子どもの経験を拡張するための情報機器活用
近年、教育の情報化が急速に進む中で、幼児教育における情報機器の活用にも関心が向けられている。
小中学校でオンライン授業が広がる一方、幼児期の教育と療育の領域では、その導入には慎重さが求められている。幼稚園教育要領は、情報機器を「幼児の体験を補完するもの」と位置づけ、直接的な遊びや経験を基盤に据えた上での活用を求めている。「幼稚園教育要領解説」第1章第4節3(6)でも、興味を示すからと安易に使用するのではなく、発達や意欲の流れを踏まえた目的意識が不可欠であると指摘する。つまり、デジタル機器の使用は五感を使った探索的な学びを拡張し、経験の深みを生むものでなければならない。
一方で、破壊的イノベーションの観点から教育を捉えると、情報機器の潜在力は「一人ひとり異なる速度とプログラムで学ぶ」個別化の実現にあるとされる。
しかし幼児教育では「何ができるか」という習熟度よりも、子どもの関心や意欲の方向を読み取り、それに応じて環境を整えることが重要となる。したがって、デジタル技術は子どもの発達のための個別的な環境を整える保育者の構想力と結びついて初めて意味を持つ。
このような観点から、VRやARは幼児期の経験を拡張する手段として注目される。園庭で見つけた虫の体のつくりを拡大して観察するような活用は、その端緒と言えるだろう。こうした技術が支援すべきは、現実の経験を置き換えることではなく、子ども自身の体験に奥行きを与えることである。
今後、保育者が子どもの一人ひとりの経験を即興的に支援するため、簡便な動画編集や音声合成を可能にするコンテンツ作成ツールが求められる。各種の生成AIの爆発的進歩はまさに、即興的な支援コンテンツの作成ツールとしての可能性を秘めている。
幼児教育におけるデジタル活用とは、決して画一的な教材提供ではなく、子どもの主体的な経験を起点に、その可能性を豊かに広げるための柔軟な道具としての活用でなかればならない。
