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剣は吉備に還る──神話とふつのみたまの謎

歴史ミステリー プロローグ

「ねえ、ゆいちゃん、これさ、まだ"動いてる"感じしない?」
三奈ちゃんが耳に押し当てたのは、あの石の破片だった。
岡山大学のJテラスカフェ。全面ガラス張りの窓から、やわらかな木漏れ日が差し込む昼下がり。おしゃれな木のカウンターに、甘ったるいチョコタルトの香り。でも、今このテーブルの上に広がっているのは──登山用の地図、汚れたノート、割れた黒いかけら。場違いすぎて、ちょっと笑える。
「ねえ、ゆいちゃん、これさ、まだ"動いてる"感じしない?」
そう言って、三奈ちゃんが耳に押し当てたのは、あの石の破片。山頂で拾った、あの"ひび割れた心臓"みたいな石。
「……それ、ただの鉱石だって」
「えー。でも、なんか、音がする気がするんだけどな……くっくっくって」
「それ、お腹じゃない?」
「ちがーう、石!」
──剣山。あの山で、私たちは何かを見た。神話でも伝説でもない、もっと生々しい"なにか"を。
だけどたぶん、あの日の始まりはもっとささいだった。三奈ちゃんが突然、スマホ片手に言い出したのだ。
「ねえ、古墳ってハート形だったんだよ?」
「は?」
あの一言がなかったら、私たちは、あの山に登っていなかったし、こんなふうに、心の奥が静かにざわつくことも、なかったかもしれない。
私は、神楽結衣。なんの変哲もない大学生。考えるより、まず走るタイプ。
三奈ちゃんは、直感で世界を掴んでいる──そんなふうに見えることがある。宇宙的な愛を持っていて、言葉にできないものをいつも受け取っている。最初は、私にはちっともわからなかった。でも今は、ちょっとだけ、憧れてる。
……たぶん、すべてはもう始まっていたんだ。
父が遺した、意味不明な言葉の通りに。
「この"ネコ"が目覚めるとき、日本は再起動する」
あれは、地名じゃない。暗号だった。
わかってる。もう、戻れない。
──そして物語は、あの午後へとさかのぼる。チョコタルトと、UFOと、ハート形の古墳から始まった、あの日へ。


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