M&Aのれんを償却しなくなったらIPO市場はどうなるか?
のれんを償却するかどうかの議論が高まっています。
その妥当性については会計の先生方に議論をしていただきたいのですが、ここではIPO市場に与える影響を考えてみましょう。
ことの発端
ことの発端は、いわゆるスタートアップ界隈が、のれんの焼却により、帳簿上は債務超過にあることから、投資家からの調達が難しいと言うことを主張していたことにあります。さらにこのことから、M&Aに及び腰になると言うものです。のれん償却前のEBITDAベースで議論をしたら良いのでは、IFRSを採用したら良いのではと言う疑問が湧きますが、後者についてはそこまで高い監査フィーを払えないということです。
のれん非償却の問題点
のれんを減損テストによって償却する、つまり会計期ごとに、非買収企業の実態をチェックして、そののれん価格の妥当性をチェックすると言うことには2つの問題があると考えられます。
(1)数値を信頼できるか
(2)追加コスト(負担)
(1)については、何らかの事情により、経営者の意向を強く反映することを許容する監査人であれば、減損テストの結果に経営者の恣意性が入る余地が出てきます。
(2)については、IFRSを採用するコストは高いと言う企業にとっても、減損テストと言う新たな会計処理を依頼することにより追加的な費用負担は覚悟しなければなりません。それは定額償却の現在の日本基準よりは高いものになるでしょう。資金に余裕のないスタートアップ企業にとって、そのような追加費用は支払い可能なのかが疑念となります。
もちろん、会計監査をする監査法人の側にも追加負担になります。
IPO市場が狭まる可能性: レモンの問題
M&Aはスタートアップ企業同士でも頻繁にみられるようになり、最近ではM&Aにより規模を大きくしてからIPOをすることが模範的だとされるようにもなっています。
ただし投資家にとっては、(1)数値を信頼できるか、と言う疑念が常に頭をよぎることになります。その状況で、
1. M&Aを多くこなしている
2. 直近の決算ではのれんの償却はゼロにちかい
という企業がIPOをするとなった時に、その状況を素直に受け入れることができるでしょうか。例えば、とんでもない減損を隠しているのではないか、との疑念はわかないでしょうか。
直近ではオルツのような、結果としてはシンプルな循環取引ですら、主幹事証券会社、監査法人、証券取引所審査をすり抜けていました。
もし疑念が湧くとすれば、それは、IPO時、あるいはその後の株価の低下に繋がりかねません。それは、実際に減損を隠している企業のみならず、実際にはうまくいっている企業をも晒すことになります。
つまりM&Aを通じた規模の拡大によるIPO企業の大型化という当初の目標が果たせなくなる可能性があります。
経済学的には古典的な情報の非対称性の問題が発生していることになります。
IPO市場が狭まる可能性: 監査を誰が引き受けるのか
IPO準備企業は監査人を見つける必要があります。IPOの少なくとも2年前からは監査を受けて、準備をする必要があります。ここで問題になっているのはIPO予備軍企業の増加と、それらを全て監査することができないという、いわゆる「監査難民」問題です。難民という言葉を気安く使って良いのかという疑念はあります。
IPO企業は小さいことから、監査費用は抑えられたものです。そのために監査費用も低いものになります。監査法人は、昨今の監査対象の増加により、慢性的な人手不足のため、あまり売上の大きくないIPO準備企業の監査を見送ると言われています。
もしその上に減損テストといった新たな作業が増えるのであれば、IPO企業離れが加速する可能性があります。
これらを考えると、今回ののれん償却・非償却は、大きな、予期せぬ波及効果を及ぼす可能性もあります。
