左へと揺れている。
 その集落を通り過ぎ右折するとさらに狭い道がある。小さい舗装の怪しい道路。その両側にはりんご畑が広がっている。自然むき出しの木々とは違い、管理された木々が一定の間隔を開けて並んでいる。陽を浴びて葉がつやつやと輝いている。
 その一本道を通り抜けるとまた別の集落がある。そこにヨシばあの家がある。りんご畑が終わりまたまた田んぼが広がる道。
その一角に青い屋根、シルバーの外壁の家が見えてくる。
「ヨシばあの家だ」香と悠の弾んだ声が重なる。

 *
 砂利道を通るとヨシばあの家はすぐそこだ。
 ガラガラガラガラ。お母さんが玄関の引き戸を開ける。
 「ただいまぁ」お母さんがヨシばあの家の中に入る。
 「よくきだね。上がれぇ。香も悠もよぐきだね、ねっ」ヨシばあが玄関マットに正座して迎え入れる。砂利道を走る車の音を聞いただけでお母さんの車だと分かるらしい。
 ヨシばあは孫二人が靴を脱ぐのを見守り、それができると自分の片手に一人ずつ孫の手をつなぎ居間まで歩く。
 香はヨシばあの家に着くとほっとする。
ヨシばあの家には今流行りのゲームもなければ近くにショッピングセンターもない。けれど家の周りを歩いたり花を摘んだりシロツメクサで花冠を作ったり。ヨシばあが育てている自家栽培の畑を見に行ったり収穫したり。家の中では色塗りや本読み、パズル、おはじき、けん玉をしたり。その過ごし方が香と悠に合っていた。
何よりヨシばあの家では緊張が解かれる。気を張らなくていいし、同じ家にいる大人の機嫌を窺わなくていい安心感がある。お母さんの表情もこわばっていないように見える。
もはやずっとここで暮らせたら良いのにと香は思う。何も気にしないで短冊に願い事を書けるなら、そう書きたかった。
香は浮かれ、実家ではできない子どもらしさを発揮する。
あるときけん玉で遊んでいた香は手が滑ってうっかり足にけん玉を落としてしまった。ドンッと鈍い音がして、その音に気づいたヨシばあは顔面蒼白で駆けつけた。
「大丈夫だが?」フローリングの上に座りこんだ香の前に、ヨシばあが膝をついた。目線を合わせ香の両手を握る。
「うん。大丈夫」痛みはあったけれどこれくらいなら本当に大丈夫だった。
ヨシばあの顔に少しだけ血色が戻る。
 「やえこー」ヨシばあがお母さんを呼ぶ。
 「はーい」お母さんがエプロンで手を拭きながらやって来る。
 「香の足にけん玉が落ちでしまった。ケガさせで帰すなんてごどしたら大変だあ」
 「あらー」お母さんは思案顔だ。そのまま二人は部屋の隅でなにやら小声で話していた。
 ヨシばあは、孫がここに来たときに何かあったら一大事だと気を遣っていた。
 「香、大丈夫?」悠も夢中でテレビを観ていたのに来てくれた。
 「うん、大丈夫。向こうに帰るほうが気持ち的に大丈夫じゃない。とかって」香が苦笑いする。
 「そうだよねぇ」悠は冗談にはとらえないよという風に真顔で言う。それからふっと笑って
「ここで暮らしたいねぇ」と首を小さく傾げる。
「ねーっ」その声が重なって二人で笑った。
冗談みたいに話せる相手がいるしあわせ。そうやって話すと深刻なこともいくらか和らぐ。

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