「秒速5センチメートル」 完結編 2次創作 閲覧注意 この作品はハッピーエンドになっています。最後に実写版の小説に載っていた二人の手紙を付記します。
ホワイエで明里は佇んでいた。
貴樹くんに会える確率は33%にまであがった、はず。
ランデブーがもう目の前にまで来て、明里の足は震えた。
「貴樹くん、今頃、お昼かな。というか、ここに来るかな?」
来ない確率は67%
そんなネガティブな気持ちも交叉する。
「あ、どうも。どうでしてたか? 今日のナレーションは?」
館長の小川だった。
ホッとしたような、がっかりしたような気持ちになる。
「あの、とてもよかったです。何というか懐かしいような・・・。」
「懐かしい?ですか。もしよければどんなところに郷愁を?今後の為にお聞かせください」
明里は迷った。まさかナレーションをした貴樹くんとは小学生の時、付き合った人で、彼から色んなことを教えてもらい、今日の言葉の中に、同じ言葉がいくつもあり、一人泣いてました。
なんて言えない。
「あの、星は見えなくてもあるんだよとか、月は昼間でも見えるとか」
「あ~、あそこ。良いですねぇ。今日みたいな雨でも、星も月も見えませんが、確かにそこにあるんですよね。そしてちゃんと影響している。」
「重力?でしたっけ?」
「そうです。重力です。この重力はまだ実は未解明の謎の力なんです。だから彼は」
言葉を遮るように青いブルゾンを着た男性が話しかけてきた。
「館長!」
明里は一瞬、貴樹くんかと思ったが、違った。
「あ、すいません、これから午後の打ち合わせです。お昼ご飯食べながらですけどね。また来てくださいね。あ、あと紀伊国屋さんのワークショップ、行きますよ!では」
深々と礼をすると、小川は足早に去っていった。
「重力は未解明の謎の力・・か。」
窓の外を見ると、相変わらず雨が降っていた。
「秒速5メートルなんだって!」
え?っと振り向くと、今日も休みなのか、子供たちが話していた。
「雨の落ちる速度は秒速5メートル。時速にすると~」
子供らの後ろに背が高い男性が立っていた。
「時速18㎞だよ。100メートルなら33秒かかる速度」
その男性は貴樹だった。
「あ、プラネタリウムのお兄さんだ!さっきの話、とても面白かったです!」
「そうですか。よかった。世界の出来事を数字で理解すると、いろんなことがただ偶然ではなく、ある法則をもって起きていることがわかるんだ。だから世の中の出来事はすべて数字に置き換えられる」
「でも、お兄さん、僕のお父さんがよくお母さんと結婚して僕が生まれたのは奇跡だったとよく言うんだけど、それも数字で言えるの?」
「いい質問だ。確かに人と人の出会いは数値化するのは難しい。でもね、天文学者が計算して、人と人との出会いは0.0003%。つまり300万分の1.だから結婚して君が生まれる可能性はざっと見積もっても、0,0000000000003%ぐらいかな。だから君が今ここにいて、こうして僕と話すのは、まさに奇跡なんだ。」
「へぇ!すごいな!」
「世の中は奇跡の連続なんだ。だから君たちにも奇跡を発見してほしい。まだまだ発見されていない奇跡が、この日常の中に隠れてる」
「私、発見したよ!」
ちょっと背の高い女の子が手を挙げた。
「なんだい?」
「私、 昨日、モンキチョウを見たんです」
「あ、あの、黄色いモンシロチョウ!」
男の子が素っ頓狂な声をあげる。
「ちょおと、黄色いからモンキチョウ!
でね、そのモンキチョウを3日連続で見たら、ケンカしてた子から手紙が来て、仲直りしましょう!って!今はその子と親友なんです!これって蝶々が何か教えてくれたような気がして。ほら見て!」
彼女の背中のリュックにはモンキチョウのキーホルダーがぶら下がっていた。
「そうだよ。それも奇跡。数字にすることは難しいけど、人の心も数字で表せる時代もきっと来るよ。そうだ、よかったら、あそこの掲示板に、君たちが発見したことを張ってほしいんだ。奇跡でもいいし、身近なことなんでもいい」
「はい、わかりました!」
子供たちは元気よく、その掲示板に向かって走っていった。
貴樹はその後ろ姿をみつめ、にっこり笑っていた。
「昔の僕みたいだ。世界は光でキラキラしていて、何もかもまぶしかった」
「あの・・。」
振り返ると、そこに明里が立っていた。
しばらく沈黙が続いたが、貴樹が声を発する。
「あ、あかり?」
「え、うん。」
「明里なのか!やっぱり!」
「やっぱりって?」
「その、昨日、高校の恩師に電話して、就職が決まったって報告したんだ。その時に、篠原明里覚えてる?って言われたんだ。だから知ってるけど、何か?って聞いたんだけど、先生何も言わなくて。ただ明日会えるかもよって言って、電話切られちゃった。だから眠れなくなって。なんで先生その名前知ってるのとか?昔のこと思い出して。だから君の姿、後ろ姿だったけど、すぐにわかった。話しかけようと思ったら、ほら、今の子供たちにつかまってしまたんだけど」
「つかまったじゃなく、捕まえたでしょ。ふふふ。」
「確かに」(笑)
2人は、懐かしさと嬉しさと2つの感情が交じり合い、笑みがこぼれた。
「奇跡かな、これも」
「うん」
しばら沈黙が続いた後、明里が声を出した。
「カラーバス効果、だね」
「青いバスを意識すると、その日、沢山、青いバスを見るようになる」
貴樹が答える。
「あの女の子も、モンキチョウを見て、急に意識したんだろうね。それまでも身近にいたはずの蝶々だったはずだけど、意識してないから見えなかった。そして3日連続見た後に、友達から手紙が来た。それを人は奇跡という」
さっきのナレーションの声が、今、明里の前で聞こえてくる。
「貴樹くん、相変わらずだね。ほんと変わらない。背はすごい伸びたけど・・・。」
「明里も全然変わらない。メガネしてるけど・・・。」
(笑) (笑)
「今日はカラーバス効果ですぐに見つけられたのかな?
だって、あれから13年だよ覚えてる?私の地元に貴樹くんが来てくれて。
私が11時過ぎまで駅舎で待ってて。
あの時は永遠に会えないんじゃないかって。」
「ごめん。13年たっても、あの日の事を思い出すと胸が痛むんだ。
僕も明里は絶対いないと思ってた。でも雪で引き返すこともできない。
あの頃は携帯も無くて、ほぼ絶望の淵にいた。」
「いいよいいよ、謝らくて!携帯がないって今なら地獄だよ!」
「ははは、そうだね。でもさ、飽きに着いたら君がいた。奇跡だと思った。
今でもあの日の夜の奇跡は、僕に強烈に残ってるんだ」
ホワイエにはいつの間にか二人になっていた。
1時からの上映でみんなプラネタリウムに入っていったのだ。
「あ、もう上演はじまっちゃうよ!どうしよう。貴樹くん、お仕事!」
「実は僕は午後は仕事ないんだ。プログラムのバグも無くて、もう今日は非番。よかったら、お昼ご一緒に。もう、お腹すいてしまって!」
「うん、いいよ。私もお腹すいちゃった!」
2人は傘をさして街へ繰り出しゆく。
その2つの傘を、上から見ていた小川は、思った。
「この世の奇跡は重力だけではない力が働いている。それを人は『思い』という。『思い』は光速を超え、時間をも超える。これは物理学でも解明できない永遠の謎なんです。」
永遠に会えない気がしたあの日。
渡せなかった手紙には、二人の思いが綴られていた。
渡せなかった思いは、今こうやって二人に届いた。
秒速5センチメートルずつ開いていった距離は、
2人の思いで、またひとつになった。
終わり
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エピローグ
12歳の貴樹から12歳の明里へ
明日会ったら直接伝えるつもりですが、もし言えなかった時のために今、この手紙を書いています。
大人になるということが具体的にはどういうことなのか、僕にはまだよくわかりません。
でも、いつかずっと先にどこかで偶然に明里に会ったとしても、恥ずかしくないような人間になっていたいと僕は思います。
そのことを、僕は明里に約束したいです。
明里のことが、ずっと好きでした。
どうかどうか元気で。
さようなら。
遠野貴樹
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12歳の明里から12歳の貴樹くんへ
月が輝いて見えるのは太陽の光の反射。
前に貴樹くんがそう教えてくれたのを覚えていますか。
それを聞いた時、まるで貴樹くんと私みたいだと思いました。
私は、明里という名前の響きをずっと好きになれませんでした。
転校先ではいつも暗い子だと思われていたから、名前に自分が似合っていないことが恥ずかしかったのです。
あの時、貴樹くんが言ってくれた言葉が今でも私を明るくさせてくれます。
貴樹くんは私にとっての太陽でした。
貴樹くんの言葉と、「明里」と呼んでくれるその声で、私は強くなれました。
貴樹くんのことが好きです。
今までずっとありがとう。 元気でね。
篠原明里
