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知っていますか? 名前の由来

 みなさんはご自分の名前の由来をご存知だろうか。小学校の宿題で「調べてみましょう」と出されるイメージがあるので、その時親御さんに聞いてみるものかもしれない。

 私はテレビドラマか何かで、まあ仮に「美香」ちゃんとしよう。美香ちゃんの名前の由来は「美しく香るような子になって欲しかったから」などという素敵な逸話を聞いて、親は子供の名前に特別な価値をつけるものだと思っていた。

 子供特有のうぬぼれで、当然、特別な私には特別な名前の由来があるはずと信じていた。ヴェルタースオリジナルのようにね

おじいさん

 それで母に聞いてみたが、「イェクちゃんの名前はおじいちゃんがつけたのよ。おじいちゃんに聞いてみなさい」と言う。なんで母は娘の名前の由来を覚えていないのだろうか。そんなことあるだろうか。出産のドサクサで忘れ去ったのかもしれない。

 まあ、それはどうでもいい。とにかく、当時離れて暮らしていた祖父に聞かねばわからないということなので、私はワクワクしながら祖父に会える日を待った。

 待つ間にも私の妄想は膨らむ。

 イェクか。

 多分イェは家だろうから、クと合わせて何か意味のある名前に違いない。クは……九か? 九代に渡って家が栄えるようにとか? あるいは、久か? イエヒサだと徳川将軍家みたいな名前だが大丈夫か? でもいずれにせよ家が栄えそうではある。

 そんなこんなで、祖父の家に顔を出す日がやってきた。

 祖母は私が1歳くらいの頃に亡くなったので、祖父はなんやかんや田舎でマンション暮らししている。近所に叔母が住んでいるが、一人が気楽なのだという。

 ところで私、一歳くらいの頃に祖母も父も失ってるけど家族縁薄すぎない? イエヒサどころの話じゃない。まあ、母はそれ以上に旦那も母も娘も妹も失ってるから縁がないのは母の方か? あるいは私を産んでから母の苦難が始まってるのか。

 まあどうでもいい。とにかく祖父への挨拶もそこそこ、私は自分の名前の由来を聞いた。すると祖父はニコニコしながら、和室の畳の上に分厚い本を持ってきて、指をなめなめページをめくった。

古い本

「イェクちゃんの名前はねえ、この本から探して取ったんだよ」
 と言う。

 私はなーんだと思った。家を栄えさせるとか大した意図など無いらしい。どころか何か考えてつけた名前じゃないらしい。適当に名前辞典から抜粋したのだ。私のふくらんだ期待は針を刺された風船のごとくしぼんでいった。

「へー。意味は?」
 と一応聞いてみる。
「意味は……なんだろうねぇ。忘れちゃった」
 祖父はポリポリと頭をかきながら、しわしわの顔にくしゃりと笑みを浮かべる。

 まあ、私を含めて孫は何人もいるので一人ひとりの名前の由来なんて覚えてないだろう。
 私はがっかりして、もう興味もなかったが、一応祖父に教えてもらった命名の本を見つめた。確かにイェクと書いてあるのだが……特に意味もないなんて。

 そこで私は命名辞典のことも由来のことも忘れることにした。私の名前は私の名前であるというだけで尊いし、名前に意味があるのではなく、私に意味があるのだ。だいたい、私のひいばあさんなど、子どもが生まれすぎて困った末にもう生まれてくるなと「トメ」とか「スエ」とかいう名前をつけられている。それに比べればなんぼかマシである。名前なんて飾りだ。

 ということでイェクが本名のように書いてみた。家久か……家督を継ぎそうな感じで悪くない名前である。

 まあ、自分で命名するわけでないのだから名前に納得いかなくても仕方がない。花は植えられた場所で咲けという話もある。

 素晴らしい名前の由来がある方は幸いだが、そうでなかったとしても腐らず自分の名前ごと自分を愛せるならそれで問題ないと思う。


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