【この夏の星を見る】読書感想文 #辻村深月の本全部読む⑮
「どんなに離れてても、同じ空で繋がってる」
人がこの言葉を使う時、大体昼間の青空を想像すると思います。星空は都会か田舎かで見え方が違うから。でも見え方が違うだけで同じ星空は確かに存在している。
渋谷と茨城と五島列島と、交わるはずのない学校とその生徒が、星空を媒介として繋がっていく、そんな物語です。
【小説の背景】
辻村深月の小説には、時代を映す鏡のような側面があります。
SNSやいじめ、虐待や待機児童など、当時の社会問題を小説に落とし込むことが多い作家だと、勝手に私は思っています。
そしてこの物語の時代は2020年度、「コロナ時代」です。
自分は大学生として経験したコロナ禍の世界、実感を持って主人公に感情移入してしまいました。
とても丁寧にコロナ禍の情勢と等身大の高校生の気持ちを描写しているので、将来コロナを経験していない世代が読んでも違った面白さがあるんだと思います。コロナの流行った時期や症状など、とても丁寧に最初に説明していて、さすが辻村深月だと思いました。丁寧な作家、読者想いの作家です。
【感想】
コロナによる学生の心の葛藤や、それでもその中でもがいて、できる限りを尽くして人と繋がり、青春の思い出を作ろうとする姿、とても感動しました。中高生から大人まで、幅広く共感できる小説になっていると思います。
円華は「退出」をクリックした。緊張して力が入っていたことを、ひとりになると自覚する。
「ひとりになると」、と咄嗟に思った自分がちょっとおかしかった。最初からこの部屋で自分はひとりだった。「ひとり」っていったい何を基準に「ひとり」なんだろう
コロナ期間は人との繋がりの大切さを改めて実感した期間でした。場所を共有しなくても、時間を共有して同じ方を向けば、「ひとり」じゃなくなるんだなって再認識できたきっかけがコロナだったと思います。
好きだけど、進学先や、職業にするのには向いていない、ということもひょっとするとあるかもしれません。だけど、もし、そちらの方面に才能がない、と思ったとしても、最初に思っていた「好き」や興味、好奇心は手放さず、それらと一緒に大人になっていってください
仕事に活かせる活かせないが、学生時代ってとても重要視される傾向があるけれど、仕事に使えない、使いにくい「好き」を持つことについて大人が容認してくれるのは、学生にとってとても心強いですよね
【全体を通した感想】
コロナ禍で学生時代を送った身としては、現実であったことをそのまま書いているかのように思えて、ノンフィクションやドキュメンタリーに近い読後感を受けました。遠い世界の話ではなくてすぐ隣で実際にあった話って感じで、ここまでリアリティーをもって小説を読めたのは初めてです。
作中で大事件みたいなのは起きないんですけど、それぞれがずっとうっすら閉塞感や胸に詰まった感じを抱えていて、それをそれぞれが消化しての繰り返しで、とってもリアルですよね、「自粛」「ウィズコロナ」の独特な空気感が伝わります
こういう日常系の話って、後半ダレてきたりするんですけど、この作品はスターキャッチコンテストの縦軸があるし、最終盤で明かされるナスミス式望遠鏡への想いとか、飽きさせない展開がいっぱいあって、素晴らしかったです。その辺は流石ミステリー作家って感じで、ヒューマンドラマメインの話でもちゃんと伏線を張って種明かしを用意してるんですよね
【辻村深月らしさを感じたところ】
辻村深月は元々学園ミステリーを中心に学生の話を多く書いていたこともあり、学生の心の機微を書くのが本当に上手だなって、読んでて改めて感じました。
小さな恋心、小さな嫉妬心、小さな喜び、小さな安心感に小さな傷心、小さなモヤモヤやイラつき、全部丁寧に書いてある作品です
円華と輿くんが2人でオンラインで話してるところ、あそこがもう辻村深月の真骨頂なんですよね。
輿くんのもつ微かな恋心や、自分を理解してくれているとわかった円華が抱いた小さな幸せや安心感だったり、最後に2人で小さな秘密を共有するところの空気感は、読んでて小動物のように愛おしく感じました。
それでいてミステリー作家としてその会話の中に作中前半に仕込んだ伏線のネタバラシを仕込んでいて、このたった10ページだけどこここそが本当に辻村深月だなって思いました。とても良かったです。
【さいごに】
人間は奪われて初めて、当たり前だったものの尊さを知る。当たり前に人と会って当たり前に部活や趣味に取り組むってことが、如何に貴重なものだったかをコロナ禍になって初めて実感しました。
今、アフターコロナの世界、人と会って趣味をすることが当たり前の世界が戻ってきました。この尊さを忘れずに、今を全力で生きて、自分の好きを全力で追い求めたいです。
辻村深月の作品の中でも1、2を争うほど好きな作品でした。映画化も楽しみにしています。
【追記】 クロスオーバーについて
後々「家族シアター」を読み、壮大なクロスオーバーを知りました
辻村深月、本当に天才!!!!!!!!!9年越しのクロスオーバーなんて!!!!!だいすき!!!!!!!!!!ありがとう!!!!!!!!!!!
