人を変えるより、配置を変える。マネジメントの「パワプロ理論」
組織のマネジメントについて、どうやったらうまくいくんだろうと迷っていた時期がある。
どうすれば、みんなのモチベーションを上げられるのか。どうすれば、それぞれが自分から動き、力を発揮できるようになるのか。マネジメントを考え始めると、どうしても「人をどう変えるか」という方向に考えが向きやすい。
そんなとき、合同会社エスプーマの代表を務める安藤健作さんから、印象に残る話を聞いた。
メンバーのモチベーションを上げることは、もちろん大切だ。でも、それがマネジメントのすべてではない。それよりも大事なのは、目標やゴールに向かって、誰をどこに配置し、どのような役割を担ってもらうのかという、リソースの配置だという話だった。
モチベーションを上げる前に、配置を考える
人には、それぞれ得意なことと苦手なことがある。
苦手な仕事を任されている人に対して、「もっと頑張ろう」「みんなで飲み会をやってやる気を出そう」と声をかけ続けても、なかなか結果にはつながらない。本人に能力がないのではなく、ただ置かれている場所が合っていない可能性もある。
それなら、本人を変えようとする前に、配置を変えた方がいい。その人が得意なことを見つけて、その領域にできる限りリソースを集中させる。苦手な部分を何とか平均まで引き上げようとするよりも、得意なことに全ベットする。
この考え方を聞いて、僕はかなり納得した。
人を成長させることも大切だけど、まず考えるべきなのは、その人が本当に力を発揮できる場所にいるのかということなのだと思う。
マネジメントの「パワプロ理論」
安藤さんは、この考え方を「パワプロ理論」と表現していた。
『実況パワフルプロ野球』という野球ゲームには、さまざまな能力を持った選手が登場する。パワーが強い選手もいれば、ミートがうまい選手もいる。足が速い選手、肩が強い選手、守備が得意な選手もいる。
マネジメントを始めると、多くの人は最初に「オールA」の選手を欲しがるらしい。
何でもできて、自分で考えて動けて、コミュニケーションも取れて、ミスも少なく、どんな仕事でも任せられる人。確かに、そんな人が何人もいれば、組織は運営しやすいと思う。
でも、実際の人間はそんなに単純ではない。
僕自身もそうだけど、誰にでも得意な領域と苦手な領域がある。何でも平均以上にできる人もいれば、できないことは多くても、ある領域では圧倒的な力を発揮する人もいる。
だから、全員をオールAにしようとするのではなく、それぞれの能力の凸凹を見たうえで、配置を考える必要がある。それがマネジメントなのだと思う。
肩の弱い選手を、センターに置かない
この話で特に分かりやすかったのが、「肩の弱い選手をセンターに置かないでしょう」という例えだった。
肩の弱い選手をセンターに置いて、毎日「もっと遠くまで投げられるように頑張れ」と言い続ける。本人が努力すれば、多少は改善するかもしれない。
ただ、その選手には別の強みがある可能性がある。打撃がうまいのかもしれないし、足が速いのかもしれない。内野であれば、優れた守備力を発揮できるのかもしれない。
それなら、肩の弱さを責め続けるよりも、その強みが生きる場所に配置した方がいい。
仕事でも同じだと思う。
企画を考えるのが得意な人もいれば、人との調整が得意な人もいる。細かい作業を正確に進められる人もいれば、物事を前に進める力が強い人もいる。一人で集中して作る方が力を発揮できる人もいれば、多くの人と関わることで力を発揮する人もいる。
全員に同じ働き方や能力を求めるのではなく、その人が一番力を発揮できる場所を探す。
人を変えることより、まず配置を変える。
この発想は、僕の中でとても大きかった。
万能な人だけが、優秀なわけではない
組織では、何でもある程度できる人が重宝されやすい。パワプロで言えば、オールBやオールCのような選手だと思う。
どこに置いても大きく崩れず、いろいろな仕事を任せられる。確かに、そういう人は優秀だし、組織にとってありがたい存在だ。
一方で、能力の一部が突出している人もいる。できないことは多いけれど、ある領域では圧倒的に強い。
そういう人を「使いづらい人」と見るのか、「強みを生かせば大きな力になる人」と見るのか。そこには、マネジメント側の力量が表れる気がする。
全員に平均点を取らせることが、組織づくりではない。それぞれの強みを組み合わせ、チームとしてゴールにたどり着ける形を作る。
一人ひとりがオールAである必要はない。チーム全体として必要な能力が揃っていれば、それでいいのだと思う。
任せるなら、権限も渡す
ただ、得意な場所に配置するだけでは足りない。
その人に仕事を任せるなら、必要な権限も渡さなければならない。「自由にやっていい」と言いながら、細かい判断にすべて口を出したり、失敗しそうになると途中で仕事を取り上げたりしていたら、本人は自分の力を発揮できない。
得意な領域を任せ、必要な権限を渡し、自分で考えて動いてもらう。
そして、その結果に対する最終的な責任は、マネジメント側が引き受ける。
ここまで含めて、初めて「任せる」ということになるのだと思う。
任せた人の責任は、自分が取る
人に権限を渡せば、当然、思いどおりにいかないこともある。判断を間違えることもあるし、失敗することもある。
そのときに、「本人が勝手にやったことだから」と切り離すのであれば、それは本当の意味で任せたことにはならない。
誰をどこに配置するのか。どこまでの権限を渡すのか。どのような目標を設定するのか。それを決めたのは、マネジメント側だ。
だから、その人が動いた結果に対する責任は、自分が取る。
僕は、この話を聞いて、マネジメントの本質はここにあるのかもしれないと思った。
人を管理することでも、全員のモチベーションを常に高く保つことでもない。それぞれの能力を見極め、適切な場所へ配置し、権限を渡す。そして、最後は自分が責任を取る。
人を変えようとする前に
もちろん、苦手なことをまったくやらなくていいという話ではない。仕事をする以上、最低限できなければならないこともあるし、新しい能力を身につけることで、その人の可能性が広がる場合もある。
ただ、組織がうまくいっていないときに、すぐ「本人のやる気が足りない」「もっと成長してもらわなければ」と考えるのは違うのかもしれない。
その前に、マネジメント側が考えることがある。
この人は、本当に力を発揮できる場所にいるのか。役割と能力は合っているのか。十分な権限を渡しているのか。そもそも、配置を間違えていないか。
肩の弱い選手をセンターに置いたまま、肩を強くする努力だけを求めていないか。
人を変えるより、配置を変える。弱点を埋めさせるより、得意なことを伸ばす。そして、任せた結果の責任は自分が引き受ける。
安藤さんから聞いたこの「パワプロ理論」は、僕がこれから組織や人について考えるとき、何度も思い出す考え方になると思う。
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