のれん償却が不要に?スタートアップに追い風となる会計制度の見直し
近年、日本政府はスタートアップ育成に力を入れており、その一環として注目されているのが「のれん」の会計処理の見直しです。難しく聞こえるかもしれませんが、この動きは日本のスタートアップを取り巻く環境を大きく変える可能性があります。今回はその意義をやさしく解説します。
のれんとは何か?
「のれん」とは、企業がM&A(合併・買収)を行う際に、買収先の企業価値以上に支払った金額のことです。たとえば、あるスタートアップ企業を買収するときに、その企業の純資産が10億円でも、将来性やブランド力を評価して20億円で買収する場合、この差額10億円が「のれん」として計上されます。のれんは、目に見えない価値(無形資産)への支払いと考えられています。もともと、日本ではお店を引き継ぐ際に、信用や顧客のことを「のれん」としてしたことが由来です。英語ではgoodwillで、一般的な意味では善意や親切心ですが、会計用語としては営業権、のれん、無形資産となります。
なぜスタートアップに関係するのか?
スタートアップにとって、M&Aは重要な「エグジット戦略」(出口戦略)です。自社を他の企業に売却することで、創業者や投資家が利益を回収でき、次のチャレンジへの資金を得ることができます。
しかし、日本ではこのM&Aが活発に行われていないという課題があります。2020年時点で日本ではスタートアップのエグジットの76%がIPO(株式公開)で、M&Aは24%にとどまっています(失敗すれば、廃業です)。これに対し、アメリカではM&Aが90%、ヨーロッパでは67%を占めています。
国際会計基準との違いとは?
日本の会計基準では、「のれん」は最大20年で定期的に償却(費用として分割計上)する必要があります。これは企業の利益を圧迫し、買収に消極的になってしまう原因の一つです。
一方で、国際会計基準(IFRS)や米国会計基準では、「のれん」は償却せず、価値が下がったときだけ「減損処理」をします。つまり、買収時に計上されたのれんはそのまま残り、利益に影響しにくいのです。
世界標準に合わせる意味とは?
今回、政府の規制改革推進会議が、「のれんの償却を不要にする」「あるいは償却か非償却を企業が選べるようにする」制度変更を提案しています。
この変更により、以下のようなメリットが期待されています。
スタートアップのM&Aが活発になる
買収側の会計上の負担が軽くなり、より多くの企業がスタートアップを買収しやすくなります。
M&Aがエグジット戦略として一般化する
IPO以外にも売却という道が広がることで、スタートアップの成長と資金循環が促されます。
日本企業の国際競争力が高まる
国際会計基準との整合性が取れ、海外投資家からの評価も向上することが見込まれます。
投資家や経営者への配慮も必要
もちろん、非償却にすることで「損失を後回しにできるのでは?」という懸念もあります。買収した企業の業績が悪化した場合、大きな損失を一度に計上するリスクもあるため、毎年の減損テストや適切な情報開示が求められます。
まとめ
のれんの会計処理の見直しは、地味な制度改正に見えるかもしれませんが、日本のスタートアップ育成や国際競争力強化の面で大きな一歩です。日本が「投資大国」を目指す上でも、こうしたルールの更新は重要な意味を持ちます。
これを機に、M&Aがもっと身近な選択肢となり、起業しやすい社会が広がることを期待したいと思います。
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